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十九話



「アリエスさん、お待たせしました。家の準備が整いました」


 侯爵との会談が終わった翌々日、薬剤ギルドの職員が宿を訪れてきた。

 もしかして市民権が発行されたのかな?

 お仕事早いね。


 職員に案内してもらった家は一階が店舗、二階が住居、そして屋根裏のある家だった。


 一階の店舗は何もなく、見事にすっからかんだ。奥に二階へ上がる階段と勝手口があるくらいだった。

 二階の居住スペースは寝室とキッチン、あとリビングがついてた。

 一応お風呂もあるけど、もちろん水道なんて通ってない。庭にあった井戸から汲んでくるのだろう。

 そしてリビングの隅には梯子がかけられていて、屋根裏へと上がることができる。


 屋根裏……懐かしいな。師匠の家の屋根裏は、最初埃と蜘蛛の巣だらけだったね。

 覗き込んでみると、なんと綺麗に掃除されていた。

 風通しも良いので、おそらく素材などを保管するためのスペースかな。


 最後に庭だ。

 さすがに師匠の家のように、マラソンできるほどの広さはない。

 それでも幅十メートル、長さ二十五メートルほどあり、家庭菜園程度なら十分な広さかな。


 家の確認は終わったので、一旦師匠の家に戻って大木やリツ君を呼んでこないとね。

 その前に、ギルドへ行って家を確認したことと、礼を言ってこなきゃね。

 また師匠の家に行くので、ちょっと留守にすることも伝えておく必要がある。

 社会人って大変だ。


 往復するのに時間がかかるし、先に薬を納品しておいたほうがいいかな?

 幸い在庫は魔法鞄にそれぞれ百壺ほどあるので、今月はそれで乗り切ろう。




 ということで、全部やってきました。いまは師匠の家です。

 なお鞄に入ってた在庫は、全部ギルドに買い取られました。

 しごできギルド長め。

 その代わり、資金は増えたけどね。


「大木とリツ君、久しぶり!」

「姉御! お久しぶりっす!」


 大木とリツ君が手を振って挨拶してくれた。

 がさがさうるさい。


「ところで、家を借りたんだけどさ。リツ君は確定で、大木たちは五本くらい来てくれる?」

「あっしは確定っすか!?」

「うん。サルトリオへ定期的に薬を納品しなくちゃだめなんだよね。でも大木たちは話せないでしょ? だからリツ君が取引隊長として、働いてくれたらなと」


 毎月一回、サルトリオへ三十壺を納品しなければならない。

 その運搬を大木たちのお仕事にしようかと思っている。

 でも彼らって話すことができないから、運ぶだけならいいけど、何か問題が発生したときの対処ができないんだよね。

 でも会話できるリツ君ならそれもクリアする。

 まさに天の采配!


「つまりあっしの力が必要になったと?」

「リツ君じゃなければ、できないお仕事なんだよ」

「あっししかできない……姉御! あっしに任せてください!」


 この子、ちょろくない?

 簡単に騙されそう。


「大木たちは、半分連れて行きます。残りの半分はしっかりこの家を守ってて欲しい」


 この子たちも、外の世界を見せたほうが、きっとより良い木になれると思う。

 ……より良い木ってなんだ?


「そうだね、まずはアインスからフュンフまで来てくれる? ゼックスからアハトはここで家を守ること。半年か一年で入れ替えようか。それでいい?」


 がさがさと返事をする大木たち。


(念のため、家をツタで囲って入れなくしておく?)


 カヤ、それはいいアイデアだね!

 ここは師匠との思い出がたくさん詰まった場所だ。

 他の人に足を踏み入れてほしくない。


 カヤ、たっぷりごはん力をあげるから、誰も入れないくらい頑丈にしてね。


(任せて!)


 どんっ、という音と共に巨大なツタが家を囲い始めた。

 みるみると家が覆われていき、一分も経たないうちに完全に見えなくなった。


 ドラゴン、一発殴ってみてもらえる?


 私の命令で、ドラゴンがツタへと殴りかかる。

 どーん、という音と共に振動が伝わってきた。


 え?


 ドラゴン強くない?

 カヤ、どこまで強くしたのこの子?


(魔女に負けないくらい強くしたかったの。でも燃やされちゃったけど)


 あー、まあ師匠はバグキャラだし。燃やされると植物には辛いからね。

 そのドラゴンですら、囲っているツタはびくともしてなかった。


 素晴らしい!

 これなら大丈夫だね!


=============================================================


 大木とリツ君を連れてアルボスの町に戻ったら、なぜか行き交う人々に驚かれた。

 どうせドラゴンを連れているんだから、そこまで驚かれることはないと思ってたんだけどね。


「あの……アリエス殿、これは?」


 家に帰ると、なぜか市民権の話で侯爵の屋敷を訪れたときに、案内してくれたレイナウトが待っていた。

 なんでいるの?


「大木です。いまはミニ大木ですが、本体は十メートルくらいの高さになります」

「そういう意味ではないのだが……」

「これから我が家の護衛として、庭に設置しますので、レイナウトさんもくるなら覚えておいてください」

「そ、そうか」


 なにか顔が引きつっているみたい。

 変なことでも、やらかしたかな?

 なにかやっちゃいましたか? とでも言えばいいのか。


「ところで何か御用でしょうか?」

「あ、ああ。門から連絡があって、様子を見に来たのだ。念のために聞くが、これを暴れさせることはない、と思ってもいいだろうか?」

「不審者が侵入してこない限りは、安全です。それと、彼らには定期的にサルトリオへ薬を運んでもらいます。その間に襲撃があった場合は、保証できかねます」

「う、うむ。町中でなければ問題はなかろう」


 用事はそれだけかな?

 じゃあ、私は大木とリツ君を庭に埋めないといけないので、この辺でさようならだね。

 あ、そうだ。家具とか買わなきゃ。

 レイナウトは知っているかな?


「ところでレイナウトさん」

「な、なんだ!?」


 そんなに驚かなくても。

 まあ大木たちは圧が強いから仕方ないかな。


「……この家に合うような家具を売ってるお店はご存じですか?」

「家具か。侯爵家御用達の店でよければ紹介するが?」


 貴族御用達って高そう。

 でもどうせ家具を買う必要はあるし、一度見せてもらうのもありだね。


「よろしくお願いします」

「ああ、明日には紹介状を届けさせよう」




 そして翌朝、以前宿を訪れた騎士の人が紹介状を持ってきてくれた。

 名前は忘れました。誰だっけ?


「薬剤師アリエス。第三書記官レイナウトよりこれを預かっている」


 すごく分厚い封筒を手渡された。

 紹介状ってこんなに書く内容があるんだ。

 それとも、侯爵家だから格式やら前置とか色々とあるのかな?


 ところで、お店の場所は?


「こちらは、門通り沿いにある。門から三分ほどの場所にあるので、歩いて行けば分かる」

「そうですか、ありがとうございます」


 門前から徒歩三分ね、わかった。

 それなら迷うこともないかな。


 紹介状を片手に、荷物運び要員として大木二本と護衛のドラゴン、カヤを連れて家具屋を訪れた。


 中に入ったら、まあお上品な家具ばかりが並んでいること。

 うわー、ちょっと場違いかも。

 お値段は書いてない。以前の甘味と同じく、お金なんて気にしない人が買うんだろうね。


「あ、あのお客様! 当店にそのようなペットを……」

「は?」

「ひっ!? な、なんでもございません! ど、どうぞ店内をごゆるりとお過ごしくださいませ!!」


 ドラゴンは身長が高すぎてお店に入れなかったので、ミニ大木を二本店内に連れて入ったら、速攻で店員から文句を言われました。

 ペットとか言われて、思わずイラッとしてしまった。

 いけないいけない、大人な対応を心がけないとね。


「ああ、これを店長に渡してください」

「えっ? あ、は、はいっ! ……領主様からの御紹介状?」

「どうぞよしなに」

「かしこまりました! しばしお待ちくださいませ!」


 慌てて奥へ引っ込んでいく店員。

 その間に家具を見させてもらおう。


 まず目についたのは、シックですごく落ち着いた雰囲気の家具たちだ。

 目立たず派手さもなく、かといって品質が悪いということもない。

 部屋におけば、きっとちょうどいい具合で収まってくれそう。


 ……じゃない、私はなんの家具が必要なんだ?


 えっと、まずは衣類などを仕舞えるタンス。これは大きめがいい。

 他には食卓。どうせ私一人しか使わないので、小さめでいい。

 リビング用のテーブルとソファにベッド。

 あとは小物などを収納できる……なんていうのかな? 収納棚?

 それ以外だと、食器棚も欲しいかな。


 割と必要だね。

 これはミニ大木二本じゃ運べないかも。



「アリエス様でしょうか?」


 色々考えていると、白いお髭が豊かなご老人が、営業スマイルで声をかけてきた。

 何となく店長っぽい人だ。


「わたくしはこの店を預かるクリプトと申します。アリエス様からお預かりした御紹介状には、領主様からよしなにと。何をお探しでしょうか?」


 やっぱり店長か。


 さっくり必要な家具の種類を伝えると、店長は破顔した。

 たくさん買うし、お店にとっては嬉しい客なんだろうね。


「それはまた、大量ですな」

「どの程度の費用がかかりますか?」

「領主様にお納めしている家具と同程度のものであれば、金貨三百枚ほど……」

「無理です」


 なにそのお値段!

 金貨三百枚? 私の月収の何倍よ?

 師匠の遺産があるから買えることは買えるけど、無駄使いはしたくない。


「さようですか。それでしたら格は落ちますが、金貨三十枚ほどで揃えられるものもございます」

「そちらにしてください」


 金貨三十枚でも高いとは思うけど、よくよく考えれば甘味だって金貨一枚するのだ。

 家具をたくさん買えば三十枚くらいはするだろう。


 私が買う意思を決定した瞬間、ほくほく顔になった店長。

 しっかり宅配サービスまでしてくれた。

 運ぶ手間が省けて助かったわ。


=============================================================


 後日、レイナウトが来た時に言われたけど、買った家具は一般人が買うものより百倍ほど高いものだったらしい。

 詳しく聞くと、どうやら領主ではない他の貴族が買うような家具だったそうだ。

 一般人はせいぜい大銀貨三枚くらいなんだって。


 えっと、だいたい家具って一つ数万円くらいだとすると、数を揃えれば三十万円くらいはかかるだろう。

 じゃあ私が出した金額って三千万円ってこと?


 最初に大きな金額を見せて、後から本命を出してくる。交渉でもよくある手法だ。

 これは一本やられてしまった。

 商売上手め!


 貨幣価値、ちゃんと覚えないとだめだね。





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