光の展示会
幕張メッセのホールは、音で震えていた。
電子音。
英語混じりのプレゼン。
巨大モニターの光。
中央ブースに陣取る《Cloudiva》は、まるで未来そのもののようだった。
白と青を基調にした空間設計。
無駄のない什器。
黒いTシャツにロゴを入れた若い営業たち。
自社ブースは通路の端だった。
説明員は三人。
立て看板は十年前と変わらないデザイン。
パンフレットは分厚い。
重い。
会社の歴史そのもののように。
彼は腕を組み、Cloudivaのデモを見ていた。
「導入は最短3週間。初期費用ゼロ。月額制で、御社の業務を即座にクラウドへ。」
軽い。
顧客が笑う。
うなずく。
スマホでQRを読み取る。
彼の頭に、20年前の記憶がよみがえる。
最初の大型受注。
要件定義3ヶ月。
導入半年。
仕様変更で炎上。
夜中の土下座。
それでも顧客はついてきた。
“重い”からこそ信頼があった。
だが今、顧客が求めているのは軽さだ。
時代は確実に移っている。
彼は目を細める。
Cloudivaの営業はうまい。
プレゼンの流れが完璧だ。
問題提起。
簡潔な解決策。
デモ。
価格提示。
迷いがない。
そして商談の終盤。
中堅の担当者が手を挙げる。
「現場の細かい業務フローは合わせられますか?」
空気が一瞬だけ止まる。
営業は笑顔を崩さない。
「標準設計に沿った運用を推奨しています。多くの企業様がそれで成果を出しています。」
つまり、合わせない。
合理的だ。
だが彼はその瞬間、確信する。
ここだ。
顧客の顔に、わずかな不安が浮かぶ。
標準化は正しい。
だが現場は標準通りに動かない。
その歪み。
その摩擦。
そこに、20年の泥臭い蓄積がある。
彼は静かに呟く。
「正面からは勝てない。」
だが、側面なら…
展示会場の喧騒の中で、彼の中だけが静かだった。
敗北は認める。
だが、戦術はまだ残っている。
敵を否定するな。
敵を前提にせよ。
その思想が、この瞬間に生まれた。




