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 穂花は別れ際の千秋の笑みから直樹に対する性的欲求を感じることはなかった。その上、レイプされた時に見た間宮の歪な微笑みとも違って見えた。

「千秋くん、帰っちゃったね」

 下から穂花を見上げながら、怒ったような顔をして直樹は言った。

「そうだね」

「本当に大丈夫なのかな?」

「何が?」

「トオリマだよ。刑務所を出てたら、この近くに戻って来るかもしれないでしょう」

 出所した人間が事件を起こして捕まった界隈に戻って来る訳がない。やっぱりまだまだ子供だなと、直樹を見て穂花は思った。

「かもね。でも大丈夫だよ」

「何で?」

「だって、通り魔はもう死んだらしいから」

 穂花は弟を安心させる為に、事実を婉曲させて答えた。すると、穂花の予想通り、直樹はまず疑いの目を向けてきた。

「それって噂じゃないの?」

「噂じゃないよ。お母さんから聞いた話だし、確かな筈だよ」

「へぇ、そう」

 直樹は『はぁ』と大きな溜め息を吐くと、疲れたのか、その場で胡坐をかいた。

「でも、前にも話したよね?厭な予感がするって」

「うん」

「その厭な予感にトオリマが絡んでるような気がするんだけど、トオリマが死んじゃっているのであれば、関係ないのかな」

 正確に言えば間宮は死んだ訳ではないが、性犯罪者としては死を迎えたといっても強ち間違いではない。だから、今更間宮の影に怯える必要は皆無だ。しかし、直樹の言い方はどことなく、これから起こる凶事を暗示しているように穂花には聞こえた。

「もう、気味悪いこと言わないでよ」

「ねぇ、お姉ちゃん」

 穂花が無理してわざとらしく一人で笑っていると、おどおどしながら直樹は言った。

「僕に嘘吐いてない?」

 弟の鋭い感性に穂花はどきりとしたが、表情は平静を装った。

「吐いてないよ」

「そっか。なら良いんだけど……」

「もし……もし私が嘘を吐いていたとしたら、どうなるの?」

 神妙な顔で、穂花は恐る恐る尋ねた。

「必ずこうなるとは言い切ることはできないし、曖昧な光景しか浮かばないけど、トオリマが本当は生きていたら、お姉ちゃんは……」

「何?私は?」

「お姉ちゃんは、もう二度と千秋くんと会えなくなるような気がするんだ」

 は?何を言ってるの?この子は……。

 唐突に穂花の中で何かが崩れていく音がした。

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