七話
丸三日かけて森の中を散策した結果、パルトチウムの木を見つけることができた。
もちろん木を丸ごと持っていくわけにはいかないので、挿し木として枝の一部を折った。
なお、他の二つはまだ見つけてない。
うーん、近場に生えてないのかな。
(この挿し木、どこに植える? 畑?)
さて、どこに植えようかと庭でうろうろしていると、カヤが変な質問をしてきた。
「木は畑に植えるものじゃないよ」
(でも何となく、畑に植えてほしそうな顔をしてるよ?)
植えてほしそうな顔ってなに?
まじまじと挿し木を見るも、どこにでもありそうな枝だ。
どこに顔があるんだろう?
「まあ、とりあえずは畑のそばでいいかな?」
畑から数メートル離れた場所にした。
山を盛り、そこに挿し木をぷすっと刺す。
えっと、これでいいのかな?
(雑な扱いされて、少しむくれてる顔してるよ)
だからむくれてる顔ってなに?
仕方ないなぁ。
すぐそばの森に生えている木の下、たぶんこの辺り腐葉土になってるよね。
そこから土を運んで、挿し木の周りを盛ってみる。
あとは水かな?
井戸まで行って、小さい桶に汲んできた。これ重いんだよね、きつい。
そういえば、前に師匠が植物を操作して掃除を代わりにやらせる、っての聞いたっけ。
それ作れないかな。そうすれば水汲みもお任せできるかも。
うーん、イメージは植物人形?
それだとなんだか怖いね。
もうちょっとコミカルに、棒人間っぽくしてみたらどうかな。
なんだか少し違う。
まてまて、水汲みや掃除を任せるんだ、力持ちじゃないとだめだよね。
筋肉ムキムキ? 植物に筋肉ってあるのかな。
いや、それならばいっそ、大きくなればいいんだ。それなら力持ちでしょ。
そんなことを考えながら、水をかけて愛情込めながら優しくなでてみた。
はやくおーきくなーれ。
そして今日のところは、一旦寝ることにした。
その翌朝……。
「こら! 庭の畑に木を植えるやつがいるか、このぽんこつ娘!!」
師匠の怒声に慌てて飛び起きた。
え? 何があった?
梯子をジャンプして飛び降り、家の玄関をあけて畑を見ると……。
「……なにこれ?」
いつの間にか大木が生えていて、唖然としてしまった。
え? どういうこと?
「え? え? えぇ!? なんで??」
「なんで? は、あたしが言いたいわっ!!」
慌てて大木へと近寄ると、なんと手を振るように枝を振ってきた。
ちゃんと見たままを言葉にしているはずなのに、何を言っているのか自分にも分からない。
大木って枝を振って挨拶してくるんだ。
不思議な世界だなぁ。
(あれ? 自我持っちゃったかな)
カヤが私の横をすーっと通りすぎ、大木へと近寄っていく。
そしてまるで会話をしているように、大木とうんうん頷きあった。
わぁ、カヤが植物の精霊っぽい。
(どうやら、植えられた場所より畑のほうが居心地がいいから、移動したんだって)
居心地がいいから畑に移動したんだ。
もう意味が分からなさ過ぎて、逆に疲れがどっと押し寄せてきた。
まずは挿し木だったのに、一晩で大木まで育つのがおかしい。
「どうやって成長したの?」
(昨日、アリエスが早く大きくなれって言ってたじゃないか)
……そういえば言ったね。早く大きくなあれって。
それで大きくなったの?
「カヤが成長させたんじゃないの?」
(アリエスだよ)
えぇ……。
言葉をかけて、撫でただけで大きく成長させるなんて、おかしいんじゃないのかな。
「本当に? いやまって、そもそもどうやって移動したの?」
私の言葉に反応したのか、大木の太い枝が手のように動いて地面から抜け出し、器用にてくてくと歩いて見せた。
「……木って歩くんだ」
「アリエス、あたしは頭が痛くなった。ちょっと寝る」
師匠が頭を抑えながら、家へと戻っていった。
現実を直視しましょうよ。
さて、どうしようかな。
まず私の目的は、鎮痛剤の素材を集めること。
そのうちの一つが、パルトチウムという名の木から採れる樹液だ。
ここから確認していこう。
「あなた、パルトチウムの木で合ってるよね?」
ぶんぶん、と大きく頷く大木。葉っぱがその勢いに負けて、次々と落ちていく。
そんなに振ったら、将来禿るよ?
名前は合っている。
挿し木から樹液が採れるまで成長させるのに、カヤなら一か月くらいでいけるかな、と予想してたけど一晩は思いもよらなかった。
この大きさなら十分に樹液も採れるだろう。
「ところで、樹液もらってもいい?」
私がそう言った途端、まるで後ずさりするように遠ざかる大木。
なんで??
(木にとっての樹液って、アリエスから血を採るのと同じだよ)
そうなの?
私も採血は苦手だから分かる。でも私は樹液が必要なのだ。
「二百ccくらいなら、採ってもいい?」
見るからに嫌そうな素振りを見せる大木。器用だね。
でもダメだ。樹液はもらう。
君の大きさなら、二百ccなんて微々たる量でしょ。
断固たる態度で接したのが幸いしたのか、しぶしぶと、本当にしぶしぶと大木から了承を得られた。
さて、採血……じゃなくて、なんていうのかな。樹液を採る作業って。
樹液採取でいいや。
前世で見たことがある、サトウカエデからメープルシロップを採る方法。幹に傷つけて、ストローを刺してお皿とかで受ける。
こんな感じだったはずだ。
そんな感じの道具を用意しなきゃ。
やけに切れ味のいいナイフあるでしょ、ホースもあるでしょ、受け皿は桶でいいかな。
うん、大丈夫だ。
(心の準備するから、明日にしてくれってさ)
……木が心の準備いるのね。
さらに次の日。
大木が十本に増えてた。
えーっと。
(一本なら辛いけど十本いるなら大丈夫だってさ)
「アリエス……ちゃんと後始末はしときな」
あっはい。
師匠、もう投げやりになっているね。
「では、樹液採取を始めます」
きらーん、と光るナイフにホース。あと受け皿。
ナイフで幹に傷をつけて、ホースを刺して受け皿へと樹液を流すのだ。
ふふふふふ。
「誰から行く?」
私の問いに、十本全員が互い互いに指さした。もとい、枝さした。
誰でもいいんだけど。
私が一歩前に出ると、大木たちは一歩後ずさる。
もう一歩前に出ても同じだった。
これじゃ終わらないよ。
「早く決めてね」
お前だろ、いやお前が先にやれ、とでも言い合ってるのか、押し合いが始まった。
あー、もう面倒くさいな。
「掴まえた子から樹液採取するね」
こうして、私と大木十本の追いかけっこが始まった。
ふふふ、この場所はまさに私のホームだ。
毎日毎日マラソンを繰り返してきたのだ。
逃げられると思うか。
「まーてーー」
ずどどどどどどどっ。一斉に逃げる大木たちと、それを追いかける私。
しかし彼らの歩幅は私に比べ遥かに大きいからか、なかなか追いつけない。
地面が揺れ、振動が響く。
「カヤっ!」
(えっ? やるの?)
「もちろん!」
すぐさま、ツタで作られた壁が大木たちの前に立ちふさがる。
でもあっけなく壁が壊された。
ツタと大木十本では質量が違うから、仕方ない。でもその間に距離を詰めることができた。
少しでも時間を稼ぐ。逃げるときにも重要だ。
また、相手の目を数秒でもくらませることで、逃げるときに役立つ。
ランドドラゴンのように目があれば、そこ目掛けてツタを絡ませれば結構時間が稼げる。
でも大木のどこに目があるのか分からない。
この子たちどうやって見てるんだろう?
こうして果てしない追いかけっこが続いた。
微妙に追いつけないし、私も一時間くらいならこの速度で走ることができる。不毛だ。
全く、さっさと捕まって樹液採取させてくれればいいのに。
そう思った時だ。
突如巨大な炎の玉が十数個飛んできて、私たちの目の前に炸裂した。
凄まじい威力で、地面に大穴が空く。
突然の事態に、ぴたっと停止する私と大木たち。
静まり返った周囲に師匠の怒声が鳴り響いた。
「うるさいよっ!!」
ごめんなさいっ!
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結果的に、大木一本ずつからほんのちょっぴり傷を付けて、樹液を採りました。
とりあえず、目的の樹液は採れたので、よしとしましょう。
それにしても師匠の魔法、凄かった。
あんな攻撃魔法使えるなんて。
あれが魔女かぁ。
私には到底真似できそうにないや。




