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圧力と裏切り

数字を公開して二週間。

部署の空気は変わった。


笑いは減った。

雑談は減った。

代わりに、数字の話が増えた。


未達の者は早く帰らなくなり、

達成者は沈黙した。


まだ成果は出ていない。

だが“誤魔化し”は消え始めていた。


そのタイミングで、呼び出された。

本部長室。


ノックをすると、柔らかい声が返る。


「どうぞ」


部屋は静かで、温度が低い。

本部長は資料を手にしていた。


「君の部署の評価制度変更、聞いているよ」

「はい」

「数字を全員に公開しているそうだね」

「はい」

彼は眼鏡を外した。


「やりすぎだ」


予想通りだ。


「なぜですか?」

「組織はバランスだ。全員が競争状態になると、摩擦が生まれる」

「摩擦は成長の前提です」


少し間が空いた。


「君は優秀だ。だが孤立する」

「承知しています」

「足並みを揃えなさい。全社で制度設計を検討する」


つまり、止めろということだ。


俺は静かに言った。

「検討では間に合いません」


本部長の視線が変わる。


「何が言いたい」

「三年後、利益二割減の予測が出ています。

 私は自部署で実証を始めました。

 成果が出なければ、止めます」

「勝手に実験をするな」

その言葉に、俺はわずかに笑った。


「実験ではありません。戦闘です」


沈黙。

空気が張る。


「責任は取れるのか?」

「取ります」

「失敗したら?」

「部署ごと沈みます」


本部長は椅子にもたれた。


「…好きにしろ。ただし、目立つな」


目立つな。

つまり、成功するなということだ。

部屋を出た瞬間、理解した。


上は様子を見る。


成功すれば奪い、

失敗すれば切る。


それが組織だ。


だが問題は上だけではなかった。


三日後。

共有フォルダの数値が改ざんされていた。


受注率が微妙に上がっている。

わずか一%。

だが俺は気づいた。


ログを確認する。


更新者――ベテランの一人。

呼び出した。


「数字を触ったか?」

彼は目を逸らした。


「少しだけ修正した」

「なぜ」

「若手が落ち込んでいた。

 このままだと士気が下がる」


俺は怒らなかった。

怒鳴るのは簡単だ。


「士気は嘘で上げるものか?」

彼は黙る。


「俺たちは何と戦っている?」

「……曖昧さ」

「そうだ。数字を曲げた瞬間、俺たちは敵側に回る」

彼の顔には葛藤があった。


悪意ではない。

保身でもない。


“優しさ”だ。


だが優しさは、組織を弱くする。


「次にやったら、評価を下げる」

冷たく言った。


情は挟まない。


その夜、社内で噂が流れた。


「やっぱりあの部署は危ない」

「内部で揉めてるらしい」

「本部長も不快らしい」


孤立が進む。


だが同時に、

若手の一人がメールを送ってきた。


件名:3案提出


本文には、

市場別アプローチの再設計案が3つ。


未達だった彼だ。


俺は返信した。

「面白い。来週試す」


戦争とは不思議だ。

圧力がかかるほど、覚悟が固まる。


裏切りが出るほど、理念が試される。


俺は理解した。


これはもう部署改革ではない。


組織文化との戦争だ。


上は様子を見る。

内部は揺れる。

噂は広がる。


だが、まだ成果は出ていない。


勝っていない。


だからこそ、本物だ。


戦争は、味方が減るところから始まる。


俺は静かに机に戻った。

数字を見つめる。

まだ赤字だ。


だが歪んではいない。

それでいい。


歪みのない敗北は、必ず勝利の設計図になる。


戦争は続く。

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