表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

14

「また来てよ、千秋くん」

 玄関口で靴を履く千秋の背中に、悲しそうに直樹は語りかけた。

「また来れるかどうかはわかないけれど、機会があればお邪魔するよ」

「いつでも来て良いからね」

 外で走りまわることのできない病弱の直樹には、一緒に遊んでくれる友達は一人もいなかった。

 きっと、直樹は千秋を失ってしまうのが怖いのだろう。その気持は穂花にもわからないこともなかった。

「うん。じゃ、おやすみ」

 靴を履き終えると、一瞬千秋は振り返り、穂花と直樹に笑顔を向けた。

「ちょっと待って!」

 千秋が玄関を開いた瞬間、直樹は矢のように鋭い声を上げた。

「ん?どうしたの?」

 千秋は僅かに開いた玄関を閉めて、きょとんとした顔で直樹に体を向ける。

 穂花は初めて聞く弟の声調に驚き、思わず二、三歩後退った。

「あ、ごめんなさい。いきなり大きな声出して」

「うん。それは良いんだけど、どうかしたの?」

「えっと、あの、夜遅いから、帰り道は変な人に襲われないように注意したほうが良いよ」

「そうだね。ありがとう。心配してくれて」

「それで、あの、念の為『怪獣電灯』を持って帰ったほうが良いかなと思って」

「カイジュウデントウ?」

「懐中電灯のことだよ。この子、間違った読み方が定着しちゃってるの」

 穂花に指摘され、誤りに気付いた直樹は恥ずかしそうに俯いた。

「あぁ、懐中電灯ね。でも大丈夫だよ。お兄ちゃん男だし、喧嘩強いから」

「だけど、だけどこの近くで前にトオリマが出たことがあるんだよ。そいつにお姉ちゃんお腹を刺されて大変だったんだよ」

「大丈夫だって。その通り魔はもう捕まったんだから。ね?穂花」

 千秋が自分と同じように通り魔ではなくて、連続強かん魔の『間宮×流』のことを話しているのであれば、確かにその通りだ。その通りなのだが……。

「穂花?そうだろ?」

「え?あ、うん」

 穂花は曖昧に頷いた。

「捕まったのは、随分前の話なんでしょう?もうとっくに刑務所から出てるんじゃないの?」

「出てたとしても問題ないよ。そんな奴に負けないように体を鍛えてあるからさ」

「相手が刃物を持っていたらどうするの?殺されちゃうかもしれないよ?」

「心配性なんだな、直樹君は。もっと強くなりなよ。強くなって、お姉ちゃんのことを支えてあげなよ。じゃあね」

 千秋は泣きやまない赤子をあやす父親のように優しく、柔らかな笑みを浮かべ、直樹の頭を軽く撫でると、穂花達に背を向け、玄関を開き、不気味なほど暗い闇に呑まれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ