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作者: bisketmen

 雨が降っている。季節は冬だ。


 足元の煉瓦敷きの遊歩道には氷が張っている。先日の粉砂糖のような雪は、”悲劇的”なまでに堅く冷たい氷になっていた。

 誰もこの道を通らない。ここは明らかに滑りそうで危ないから。しかし、僕は通る。それは僕がひねくれものであり、いささか”悲劇的”と言ってもいい性格だからだ。ヤクザなスケートリンクのような道を歩きだして間もない赤ん坊のように歩く。慎重に、そしてぎこちなく

 僕のジーンズのポケットにはさっき拾った綺麗な石ころ、イチゴ味のキャンディーそれと小型拳銃デリンジャーが入っている。


 今日は大きな出来事あった。愛犬が死んだこと。


 3年前に市役所の裏で凍えてる犬に出会った。ちょうど今頃の非道なまでに寒い夜だった。白い毛はホコリにまみれて、窪んだ青い目だけがサファイアのように光っていた。


 なんて可愛い犬だろう、そう思った。


 僕はそのときすべての感情を犬と共有してしまった。そしてその”喜び”のあとから怒りが込み上げてきた。この冷たい風に、”犬”を捨てた飼い主に、狂ったこの世界に。

 そのあと僕と”犬”は生活を共にしてきた。なんともない普通の飼い主と犬の関係だ。毎日、朝と夜に散歩に行って、寝るときは毛布にくるまって寝た。火曜日だけは高いドッグフードを与えた。

 最初は僕の相手をしなかった、”犬”も少しずつ心を開いてくれたように思う。僕にとってそれはなによりも嬉しいことだった。失いたくないと思った。どんな場所で誰がどう死のうが僕には関係ない。ただ”犬”だけは死なないで欲しかった。


 だが、犬は死んだのだ。僕の腕の中で一回だけ鳴いた。何かを問うような声だった。なんで?どうして??

 

 あとはいつもと変わらない日だった。パンをかじりながら朝のニュースを観たり、父親が死んだり、トイレで血を吐いたり。


 僕は空を見上げた。憎たらしいほどきれいな空だ。キャンディーを口に入れて噛み砕く。

 そしてデリンジャーの銃口を口に入れる。後悔は2つある。”犬”に名前をつけなかったこと。それと真面目に生きてきたこと。でも、まあまあいい人生だったと思う。3年前のあの日から。


 僕は引き金を引いた。頭から突き抜けた弾丸が空を殺した。


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