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二十三話


 アルボスの町に来てから十年が経過した。

 なんだかあっという間だったね。

 私やカヤ、リツ君たちは何も変わらないけど、周囲はかなり変わった。


 

 まずサトウキビの栽培。

 何故か町の外に畑を用意されて、そこで育てることになった。

 なんでも砂糖ギルドにばれると厄介なので、隠し畑にするんだって。

 昔、日本でもお上に見つからないよう隠し田んぼとかあったらしいよね。

 領主の侯爵が隠し畑に手を出すとは思ってもなかったよ。


 でもおかげで町中だけでなく、外にも家を持つことができた。

 しかも公費で。

 私の懐は一銭も痛んでない。


 図らずも家を二軒持つことになったので、師匠の家を守ってもらっていた大木を二本呼んだ。

 師匠の家、アルボスの家、隠し畑にそれぞれ三本ずつ。残りの一本は私の足代わりになってもらっている。

 移動が面倒だからね。

 ドラゴンに乗ってもいいんだけど、彼は護衛役に徹してもらうほうが、何かと都合もよかったからね。


 しかも隠し畑の大木たちは、木の癖にサトウキビの栽培を覚えてもらった。

 もともと同じ植物……なのかは疑問に思うけど、なかなか手際よく育ててもらっている。

 そしてリツ君は隠し畑に植え直した。彼の成長促進は非常に便利だからね。


 これでサトウキビの大量生産体制が整った。


 なお、私が甘味として食べる分を除いて、全てお酒に変わっている。

 アルボスは迷宮都市、冒険者たちが多く住んでいる。

 彼らはやっぱりお酒が大好きらしく、薬以上にお酒の需要が高いんですって。

 自領でお酒を生産できれば、それだけでかなり財政が潤うらしいよ。


 私にはどうでもいいことだけどね。



 お酒の生産が安定したころには、随分とレイナウトの顔色も良くなった。

 また第三秘書官から侯爵補佐まで、出世もしたらしい。

 どれだけ偉くなったのか分からないけど、上から三番目とか言ってた。

 えっと……侯爵が社長とすれば、次が副社長? 専務? だっけ?

 常務とかもいたよね。

 まあたぶんこの辺りの役職についたのだろう。



 薬剤ギルドは、一時期しごできギルド長に反発した一部の職員らと対立してたようで、最終的に領主の侯爵まで出張ってきた。

 反発したのは、私が初めて薬剤ギルドを訪れたときに、宝石をちりばめた服を着ていた偉そうな人だ。

 あの人はそれなりな貴族の次男で、日ごろから若造のしごできギルド長に不満を抱いてたらしい。


 人間関係って面倒くさいね。


 そして最後に侯爵。

 この人もそろそろいい年なので、息子さんに爵位を譲るらしく、最近引き継ぎばかりやっている。

 まあ息子さんも既に三十歳くらいだから、ちょうどいいのかな?




 そういえば、いつの頃からか近隣の住民さんたちとの交流も増えた。

 お店は今も一見さんお断りだけど、ご近所さんくらいなら薬を安く売ってもいいかなと思って、少し融通していたんだけどね。

 その中に一人、ケンタ君という初めて会ったときは十歳くらいのクソガ……もといお子様がいたんだけど、こいつしょっちゅう私に絡んでくるようになったんだよね。

 私を見かけると、しょっちゅうスカートめくってきやがる。私はワンピースを着ているけど、ちゃんと下も抜群の防御力を誇っているので、見えても大丈夫なんだけどね。

 ただ背後から奇襲をかけてくるので、ドラゴンがそれに反応して、割と大変な目に合わせたこともあったりする。

 それでも懲りずに狙ってきてたんだから、どこにそんな根性があるのかな。


 まあそんな彼も成人して大人になって、かなり大人しくなった。

 いいご近所関係だと思っている。

 ただしょっちゅう顔を赤らめるので、最近体調が悪いのかもしれない。


 風邪薬でも作ってあげようかな。




 二軒の家を持つことにより、月の前半はアルボス、後半は隠し畑で過ごすようになった。


 正直隠し畑の家があれば十分なんだけど、町にも家があると、何だかんだで便利なんだよね。

 主に買い出し。

 砂糖がふんだんに手に入るようになったので、甘味は自分で作っているけどね。

 でもケーキとかは作れない。あれ、卵が必要だからね。

 というより、お菓子類ってたいてい卵が必要だから、どうにか手に入れたいなぁ。


 鶏とか見たことないけど、似たような動物はたぶんいるでしょ。

 今度聞いてみようかな。



 そう考えながらごりごりと店舗で調合していると、甲高い呼び声が外から聞こえてきた。


「頼もう!」


 頼もうって……何者ですかね。しかも子どもだよね、この声って。

 ご近所に女の子っていたかなぁ。

 いることはいるけど、うちに来るほどの仲じゃない。


 ということは、薬でも買いに来たのかな?

 一見さんお断りなんだけどな。


 大木、ドア開けてね。


 がらっとドアが開かれると、そこには十歳くらいの女の子が佇んでいた。

 金髪でおしゃまな感じだ。着ている服は貴族が着ているような質の良いもので、ご近所さんではなさそう。


「アリエス、久しぶりだねぇ」

「……えっと、どちらさま?」


 久しぶり、と言われたけど記憶にはない。

 貴族の子どもっぽいし、領主のお城へ行ったとき、どこかですれ違ったかもしれないね。

 でもどことなく、どこかで見た覚えもある。姿じゃなく、仕草ね。

 誰だっけ?


「儂の顔を忘れるとは、悲しいねぇ」

「いやだって、見たことないですよ」


 でもどこかで聞いた覚えのある口調だよね。

 うーん。

 誰だったかなぁ。


(アリエス、あの子魔女だよ)


 魔女?

 え? 魔女ってあの?

 ああ、思い出した!

 どことなく師匠に似ているんだ!

 でも魔女ってみんな師匠みたいな口調になるのかな?


「ひひっ、あまり見えないがそこの精霊は分かったようだねぇ」

「えっ? カヤのこと、知ってるの?」

「そりゃあ、知っているねぇ。前と違ってなかなかこの身体は優秀だねぇ。うっすらとだが見えるよ」


(えっ、僕のことが見えるなんてすごいね)


 ほんとだね。

 でも……いやまさかねぇ。

 だって師匠だよ? よぼよぼおばあちゃんだよ。


「ところで、お前さんはまだ分からないのかい?」

「……師匠?」


 にやにやと笑っている女の子。

 ほんとに? え?


「本当に……師匠なんですか?」

「ひひっ、久しぶりだねぇ、我が弟子よ」

「師匠!!」


 思わず抱きしめて、その場でわんわん泣いてしまった。


 あまりに強く抱きしめたせいか、師匠がじたばたしてた気もする。

 でもそんな些細なことはどうでもいい。

 どうして師匠が生きているのか、なんでそんな小さい女の子になっているのか、たくさん疑問はあるけど、それは後回しでいい。


 今はうれし泣きの時間だ。


======


 ひとしきり泣いて落ち着いたあと、師匠を掴まえて部屋に連行した。

 誘拐じゃないからね?

 これから追及の時間だ。

 大木、お茶とお茶菓子お願いね。


 大木が持ってきてくれるまで、師匠をがっしり逃がさないよう抱きしめる。


「なんだいこの子は、うざいねぇ」

「いいんです。十年も放置させられた弟子なんですから、甘やかしてください」


 そして大木がお茶菓子を持ってきたので、テーブルに並べた。

 さあ師匠、食べるんだ。


「へぇ……甘味かい」


 卵がないので、小麦と砂糖だけで作った素朴なお菓子だ。

 なお、お団子は自信作である。

 小学校のころだったかに家庭科で作ったのを鮮明に覚えているんだよね。

 たぶん私が初めて作ったお菓子だからだと思う。


「ふぅん、これは美味しいねぇ」


 自信作ですから!

 もぐもぐ。


「で、師匠。なんでそんな姿になったんですか?」

「知らなかったのかい? 名付きの魔女は転生して知識を蓄えていくんだよ」

「てんせい??」


 詳しく聞くと、力ある魔女は転生の儀式を行って生まれ変わるんですって。

 それを行った魔女が名付きと呼ばれるそうだ。

 師匠も今回で三回目の転生だそうだ。

 えっと、毎回一千年くらい生きているとすると、師匠って二千年以上……うわぁ……すごい。


「でもね、何で遺体も残らないんですか?」

「そりゃ人間の肉体だからねぇ。魔力で無理やり長持ちさせてるから、限界を超えると消えちまうんだよ」


 ベッドの上にぽつんと置かれていた、光っていたオーブ。

 あれが転生用のアイテムだそうだ。

 でもあれって、私が作ったドラゴンから取れたやつだよね。

 なんでドラゴンからそんなアイテムがドロップするんだろう。


「さてね、そこは分からないさ。あたしゃ歌詠みに聞いただけだからねぇ」

「歌詠み?」

「歌詠みの魔女さ。あいつの未来視は外れたことがないから、転生するたびに視てもらってるのさ」


 歌詠みの魔女ってのが、魔女でも一番格上なんだって。

 師匠より格上なんだ、想像もつかないや。


「で、師匠。正直に言いなさい。なぜこのタイミングで私のところに来たんですか?」


 師匠はかなり秘密主義で且つ、利己的な性格をしている。

 転生して別の生活をしていたのに、わざわざ私の前に現れたということは、何らかの理由があるはずだ。

 これでも百年の付き合いだからね。


「へぇ……当ててみな」

「分からないから聞いてるんです!」

「単に家出してきたから、これから養ってもらおうかと思ってねぇ」


 え? 家出?

 ちょっとまって、家出??


「本当は家に戻るつもりだったんだが、誰かさんが強固なツタで家を囲ってて入れなかったんだよねぇ」

「あっ……」


 そういえば、ツタでぐるぐる巻きにしておいたっけ。

 ドラゴンが殴っても壊れないくらい固いからね、あれ。


「いやいや、それより家出って大丈夫なんですか!?」

「大丈夫じゃないねぇ」


 十歳の子供が家出したんだから、そりゃ大丈夫じゃないでしょ。

 それに着ている服も結構立派だし、もしかして良いところのお嬢さんだったんじゃないの?


「どこに住んでいたんですか?」

「王都さ」

「王都……えっと師匠って、もしかして貴族?」

「貴族ではないねぇ。それより面倒くさいったらありゃしないよ。あたしゃ火あぶりの魔女だって言うのに、閉じ込めるんだからねぇ」


 城を丸ごと燃やしちまおうか何度思ったことか、と呟く師匠。

 やめてください。

 それより城?


「城って……」

「王都にある立派な城さね」

「えっと、それって王城って言いませんか?」

「そうだねぇ」


 貴族じゃなく王族か!

 うわぁ、すっごく厄介ごとだ!


 ど、どうしよう?

 王族ってことは、師匠って王女様ってことだもんね。

 侯爵に相談するしかないよね。






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