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経営会議

経営会議は午後三時開始。


開始五分前には全員が揃っている。

席は固定だ。


上座に専務。

その右に本部長。

左右に各部門長。

俺は末席。


この席順だけで力関係は分かる。


本部長が時計を見る。

「では、始めましょう」


いつも通りの穏やかな声。

波を立てない進行。


最初の議題は予算進捗。

次に人事報告。

誰も反対しない。

誰も深掘りしない。


会議は“進む”。


そして三つ目の議題。


「営業評価制度の高度化について」

本部長が軽く咳払いをする。


「経営企画室より説明を」


企画室長が立つ。


整えられた資料。

角の取れた言葉。


「透明性を高め、健全な競争環境を整備します」


健全。

摩擦を消した表現。

スライドが進む。


「一部部署で試験運用を実施。改善傾向が確認されています」


一部部署。

名前は出ない。

俺の部署だ。

だが、そこは曖昧にされる。


本部長が頷く。

「ありがとうございます。ご意見ありますか」


数秒の沈黙。

誰も話さない。


会議はこのまま閉じられる。


俺は手を挙げた。


「発言よろしいでしょうか」

本部長が一瞬、視線を落とす。

そして言う。


「簡潔にお願いします」

抑えた声。


俺は立つ。


「この制度の目的は効率化ではありません」


何人かが顔を上げる。


「責任の可視化です」

本部長がすぐに被せる。


「もちろん、その観点も含まれて――」

「違います」


遮る。

空気が止まる。


「公開するのは数字ではありません。覚悟です」


静まり返る。


「未達の原因を市場や部下に転嫁できる構造が、会社を弱くしています。」


本部長の顔が硬くなる。

「表現には注意してください」

「事実です」


誰も助けない。

誰も否定しない。


俺は続ける。


「三年後、利益は確実に落ちます。予測データは出ています。内部調整で時間を使う余裕はありません」


本部長はまとめに入ろうとする。


「意見は理解しました。本件は試験運用を継続し、段階的に――」


流す。

穏やかに。

会議を壊さずに。


その時。


「待て」


低い声。


専務だった。


それまで一言も発していない。

資料を閉じる音が響く。


本部長が振り向く。


「専務……」


専務は淡々と聞く。

「段階的とは何段階だ」


本部長が曖昧に答える。


「現場の温度を見ながら……」

「温度差とは、誰の責任だ」


沈黙。


逃げ道が消える。

専務は俺を見る。


「君」

「はい」

「全社説明、できるのか」

「できます」


即答。


数秒の間。

専務は表情を変えない。


「思想は分かった」


空気がわずかに緩む。

だが、次の言葉で凍る。


「成果を出せ」


短い。


「三ヶ月だ」


本部長が顔を上げる。


「専務、それは――」

「三ヶ月で一億」


誰も動かない。


「純利益でだ」


会議室の温度が落ちる。


専務は続ける。


「制度を展開していい。思想も語れ」

「だが、三ヶ月で一億の利益改善を出せ」


本部長が小さく聞く。

「出なければ……?」


専務はそれに対して答えない。

沈黙の時間が続く…


そして、出た言葉は

「言わずもがなだな」


左遷か。

降格か。

更迭か。


具体的な言葉は不要だった。


専務は最後に言う。

「思想は嫌いではない」


視線は逸らさない。


「だが、思想は利益を生んで初めて価値を持つ」

会議は次の議題へ進む。


だが、空気は変わっている。


俺は座る。


三ヶ月。

一億。

不可能ではない。

だが、余裕はない。


廊下に出ると、本部長が低く言った。

「引き返せるぞ」


俺は笑った。

「もう始まっています」


戦争は、

期限を与えられた。

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