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最初の獲物

三ヶ月で一億。


言葉にすると短い。

だが現実は、血を抜かれるような日々だった。


分隊は影だ。


だが影にも体力はある。


昼は通常業務。

夜は未来の設計。

誰一人として専任ではない。


俺は部長として会議を回し、

障害対応の矢面に立ち、顧客の謝罪に頭を下げる。


分隊のメンバーも同じだ。


「昨日、3時間しか寝てません。」

「子どもに顔を忘れられそうです。」

笑って言うが、目は笑っていない。


それでも止まれない。

止まれば終わる。


だが…


本当の敵は外ではなかった。


本部長だ。


会議を増やす。

報告書を増やす。

承認フローを増やす。


「念のため確認しておこうか。」

「透明性は大事だからね。」


流される男は、流されながら

静かに縄張りを守る。


俺たちはその縄張りを横切ろうとしている。


マンモスの狩場に辿り着くには、

狼の縄張りを通らなければならない。

そして狼は、わざと足止めをする。


資料差し戻し。

再説明。

急な臨時会議。


通常業務が膨らむ。

分隊のチャットが荒れる。


「今日も無理です。」

「作業時間ゼロです。」

「これ、潰されに来てませんか?」


俺は答える。


「耐えろ。」


だが、俺も分かっている。

このままではマンモスどころか、ウサギすら狩れない。


その時、専務が動いた。


表向きは「体制再編に伴う業務見直し」

だが実際は違う。

俺たちの通常業務から、

1ヶ月で4日間の“空白日”が生まれた。


完全に予定が入らない日。


会議なし。

承認なし。

呼び出しなし。


4日。

たった4日。


だが、戦場ではそれが命綱だ。


専務は言った。


「無駄にするな。」

「チャンスは4回だと思え。」


その通りだった。


星崎メディア。

マンモス。

だが狩りは簡単ではない。


4回の空白日のうち、

2回はアポを申し込んだが断られた。


「今回は見送ります。」

「検討段階ではありません。」


冷たい返信。


残りは2回。

実質、弾は2発。


ワンショット・ワンキル。

外せば終わる。


空白日・一日目

会議室に分隊全員が集まる。


疲労が顔に出ている。

目の下に影。

だが目は死んでいない。


俺が言う。


「今回が交渉提案を勝ち取る一撃だ。」

「大型契約は次だ。」

「今回は“検討テーブル”に乗せる。」


資料を磨く。

数字を削る。

言葉を削る。

余計な夢は語らない。


相手役員のKPI。

業界トレンド。

競合動向。


一撃で刺すための槍を作る。


狼は会議室の外にいる。

本部長からチャットが来る。


「急ぎの確認あるんだけど?」


既読をつけない。

今日は空白日だ。

専務の影がある。

俺たちは集中する。


訪問当日

星崎メディア本社。


ガラス張りのロビー。

巨大な企業ロゴ。

ここがマンモスの狩場だ。


専務は同席する。

だが口数は少ない。


会議が始まる。

最初は既存契約の話。

年間1,000万円。

かろうじて繋がっている細い糸。


相手役員が言う。


「大きな投資は難しいですよ。」


牽制だ。

俺は立つ。


「承知しています。」

「だからこそ、段階的に始めます。」


資料を開く。


一枚目。


“御社専用SaaS基盤化ロードマップ”。


空気が変わる。


「初年度はPoCのみ。」

「費用は抑えます。」

「だが、成功すれば年間数億規模へ拡張可能。」


役員の視線が鋭くなる。


「リスクは?」

「私が責任を持ちます。」


言い切る。

退路はない。

部屋が静まる。


狼の縄張りも、通常業務も、

疲労も、寝不足も…


全部ここに乗せる。


ワンショット。

外せば終わり。


役員が資料を閉じる。


沈黙。


そして言う。


「検討チームを作ろう。」


心臓が跳ねる。


「PoCの提案書を正式に出してください。」


交渉テーブルに乗った。

仕留めたわけではない。

だが、致命傷への入口は開いた。


専務は何も言わない。


会議が終わり、ビルを出た後、一言だけ。


「一発目は当たったな。」


それだけ。


分隊チャットに送る。


「テーブルに乗った。」


既読が一斉につく。


「マジですか。」

「泣きそうです。」


だが戦いは終わっていない。


次は、大型契約を取るワンショット。

弾はあと一発。

狼はまだ吠えている。


だが、マンモスは、確実にこちらを見た。

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