十四話
「ここがアルボスの薬剤ギルドね」
ビルっぽい建物の入口に看板が掲げられていて、薬剤ギルドと書かれていた。
中央通りから一本隣りの通り沿いに建物はあった。
割と大きな建物で、サルトリオよりひと回り大きい。
それだけ人が多いのだろう。
入口から入ると広めのロビーがあり、奥には数人、受付に並んでいる。
ドラゴン、天井に頭ぶつけてない? 大丈夫?
ぎりぎり、天井にはぶつかってなさそう。
さて、紹介状を渡すには受付に並べばいいのかな?
迷っていると、職員らしき人がおそるおそる声をかけてきた。
「あの……失礼ですが、当ギルドにペットの連れ込みは……」
「ペットではありません。護衛です」
「ひっ、し、失礼しました!」
あ、冷酷モードのままだった。
まあ最初が肝心、このままで行こう。
「この紹介状は、どなたに渡せばよろしいですか?」
「あっ、えっ、あ、あの、上長に渡してきます!」
だだだだっ、という擬音語がぴったりなくらい、駆け足で奥へと引っ込んでいった。
そこまで怖がらなくても……。
そして数分もしないうちに、いかにも儂は偉い、と全身で訴えている人が出てきた。
そのままパーティにも出席できそうな衣装で、ところどころ宝石が散りばめられている。
サルトリオの薬剤ギルド長よりも、若干年上かな?
しかし……ここって儲かってそうだね。
「サルトリオの紹介状をお持ちのアリエス様ですか?」
こくりと頷く。
ではこちらへ、と言われドラゴンを連れて二階への階段を登っていく。
廊下がまっすぐ伸びて、左右にドアがいくつも並んでいる。二階は会議スペースだけみたい。
作りはサルトリオの建物と似ているね。
その真ん中辺りの部屋に案内された。
「ギルド長を呼んでまいりますので、しばしこちらでお待ちください」
あら?
あの人がギルド長じゃなかったんだ。
副ギルド長、あるいは一階フロアの責任者くらいの人かな?
いつの間に用意されたのか、お茶とビスケットが机に用意されている。
二人掛けのソファに座り、背後にドラゴンを立たせておく。
カヤ、毒や睡眠薬は入ってる?
(ないね。普通のお茶菓子かな)
以前、睡眠薬入りのお茶を出されたことがあったから、こういうところで出された食べ物は、常にチェックするよう心がけている。
危機感は大切だ。
でも……嫌な世界だね。
ビスケットを手に取ってみる。
硬い。
でも厚みはなく、薄いからか、スープに浸さなくても食べられそうだ。
おせんべいみたいなもの、と考えればいいかな。
……っ!?
えっ、甘い?
もしかして砂糖が入ってるの?
サトウキビがあるなら、ぜひ一本欲しい!
この世界に生まれ変わってから、甘味というものを食べたことがなかった。
なくても生きていける。
でも心のゆとりには、甘いものが欲しいよ。
ところで、どうやればサトウキビから砂糖が取れるのかな?
焼く? 煮る? それとも蒸す?
やばい、何も知らない。
まあ、その辺りはあとで頑張ればいいか。
(きたよ)
甘味を食べたせいか、どうやら顔がにっこにこになってたようだ。
カヤから注意が飛んできた。
おっと、いけない。無表情にしなくちゃ。
「失礼するよ」
その直後、部屋のドアが開いて、まだ若い男が一人入ってきた。
一人だけ?
サルトリオのギルド長だって、私と会うときには、数人護衛らしき人を連れてたのにね。
「君がサルトリオ支部の紹介状を持ってきた人だね。俺はアルボス支部のギルド長、アドルフだ」
「魔女グレタの弟子で、薬剤師のアリエスです」
「さて、率直に問おう。ここアルボスにも、サルトリオと同じ薬を納品してくれる、ということで良いんだね?」
「はい」
おお、しごできギルド長だ。
忙しいのだろう、前置きも無くいきなりお仕事のお話しになったよ。
「それは助かる。量については?」
「毎月傷薬、体力回復薬、鎮痛剤をそれぞれ壺十個ずつでいいですか?」
「うーん、それじゃ足りない。三倍くらいに増やせないか?」
三倍??
そんなに必要なんだ。
でも三倍か……この三つは作り慣れているし、素材も簡単に揃えられる。
今までなら作ってる時間は無かったけど、これからは余裕もある。
「可能です」
「買取価格については、サルトリオと同じ値段にしよう。ところで、アリエス殿はアルボスに移る、という認識で合ってるかな」
師匠に言われたからね。
これからはアルボスの町で活動するつもりだ。
それに頷く。
「住居は決まっているかい? 自分で店を出す予定は?」
ええ?
随分とぽんぽん聞いてくるね。
家は決まってないけど、お店は出さないと思う。面倒だからね。
私に接客なんて無理だ。
「今日着いたばかりなので、まだ決まってません。店はやるつもりはありません」
「そうか。店舗付きの家を探しておこう。将来、店を持ちたいと考えたときに便利だろう? 普通の家に比べれば家賃は高いが、薬の買取値で十分暮らせるはずだ」
お店いらないって言ってるのに。
人の話、聞いてる?
「店舗より、広めの庭がある家を希望します」
「心配するな。薬剤師なら自分で素材を育てることもあるだろう。庭付きは必須で探しておく。それに店舗を使わなくとも、そこを仕事場にすればいい」
なるほど、店舗ではなく調合室にするのか。
普通の家だと部屋は狭いからね。実際、師匠の家も調合部屋は狭かった。
毎回、置き場に困ってたんだよね。
だから魔法鞄に何でも入れちゃってた。整理しないとなぁ。
でもね、そんな広い家って家賃いくらなんだろ?
高くない?
「個人経営向けの店舗なら、月に金貨三枚程度だな」
えっと、今まで壺十個ずつで金貨二枚だったから、その三倍の金貨六枚になるのか。
手取りの半分が家賃。
……高くない?
え? 大丈夫?
「万が一足りなくなれば、追加で買取も可能だ。心配ない」
うっわ、これが囲い込みってやつ?
まあサルトリオに卸す分もあるから、金銭面もおそらく大丈夫なんだけどね。
それに手持ちもかなり残ってる。
なにせ師匠の貯めていたお金も遺言で相続してるから、かなり余裕はあるんだよね。
相続税?
そんなのありません。
「家はいつごろになりますか?」
「二週間程度で見つけておこう。それまでは、薬剤ギルドと提携している宿があるので、そこに泊るといい」
何から何まで用意されているよ。
とりあえずお仕事は決まった。
今日のところは、宿でゆっくりしよう。
「あとで宿まで案内お願いします」
「うむ、受付に伝えて……いや、一緒に一階まで行こう」
ドラゴンを見て、しごできギルド長が何か諦めたように、一緒に一階まで戻った。
そして、さきほど紹介状を持っていった職員に宿まで案内してもらった。
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宿はギルドからわりと近い場所で、徒歩五分くらいだった。
なお、宿代は一日銀貨一枚だそうで……高いのか安いのか分からない。
(おつかれさま)
部屋の中に入って、荷物を下ろすと一息ついた。
本当に疲れちゃったよ。
あ、ドラゴンは残念ながら廊下で立ち番です。ドアから部屋に入れなかったんだよね。
そして室内を一瞥。
ふーん、まあまあ……なのかな?
そういえば、この世界で宿屋って初めて泊った気がする。
ベッドは木の枠に、綿が入っているマットレスかな、それが敷かれている。
たぶん普通だね。
(じゃあこれからどうするか、優先度付けようか)
いい提案だね! カヤもしごできだ。
じゃあ、まずは羅列してみよう。
えっと、まずは家を借りる。
大木を何本かと、リツ君を呼ぶ。
ギルドに納品する薬を作る。
あとはあとは……そういえば綿花も作るんだっけ。
……あ! サトウキビ聞くの忘れてた!
そして最後に、生活に余裕ができたら、引き続き調合本に載ってる薬の練習だ。
師匠の名に恥じないレベルの調合技術を、きちんと身につけたい。
(綿花って、結局作るんだ)
作るよ!
……そのうちね。
(百年後くらいになりそう)
うるさいっ!




