吾輩は猫なのか?【第十一話】
「光界民……!?」
その言葉に、私の眉がぴくりと動いた。
――光界民。
ルークを殺したやつら。
アンバーさんを殺したやつら。
子どもたちを殺したやつら。
……私から全部を奪ったやつら。
脳裏に、あの日の光景が蘇る。
焼けた匂い。
血の匂い。
泣き声。
トーマス先生の死臭が、蘇った光景をさらに鮮明にした。
――今度は、私が奪う番だ。
それが“公平”のはずなのに。
気づけば、拳を強く握り締めていた。
爪が掌へ食い込み、じわりと血が滲む。
すると、隣でサンドラがすうっと息を吸った。
そして――
「結界の“核”を探し出して破壊! 散れ!」
鋭い声が、静まり返った廊下へ響き渡る。
一瞬の静寂。
だが次の瞬間、怯えていた生徒たちがハッとしたように顔を上げ、一斉に廊下の左右へ走り出した。
「おいおい……まぁ、“普通のガキじゃねぇ”ってのは聞いてたけどよぉ」
鎧の男は散っていく生徒たちを眺め、呆れたようにため息をついた。
そしてまた頭を掻こうとして、
「あー……だから掻けねぇんだったわ!」
と、苛立ったように独り言を漏らす。
「サ、サンドラ……」
アイリスが不安そうに声を漏らした。
だがサンドラは、男から目を逸らさないまま言う。
「大丈夫だから♪早く行って♪」
そして、一度だけこちらを振り返った。
「――それと。“敵が一人とは限らない”から、警戒は怠らないでね♪」
「お、おう……分かった。おい!」
エリックがジルの背中を叩く。
「だ、大丈夫……歩け……いや、走れるから……」
ジルは口元を拭いながら、ふらつく足で立ち上がった。
「私は残るから」
四人が一斉にこちらを見る。
ジルは私の腕を強く掴んだ。
「ダメだ!早く!」
珍しく、声に怒気が混じっていた。
私はジルのローブへ触れる。
そして、“分けた引力”でジルごと後方へ吹き飛ばした。
「大丈夫。勝算があるから」
「おい!もう仕方ねぇ!行くぞ!」
エリックがジルを無理やり引っ張り起こす。
「サンドラ!死なないでよ!」
アイリスは不安そうに叫びながら走り去った。
ジルは唇を噛み締めたまま、少しだけこちらを見る。
だが、やがて諦めたようにエリックと並んで走り去っていった。
「お前に残られても邪魔なんだけど♪」
サンドラが呆れたように言う。
私はサンドラに耳打ちした。
「――“触れば勝てる”」
サンドラは一瞬目を見開き、こちらを見た。
男の鎧を見て、私が言いたいことを理解したのか、嫌そうに目を細めた。
「なるほどねぇ……まぁ、分かったけど♪」
男から目を離さないまま、サンドラは続けた。
「まずは私が“様子見”する♪話はそれから♪」
そして、ちらりとこちらを見る。
「とりあえず、あなたは動かないで?」
「ん、分かった」
私も再び男へ向き直った。
「女の子二人かぁ……まぁ、いいのか?」
男は面倒そうに肩を鳴らした。
「殺すなら女からだよなぁ。女の悲鳴聞くと、罪悪感感じちゃうしなぁ」
そう言って、床に転がるトーマスの死体を再び掴み上げる。
そして、トーマスの部屋の扉へ乱暴に投げつけた。
静まり返った廊下へ、血肉の潰れる音が響いた。
「ん?でも待てよ?」
男は首を傾げる。
「片方殺したら、もう片方が悲鳴あげるんか……うわぁ、勘弁してくれよ……」
そう言って頭を掻こうとして、
「あぁっ!」
苛立ったような叫び声を上げた。




