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二十五話



 師匠の件は、侯爵がうまく動いてくれたようで、私のところまでは何もこなかった。

 師匠も師匠で、家でごろごろしている。

 生まれ変わって十年、ずっと王女教育を受けさせられたので、当分は何もしたくないんだって。

 私もごろごろしたい。


 そんなある日、唐突に師匠が動き始めた。


「さて、そろそろ家にいったん戻りたいねぇ。ツタを何とかしてくれ」

「何か用事があるんですか?」

「そりゃあるねぇ。あそこにはあたしの商売道具があるんだ。取りにいきたいんだよ」


 そういえば、魔法鞄に入れてないものもたくさんあったね。

 師匠の杖やら服、魔法の箒など、ずっと置きっぱなしだ。


 ……あれ?

 魔法の箒もなしに、どうやって王都からここまで来たんだろうか。

 まさか歩いて、という訳じゃないよね。いくらなんでも十歳児が何日もかけて歩くなんてことはないはずだ。


「箒がなくとも飛べるさね」


 うっわ、ずっる!

 私なんて、箒があっても飛べないのに!

 あれ、めちゃくちゃコントロールが難しいんだよ。


「ひひっ。あたしゃ名付きの魔女だよ。それくらいできなきゃ名付きなんて名乗れないさ」

「それで、あの家に戻ってそのまま住むんですか?」

「ここの家は快適だからねぇ。何もしなくとも食べられるのは、良いことさ」


 ずっる!

 私もそんな暮らししたい!

 ひなが一日ごろごろ生活は憧れる。


 でもここ最近一日おきに仕事なんだよね。

 しかも仕事といっても、薬剤師だから一日おきにごりごり薬を作る、という訳でもない。

 納品する薬は正味五日あれば作れる。

 それ以外は、調合の練習や、レイナウトやニーナたちとの雑談交じりの情報収集に当てている。

 特に調合はまだ全部マスターしたとは言えないからね。


 しかし一日おきにお仕事ということは、年の半分はお休みということなんだよね。

 年間百八十日以上がお休みって、そんな会社ないよね。

 ホワイトだったんだ、この職場。


「はぁ……魔女のお仕事とかってないんですか?」

「今のところは無いが、一度歌詠みのところへ顔を見せにいかなきゃねぇ。だから箒を取りに行きたいのさ」


 歌詠みの魔女。師匠以外の名付きの魔女だ。

 なんでも名付きは全部で七人いるらしいけど、その筆頭が歌詠みさんなんだって。

 どんな人なんだろうね。


「箒がなくとも飛べるが、あればもっと速く飛べるからねぇ。歌詠みも辺鄙なところに住んでいるから、移動が大変だからねぇ」


 師匠だって、辺鄙なところに住んでいたじゃない。

 一番近くのサルトリオまで徒歩三時間、しかも森を抜ける必要があるのだ。

 大木がいなければ、そんな距離なんて歩きたくないレベルだよ。


「ほら、さっさといくよ」

「はいはい」


 師匠はそう言いながら家を出て、即座に空へと浮かび上がった。

 これって風魔法の応用かな?

 まだ師匠と出会った頃、屋根裏の掃除に風魔法を使ってたことがあったけど、炎だけじゃなく風も制御が上手いんだね。

 さすが師匠!


 じゃなくって、あっという間に空を飛んでいった。

 ちょっとまって!?

 幸い今月分の薬は納品済みだ。喫緊で行うものもないので、暫く留守にしててもいい。


 よし、急げ大木! 師匠に負けるな!


 大木に乗せてもらい、急いでアルボスの町を駆け抜けていった。


===


「遅かったねぇ」

「空を飛ぶなんて卑怯です!」


 どう考えても空を飛んでいくほうが早いに決まってる。

 なにせ空は一直線で行けるのに対し、走っていくには障害物があるからね。


 大木から降りた私は、その場にへたり込んでしまった。

 最近マラソンをサボってたから、体力も落ちたみたい。

 うーん、ちゃんと走っておかないとダメだね。


「さあ、はやくツタを消してくれ」

「ちょっと休憩させてくださいよ」

「木に乗ってただけじゃないか」

「乗るだけでも疲れるんですよ」


 馬には乗ったことないからわからないけど、車に長時間乗っても疲れるのだ。

 それより遥かに乗り心地の悪い木の上なら、なおさら、である。

 

 十分ほど休憩して、ようやくちょっとは楽になった。

 休憩中にカヤへごはん力を分けていたので、すでに準備は整っている。


(いつでもいけるよ)


 お願いね。


 そう答えた瞬間、家を囲っていたツタがみるみると縮小していき、地面へと還っていく。

 完全にツタが消えるまで、そう時間はかからなかった。


「ご苦労」


 師匠が偉そうにそう言うと、家の中へと入っていった。

 まあ王女さまですし、偉そうなのは仕方ないけどね。

 態度は昔の師匠と変わらないけど、姿があまりにも違い過ぎて、まだ違和感がある。


「魔法鞄を寄越しな」


 ドアから顔を覗かせてきた。

 見た目は、近所の子どもが見つからないよう、物陰に隠れながら様子を伺ってる姿だ。


「はーい」


 魔法鞄を片手に家へと入っていく。

 この家に入るのも久しぶりだ。十年ぶりくらいかな?


 当たり前だけど中は変わっていない。

 最低でも築百数十年は経っているはずなのに、どこも痛んでいない。


「家に保護魔法をかけているからねぇ」

「保護魔法ってなんですか?」

「劣化を抑える魔法さ。お前さんに預けた調合本にもかけてある。気が付かなかったのかい?」


 そういえば調合本も、最低百数十年以上が経っているのにも関わらず、見た目は変化していなかったね。

 気が付けよ、私!


「あくまで抑える、だからねぇ。そろそろ掛けなおさないといけないねぇ」


 ぶつぶつと言いながら、家にあったものをどんどん魔法鞄へ入れていく師匠。

 そして一時間ほど経過しただろうか。家の中はすっかり物がなくなっていた。


「もうすっからかんですね。この家はもう使わないんですか?」

「まさか。あたしが丹精込めて作った家だよ、持っていくに決まってるじゃないか」


 家をもっていく??


 そう疑問が浮かんだのもつかの間、家をまるごと魔法鞄に入れた。

 ええ!? あれって、家がまるごと入るくらいの容量あったの??


「えっと……その家をどうするんですか?」

「隠し畑だったね、そこに置いておくんだよ」


 家ごと引っ越しは、思いもつかなかった。

 しかも隠し畑に置くんだ。

 まああそこなら土地は広いし、置くスペースも十二分にあるからいいかな。


 侯爵が用意してくれた家は立派なんだけど、私一人で住む設計になっているので、こぢんまりとした作りなんだよね。

 アルボスの家だって、元々私が一人で暮らすつもりで借りたものだから、こちらも同様だ。

 師匠と二人暮らしだと、プライベート空間がないんだよね。


 だから新しく家を建てるのはありだ。


 その後、隠し畑に家を置いて、師匠はそこで暮らすようになった。

 ただご飯はしっかり定期的に持っていく事になったけどね。

 しかも殆ど働いていない。


 たまに箒に乗ってどこかへ出かけているけど、何をしているのかはさっぱりわからない。

 以前言っていた歌詠みの魔女にでも会いに行っているのだろう。


 私は私で、薬剤師としてアルボスの町と隠し畑を往復する日々だ。

 サトウキビの栽培は大木に任せているし、レイナウトが勝手にそれをどこかへ持って行っている。

 たぶんお酒に変えているんだよね。


===


 そして、師匠と会合して数か月後、なんだかやつれたような顔の侯爵とお話しした。

 結果的に、師匠は無事侯爵家の嫡男へ嫁ぐことになった。

 もちろん形式上だ。

 その代わりリツ君の分け木を、王都と公爵家にも分けることとなった。


「アリエス、譲った聖域をいつでも消せるようにしておけ」

「えっ? 設置したのに、わざわざ辞めるのですか?」

「こちらが、主導権を握っている、ということだよ」


 あー、もし何か起これば聖域を盾にするってことか。

 うっわ、汚い。

 さすが貴族!


「万が一の保険、というやつだよ」

「まあ別にそれくらいは構いませんが」


 分け木はリツ君の分体だし、リツ君が共有を辞めればその時点でただの枝となる。

 それくらい、一瞬で出来ちゃうんだよね。


 はぁ、大人の世界を垣間見たよ。




 そして月日は流れていく。

 侯爵が引退し、その息子が次の領主となり、さらに師匠の形式上の夫がそのあとを継ぎ……。


 しかし、私と師匠はなんら変わらない。

 このまま、暫くここで暮らしていくんだね。



いったん、ここで完結とさせていただきます。

他に書きたいものが結構ありまして、しばらくそちらに専念する予定です。


短編書きたいー!




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― 新着の感想 ―
スローライフ感があって日々とても楽しく読ませていただきました ありがとうございます
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