社内激震 揺れる城内
契約締結の発表は、三日後の朝だった。
社内ポータルのトップに、簡潔な一文。
「星崎メディア様と10年契約(年間1億3,400万)を締結」
一瞬、誰も反応しなかった。
更新ボタンを押し直す者。
金額を見返す者。
年数を二度読む者。
そして、遅れて理解が追いつく。
ざわめきが、波のように広がった。
午前中のオフィスは異様だった。
若手が駆け寄ってくる。
「本当なんですか?」
「10年って……やばくないですか?」
「年間1億超って、うちの規模で?」
目が輝いている。
純粋な敬意。
だが、その背後で…
視線が刺さる。
中堅の沈黙。
管理職の無表情。
彼らは知っている。
これは単発の大型案件ではない。
構造を握る契約。
3年で市場を開拓し、5年で安定させ、その後10年の独占的支配。
これが意味するのは…
会社の重心が動くということだ。
そして、その中心に“分隊”がいるという事実。
昼。
会議室。
経営報告。
本部長は資料をめくる。
紙の音がやけに大きい。
「……まぁ、良かったんじゃないですか。」
軽い。
軽すぎる。
だが、その目は一切笑っていない。
数字のページで指が止まる。
「ただ。」
「通常業務に支障が出ないよう、体制は再整理しましょう。」
柔らかい言い方。
だがその週から、何かが変わった。
承認フローが増えた。
確認会議が細分化された。
進捗報告は日次へ。
資料は倍。
レビューは三段階。
誰も露骨に止めない。
だが確実に、重くなる。
狼は、縄張りを奪われたと理解していた。
分隊は削られ始める。
大型契約の余韻など、三日で消えた。
通常業務は減らない。
むしろ増える。
「10年契約あるんだから余裕でしょ?」
軽い冗談が飛ぶ。
笑えない。
夜のオフィス。
モニターの光に照らされた顔。
誰も弱音を吐かない。
だが、疲労は濃い。
マンモスは倒した。
だが今は、その肉を狙う獣が周りをうろついている。
社内は二層に割れた。
称賛、嫉妬、期待、警戒…
そして、静かな牽制。
廊下ですれ違う古参幹部が、わざとらしく言う。
「派手だな。」
笑っていない。
別の部署の課長が呟く。
「10年なんて、責任重いですね。」
祝福の形をした圧力。
俺は気づく。
外との戦いは単純だった。
社内は違う。
敵は名乗らない。
笑っている。
手を振っている。
だが、水面下で石を積む。
夜。
分隊チャット。
「業務、増えてません?」
「増えてる。」
「露骨すぎるだろ。」
俺は打つ。
「想定内だ。」
既読が並ぶ。
「マンモスを倒したら森が騒ぐ。」
誰かが返す。
「森っていうか、動物園な。」
小さく笑いが流れる。
だが、誰も気を抜いていない。
ここからが本番だと、全員分かっている。
そのときだ。
背後から声がする。
「面白いことをやるな。」
振り向く。
創業者、老舗ベンチャーの原点。
一時代を築いた男。
今は前線を退いたが、会社の空気そのものを知る人間。
ゆっくりと近づく。
「3年で開拓、5年で安定……」
「その後10年独占か。」
目が細くなる。
「独占はな、守るのが一番難しい。」
静かな圧。
「守れるか?」
本部長の圧とは違う。
これは思想の圧だ。
この会社をどう在らせるのか。
戦う会社か。
調和する会社か。
俺は答える。
「戦場にしなければ、奪われます。」
創業者は微笑む。
「面白い。」
「だが――俺の会社だ。」
その言葉は、祝福にも、警告にも聞こえた。
社内は揺れている。
分隊は疲弊している。
狼は睨んでいる。
そして、思想の巨人が動き始めた。
外の戦争は終わった。
だが、城内は今、静かに崩れ始めている。




