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八話



 我々素材探索隊は鎮痛剤の素材を集めるため、森の奥へと足を踏み入れた。

 そこで我々が見たものは……。


「ねぇ、ヤスラギ草しか生えてないんですけど」


 永眠する薬の素材になる草だ。

 そんな怖い薬なんて作りたくないんだけど、本当にこの草しか生えていない。

 どういうことなのか。群生ってこんなに広く群れるものかな。


 木々の種類は割と変わっている。

 パルトチウムの木はもちろん、レベルダ、ザイル、杉の木っぽいやつ、桑の木っぽいもの、などなど。


 しかし肝心のトランバナとガイラナが見つからない。

 既に探索を初めてから半日以上が経っているんだけど、そろそろ疲れてきた。


「もう飽きた」

(でも見つけないと困るよね)


 そうなんだよね。

 素材がないと調合できない。調合できないと、薬剤師にはなれない。


 どこだ、どこにあるんだ?


 そういえば、探知系の魔法って物語によくあるよね。

 そんなことってできるのかな?


 あれ? 探知?


「ねぇカヤ、この子たちに素材の場所知っているか聞けない?」

(……その手があったね)


 おい、植物の精霊っ!


 ということで、周囲に生えている草や、木たちに尋ねてくれた。でも結局彼らも場所を知らなかった。

 うん、そりゃそうだよね。動けないし、自分のいるすぐそばしか分からないよね。

 うちにいる大木は動けるけどさ。あれは例外でしょ。


 あっ、長老的な植物っているかな?

 樹齢何千年とかいう、大昔からいるような木。

 彼らに聞けば手がかりくらいは入るかもしれない。


「樹齢何千年なんて木なら、知ってそうだよね」

(それなら、あっちかな。向こうにたくさん意識が集中しているから)


 カヤが指さした方向へと向かっていくと、たしかにご立派な大木が一本、どーんと鎮座していた。

 でっか。横幅五メートルくらいありそう。

 ここくり抜いたら、大きな部屋が作れそうだよね。

 

 がさがさっ!


(儂の身体に穴を開けないで、って懇願してるんだけど……なに考えたの?)

「幹をくり抜いたら大きな部屋が作れそうだな、って思っただけなんだけど。なんで私の考えたこと分かるの?」

(悪い顔つきになってたとか?)

「私悪い顔してないよ!」


 酷いことを言う。

 こんなプリティーなエルフなのに。

 しかし樹齢数千年の長老だ。きっと超能力みたいなすごい力を持ってて、人の心が読めるとかありそう。


(エルフだから分かるんだってさ)


 種族限定かっ!

 まあいいや。

 私の心を読めるのなら、聞いてしまおう。


 トランバナの実とガイラナの根っこが欲しいんだけど、どこに生えているか知ってる?


(もちろん知っておる。しかし、手ぶらで教えるわけにはいかぬなぁ、だって)


 木が黄金色のお菓子を所望してる!?

 えぇ……。何が欲しいんだろ。


(お菓子をもらっても食べられない。儂が所望するのは、痛みを和らげるものだ。最近ちょっと腰が痛くてな)


 腰が痛い??

 木に腰ってあるんだ。

 中身腐ってない?


(腐っておらぬわっ)


 違うのか。

 というより、木の痛みを消すってどうやるんだろ。

 そもそも痛覚あるの?


(鎮痛剤のお試しにいいんじゃない?)

「あっ、カヤあったまいい!」


 そうだよ。

 鎮痛剤を作ろうとしているんだから、初めてのお客さんと思えばいいんだ。

 でもさ、鎮痛剤を作るのにトランバナの実とガイラナの根っこがいるんだけど……。


(ふむ、ならば先渡しでよかろう、だって。でも作ったら必ず持ってこい、ってさ)

 うんうん、持ってくる!

 だから教えて!


 そう伝えた途端、長老の木の根っこが光りだす。

 その光りが地面を伝わると、周囲に次々と花や草が生えだしてきた。


 おおっ?


(トランバナとガイラナだよこれ)

「そうなの!?」


 自分で作れるの?

 カヤにだって出来ないのに、ずっる!


(いくら植物の精霊とはいえ、まだ百年の若造には負けぬわ、だって)

 長老感すごっ。


=============================================================


「師匠! 素材を集めてきたので、鎮痛剤の作り方を教えてください!!」

「ああん? 本に書いてあるから、まず自分でやってみな」


 ちょっとまって!

 いきなり実践??

 それに本が分厚すぎて、全然読めてないんですけど。

 図鑑くらいしか今のところまともに読めていないし、しかもこの薬の素材、とは書かれていても作り方は載っていないのだ。

 まあ図鑑だからね。


「貸してみな。ほら、ここだねぇ」


 私が調合本をぺらぺらと捲っていると、師匠が本をひょいっと取って、すぐ鎮痛剤の作り方が載っているページを開いてくれた。


 さすが師匠、熟読してますね。

 ふむふむ、と開かれたページを読んでみる。


 トランバナの実をすりつぶして液状にし、パルトチウムの樹液と混ぜ合わせて、刻んだガイラナの根っこを浸す。

 三日ほど放置すればクリーム状になるので、患部へ擦り込んだり、飲んだり出来る、と。


 へー、思ってたより簡単……ん? 飲むの?

 クリーム状のものを?

 錠剤とかにしないんだ。

 というより、塗るのと、飲むのでは作り方が違うんじゃないの?


 などと考え込んでいると師匠に、ぺしっと頭を叩かれた。

 いたいっ!


「頭で考えるより、先に手を動かしな」

「叩かなくても……」


 渋々とお皿を三枚並べて、集めてきた素材を置いていく。

 えーっと、まずは実をすりつぶして液状に、ね。


「これだねぇ」


 きょろきょろと探していると、何も言わずすりこぎ棒を渡してくれる師匠。

 これが以心伝心!


 ごりごり……ごりごり……。

 疲れた。

 カヤ、変わって。


(僕に出来るわけがないよ)


 うう……腕が疲れた。無理。

 走る体力はついたけど、すりつぶす体力はついてなかったみたい。

 と、そこへ家の扉がノックされた。


 え? お客様?


 私がここに住み始めて一年以上が経ったけど、来客は初めてだ。

 たぶん師匠が対応するだろう、と思い見てみると、すっごく渋い顔をしていた。


「……はぁ、まったく奇妙な場所になっちまったねぇ。アリエス、お前さんが対応しな」

「私が? 師匠のお客様じゃないの?」

「行けば分かるねぇ」


 しっしっ、とまるでハエを追い払うように、手をぶんぶん振る師匠。

 そうですかそうですか、行ってくればいいんでしょ。

 まったく。


「はーい、どちらさまですか?」


 そう言いながら玄関を開けると、ミニ大木が突っ立っていた。

 ……え?

 ミニ大木は、やあ、というように片方の枝をあげる。


「……えっと、どうしたの?」

(力仕事なら任せて、だってさ)


 マジで!?

 たすかるー。


 超強力な助っ人のおかげで、調合の準備が捗りました。

 

=============================================================


 調合本の通りに作ってみて、三日が経った。そろそろクリーム状になっているはずだ。

 おそるおそる皿を覗き込むとそこには……クリーム状ではなく、普通に刻んだ根っこのおひたしになっていた。

 なんで?

 本の通りに作ったはずなのに!


「ひひっ、失敗だねぇ」

「嬉しそうにしないでください師匠! なんでこうなってるんですか!」

「誰もが通る道だねぇ。いいかい、これは魔女の薬だよ。普通じゃ作れないねぇ」


 そう言いながら、師匠はお手本を見せてくれた。

 ……あれ? 師匠の手が光ってる。

 ごりごりと実をすり潰すと、明らかに私が作ってた時と雰囲気が違う。

 次々と手際よく素材を調合していく師匠。


 なんでなんで?? 何が違うの??


「さあこれが鎮痛剤の元だねぇ」


 出来上がったものを見せてくれた。

 既に一部クリーム状に変化しているし、何より不思議な感覚がする。

 これに比べれば私が作ったのは、子供が作ったままごとのお料理だ。


「ど、どうやったらこうなるんですか!? それに何で手が光ってるんですか!」

「ひひっ、さあアリエス。ここからは魔女の弟子としての、基本的な修行を始めるねぇ」

「基本的な? マラソンがそうだったんじゃないんですか?」

「なんでマラソンが魔女の修行になるんだい。あれはお前さんの危機感や体力が無さ過ぎたから、やらせただけだねぇ」


 もっとも危機感はあまり変化ないけどねぇ、なんて呟く師匠。

 あれだけ頑張ったのに、体力がないからマラソンなの?

 確かに走るのは体力づくりの基本だけど……えぇ……。


「まず魔力だ。お前さんには、繊細な魔力操作を覚えてもらう」

「魔力? ってなんですか?」

「そこからかいっ! お前さんも精霊と契約してるんだから、魔力使ってるだろうに」


 あっ、そういえば……。

 これまでもカヤにお願いすると、身体から何かほんの少しだけ吸い取られる感覚があった。

 でも本当に僅かだし、特に体調が悪くなったりとか、疲れたりとかは無かったので、気にならなかったんだよね。


 そっかぁ。

 魔力って物語ではよく聞く言葉だったけど、なるほど、これかぁ。


「魔力操作を覚えるのに、十年は見ておきな」

「十年!?」

「それくらい繊細な技術がいるのさ、ひひっ」


 十年はまずい。

 長老の木と約束したのだ。

 どうしよう?


 ……目の前に、師匠の作った鎮痛剤の元がある。

 ごくり。


「師匠、これもらってもいいですか?」

「ああん? 何に使うんだい」

「実はですね……」


 かくかくしかじか、なんて感じで森であった出来事を説明した。


「……本当に奇妙な場所になっちまったねぇ。樹齢数千年の木? 長老? 素材を作った?」

「そうなんですよ! 木のくせに腰が痛いとか言い出して、それで鎮痛剤を提供することになったんです」


 言いたいことはそれじゃないんだかねぇ。

 そうぼやく師匠。

 ん? 違うの?

 でも木が腰痛なんて、奇妙すぎない?


「それならなおさら、お前自身が作ったものを渡しな」

「え? でも十年ですよね。そんなに待たせられないです」

「お前さんが頑張って、すぐ魔力操作を覚えれば済む話だねぇ」

「無茶です! 師匠が十年というのなら、十五年はかかる自信がありますっ!!」

「そんな自信なんて捨てちまいな! ま、あたしのカンだが、百年くらいなら大丈夫だねぇ。気になるなら、遅れてもいいか聞いてきな」

「そうですよね。ここで言ってても仕方ありません」


 そして再び森の奥、長老のいるところまでダッシュで聞きに行った。


(百年くらいなら待てるってさ)


 ……なんで?


 樹齢数千年の長老なのだ。

 五年や十年なんて、寝て起きたら経ってる程度なんだって。

 はぁ……生きてる感覚が違うと、こうなるんだ。



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