表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/26

六話



 師匠の弟子となってから、一年が経った。

 いまだマラソンに加え、ランドドラゴンとの追いかけっこしかやってない。


 ……薬剤師の修行まったくしていないんですけど。


「まだ一人で町に行けないレベルで、生意気言ってんじゃないねぇ」


 ごめんなさい。


 まず思ってた以上に町まで遠かった。

 師匠の箒に乗れば、そんなに時間はかからないけど、徒歩だと三時間くらいかかる。

 それだけ苦労して町の門が見えてきた途端、足がすくんで動けなくなった。

 人の目が怖い。

 師匠と一緒じゃないと入れない。


 結局夜中くらいまで町の手前で座り込んでいた。

 その間、数回衛兵が声をかけてきたけど、返事すらまともにできなかった。

 衛兵からすると、遠くに座り込んでずっと動かない私を見て、不審に思ったんだろうけどね。


 結局あまりに遅すぎて様子を見に来た師匠に拾われたんだよね。


 ふぅ……。


 どうしたものか。


(慣れるしかないんじゃない?)

「無理」

(じゃあ魔女以外にも一人、町に知り合いを作ればいいんじゃない?)

「あっ」


 そうか、お友達作りだ!

 そうすれば守ってもらえるかも!


 でもお友達ってどうやって作るんだろ?


「早く走りな!」

「はいっ!」


 そうだった。

 今も庭でマラソンしてたっけ。


 既にGやランドドラゴンから逃げる修行は終わっている。

 今やっているのは、本当にただのマラソンだ。

 自分の前に壁やツタなどを作って、それら障害物を乗り越えていくという、障害物競争だけどね。


 逃げるとき、常に平坦な場所を走るとは限らない。

 町中なら家の壁や屋根を登ったりすることもあるし、森の中なら木々を飛び越えていくのを想定した修行である。


 一年間、毎日マラソンしていたおかげで、かなり体力はついている。

 それでも障害物競争を延々やるには、本当に体力がもたない。


 いつまでこんな修行するんだろうね。


=============================================================


「そろそろ調合の勉強でもするかねぇ」


 そんなことを思っていた翌朝、やっと師匠から薬剤師の修行開始が聞けた。

 とうとう、この日がきたか。

 苦節一年。マラソンの日々終了のお知らせです!


「やっとですか!」

「午前中は走っとけ。勉強は午後からだねぇ」

「……うぅ、まだ走るんですか」


 終了のお知らせは撤回されました。


「まず生き延びることだねぇ。走ることをやめてしまえば、あっという間に元通りだからねぇ」

「師匠だって走ってないじゃないですか」

「あたしは箒に乗って空を飛べるからねぇ。それに誰が魔女相手に喧嘩売ってくるんだい?」

「ずっる!」


 ずっる!!


「悔しければお前さんも、そういう技術を手に入れるんだねぇ」

「カヤ、何かない?」

(空を飛べる植物があればいいんだけどね)


 空を飛べる植物?

 ……あるじゃない! タンポポの種!!


(あれは軽いから風に流されてるのであって、アリエスが乗ったら飛ばないよ)

「私重くないよ!!」

(タンポポの種より遥かに重いよ)


 はい、そうですね。


「どうでもいいから、薬剤師の勉強だよ」

「はーい」

「こっちきな」

 

 入ったお部屋は、キッチンの左手にあるドアの先だ。

 右手は師匠の私室で、何度かお掃除するために出入りしたことはあったけど、こっちのお部屋は初めてである。


 中にある器具を壊されたら、たまったもんじゃないからねぇ。


 なんて言われてた。

 私、そこまでドジじゃないんですけど?


「いいかい。絶対。絶対、下手に、迂闊に、器具を触るんじゃないよ」

「そこまで言わなくても……」


 今まで一度も何かを壊したことはない。

 食器は何度か落としたことはあったけど、木でできているので、問題はないはず。

 それ以外だと、躓いて食卓を壊したことや、お料理するときにボヤがあったくらいだ。


 おっかしいなぁ。


「さて、まずはこの本を覚えることだねぇ」


 どん、と五冊ほどの本を無造作に置かれた。

 サイズはB4くらいで、どれもこれも割と分厚い。ちょっとした辞典だね。

 あと、古びていて、触れたら壊れそうなんだけど。


「それには保存の魔法が掛かっているからねぇ。火にくべても燃えないから、安心しな」


 おそるおそる本を突いていたら、突っ込みが入った。

 私が本を火で燃やすとでも思っているのかな。

 ちょっとボヤ騒ぎを起こしたくらいじゃない。


 また、その中から一冊の本を手に取って、私に突き出してきた。


「これには薬に使う薬草類が載っているから、これを読んで庭に畑を作って、そこで育てな」

「いきなり実践ですか」

「実践は素材を育成するところだけだねぇ。その素材を使って薬を作るのは、また後日だねぇ」


 確かに。

 薬を作るのに、肝心の材料がなければ何もできない。

 師匠の持ってる素材を使わせてくれてもいいのに、とは思ったけど、あれは重要な我が家の資金源だ。

 私が使って失敗でもすれば、目も当てられない。


「全部一通り覚えてモノにするまで、三十年はかかるだろうねぇ。そこでようやく初心者だ。そこから売り物になるまであげるのに、果たして何年かかるかねぇ」

「三十年!?」

「魔女の薬だよ。繊細な調合と高度な技、素材の良し悪しの目利きが必要になるんだ。お前さん……植物魔法を使えるアリエスだからこそ、この期間だ」


 そうか、私はカヤのおかげで、植物を育成するのに時間はかからない。

 でも普通は、お花とか薬草って大体植えてから一年以上経ったあとに、花を咲かせる。

 その育成時間を短縮できるメリットは、非常に大きいね。


「あたしなんて、百年かかったよ」


 百年!?

 師匠で百年なら、私は何年かかるんだろ。


 そういえば前に師匠が、人間はすぐ死ぬから、と言ってたけど、魔女の薬を伝授するだけで百年かかってたら、そりゃそうなるか。


「さあさあ、時間は待ってくれないよ。早くやるんだねぇ」

「分かりました、一度やってみます! その前に……」

「なんだい?」

「本が重いです。二冊ずつくらい分けて持っててもいいですか?」

「……勝手にしな」


=============================================================


「ふむふむ……へぇ……なるほど……わぁ、可愛いお花だ」

(いつ始めるんだい?)


 ……はっ。

 植物図鑑みたく読んでしまった。

 色々と植物あるんだなぁ、へぇ、って感動してた。


「えっと、どれから植えればいいのかな?」

(まずそもそも種がいるんだけど)

「え? 種いるの?」

(僕を何だと思ってるんだよ)

「植物の精霊」

(そうなんだけど、無から有を作ることはできないよ。一度育てた後なら、種ができるからいつでも植えられるけどね)


 なんだって!?

 種、どうしよう。


 ……師匠持ってるかな?


「自分で手に入れな」


 速攻で拒否られました。

 これも修行なのかな?


「ということで、まずは種探しからです。森を散策しましょう!」


 どこにあるのか、さっぱり分からない。

 そもそも植物って気候や雨量とかで、生えてる場所変わるんじゃないのかな。

 だから、まずは近場の森を散策して、自生している植物を探すことから始めるのだ。


(まってまって! まずどの薬を作るか決めて、その素材を確認してからじゃないの?)

「あっ……」


 そうだ。何から作るのか決めないと。

 手あたり次第自生している植物を採取しても、使えるかどうか分からないし、目的が無いとね。


 何にしよう。

 お薬といえば、まず傷薬?

 それ以外だと風邪薬、鎮痛剤、のど薬……あと何かあったっけ? あ、解熱剤もあったね。

 うーん、何がいいのかなぁ。


 ど・れ・に・し・よ・う・か・なっと。


「これっ! 寿命を伸ばす薬」


 ……え?

 やばくない?

 そんな薬あるの?


「いやいや、最初は普通の、ごく一般的に使われてそうなお薬にしよう。これ、これにしよう」


 選んだのは鎮痛剤、君だ!


 痛みを和らげる薬。

 私も前世でよくお世話になった。片頭痛って嫌だよね。

 えっと、素材はトランバナの実、ガイラナの根っこ、パルトチウムの樹液。初めて聞く名前ばかりだ。


 ん? ちょっと待って。

 パルトチウムの樹液?

 え、木なの?

 畑に木を植えるの??


「パルトチウムっていう木、知ってる?」

(人のつけた名前なんて知らないよ)


 あれ、そうなの?


(エルフの村の近くに生えていたものなら、だいたい分かるんだけどね。でもあれらってエルフが付けた名前だから、人間の付けた名前とは違うかもしれないよね)


 そっかぁ。

 これって魔女の師匠が持っていた本だから、きっと魔女が命名したのだろう。

 例えば日本語なら”ひまわり”だけど、英語なら……英語なら……”ヒーマワリー”、と名前が違うからね。


 英語苦手だったんだよ!


(でもその図鑑と見比べれば、すぐに分かるよ)

「分かるなら大丈夫かな。まずこの三つを探しつつ、それ以外にも何か見つけたら採取すればいいか」


 よし、ぐだぐだしてても始まらない。

 早速散策しよう!


=============================================================


「ねぇ……同じ草しか生えてないんだけど」

(僕に言われても……)


 よく考えれば、近場に生えてるものってほとんど同じ植物になっちゃうか。

 こういうのって群生って言うんだっけ。


(でもこれって、さっき図鑑で見たヤスラギ草ってやつだよ)

「え? そうなの? へぇ」


 一応図鑑だけ持ってきた。

 一冊だけなのは重いからだ。万が一逃げるような場面になったとき、何冊も本を持ってると不利になってしまうからね。


 さて、ヤスラギ草って何の素材になるのかな?


 永眠する薬。


 ヤスラギって、そのままの意味かよっ!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ