十三話
「カヤ、ここに藁をお願い」
(ええー、また? アリエスは僕を使い過ぎだよ。大体藁って作るの面倒なんだよ? 藁なんてなくても、寝られるよ)
私は火あぶりの魔女グレタを師に持っていた、薬剤師のアリエス。
師匠が亡くなり、その遺言でアルボスという町に向かっている途中だ。
でも割と遠いんだよね、歩き疲れた。
なお体力については、結構自信がある。
なにせ師匠に弟子入りしてから、百年近く、ほぼ毎日マラソンをしていたからね。
とはいっても、限度はある。
フルマラソンの選手が百年間、毎日走ったからといって、タイムが半分になるわけではないのと同じだ。
ゲームに例えれば、種族値の上限に達した感じ……なのかな?
さて、目的地のアルボス。
ここはアルボス侯爵という貴族が治めている町で、特に有名なのがすぐそばに迷宮があることだ。
実際は迷宮があったから、そばに町を作った、って感じなんだろうけどね。
迷宮ですって。ファンタジーだ!
なお、アルボスや迷宮については、サルトリオという町の薬剤ギルドから入手した情報だ。
今までお世話になっていたし、遺言でアルボスに引っ越しするよ、って連絡を入れたんだけど、必死になって引き止められました。
魔女特性のお薬を納品してたから、それが無くなると困るんだってさ。
仕方がないので落ち着いたら、また今まで通り納品することを約束してしまった。
どうやって運ぼうかな。
早く落ち着けるように、サルトリオの薬剤ギルドからアルボスの薬剤ギルドへ連絡を入れてくれたりもした。
これが、伝手ってやつか!
人との繋がりって、思わぬところで役に立つんだね。
(こんな感じでいいかな?)
「さすがカヤ! いよっ、日本一! 私にできないことをあっさりしてのける、そこに痺れる憧れる!」
(……意味が分からないよ)
カヤのおかげで、寝床もできた。
さて、早いけど今夜は寝るとしましょう。
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迷宮。
この世界の不思議なものの一つ。
誰が、どのようにして、何のために作ったのか、一切不明なもの。
内部は非常に強力な魔物たちの住処となっていて、命を失うことも多々ある。
その代わり、様々なお宝や財宝が手に入るのだ。
さらに不思議なのが、迷宮内の魔物は倒しても倒しても、ある程度時間が経つと復活すること。
それに伴い、内部にあったお宝も同じように時間が経つと復活する。
不思議だよね。迷宮に小人さんがいて、裏で必死に補給でもしているのかな?
そんな危険な迷宮へ潜り、魔物を倒しつつお宝を集めてくるのが、冒険者と呼ばれる人たちだ。
当然のごとく、力が正義だという荒くれ者が多いらしい。
ただし、魔物と戦う上で、どうしても生傷が絶えない。
そこでこの世界の病院に当たるのが、教会だ。
教会には回復魔法を扱う聖職者、ゲームで例えるならヒーラーがいる。
彼らの魔法で癒してもらうのだ。
もっとも、治療費は結構なお値段がするらしい。
中には聖職者なのに、冒険者をやっているものもいる。聖職者を仲間に加えた冒険者は幸運だろうね。
もちろん欠点はある。
魔法なので、私とカヤが言うところのごはん力、世間一般では魔力を消耗する。
これが尽きれば魔法は使えないし、いざというときの為、なるべく魔法を温存させておきたい。
だからこそ、ここで傷薬や体力回復薬、鎮痛剤の出番があるのだ。
つまり、聖職者が仲間にいない、あるいはいたとしても、薬の出番は非常に多い。
うふふ、儲かるかな?
まあ薬なので、重症の患者には使えないし、魔法のように即時治るってわけでもないけどね。
その代わり、安価だ。
需要が大きいので修行にもぴったりだし、伝手を作るのにも役立つから、行けって師匠の遺言に書かれてた。
ということで、師匠の家を出てサルトリオを経由して十日目、とうとうアルボスの町が見えてきた。
この距離なら、大木たちに運搬を任せれば三日くらいで行けそうだ。
なお人とすれ違うのは怖いので、街道を使わず、始終森の中を突っ切ってきました。
だから十日もかかったのかな。
アルボスの城壁はサルトリオよりも高くて頑丈そうだ。
町と迷宮はほぼ隣り合わせの距離で、万が一迷宮の魔物が外に出ても被害を広げないよう城壁で囲っているらしい。
普通城壁って、外の敵に対して防御するためのものなんだけど、アルボスは中に迷宮があるので、内部から逃がさないための城壁なんだってさ。
さて、そんなアルボスの町にある門には、思ってたよりも長い行列が出来ていた。
一番目立つのは商人だ。大きな馬車が何台も並び、その周りには護衛らしき強そうな人がいる。
そして次に目立つのが、おそらく迷宮へ挑みに来た冒険者かな。帯剣していて、鎧姿の人たちだ。
中にはローブ姿の人も見える。
こう見ると、それ以外の観光客だったり、一般人っぽそうな人はほとんどいないね。
そんな中に、エルフで普段着の私が並べば、非常に目立つだろう。
サルトリオの薬剤ギルドでも、絶対油断するなって注意されたもの。
でもあまりやりすぎないで、とも言われたけどさ。
そこで登場するのが、護衛役のドラゴンだ。
見た目強そう、実際強い。炎は吐かないけど、色々なギミックを仕込んでいる。
カヤが頑張ってくれた成果だ。
(じゃあドラゴン出すよ)
お願いしますカヤ先生!
私の中からごはん力が吸い取られ、そして緑色をした、二本足で立つドラゴンが生まれた。
あとは、私のモードを切り替える。
サルトリオで学んだけど、普段の私だと舐められるのだ。
このため、表情を変えずに淡々とした口調で話すことにした。自分で冷酷モードと名付けている。
背後に大木の護衛を並べて、これで対面すると非常に怖がられるのだ。
昔、色々とやらかしたらしい師匠の弟子、という面も大きいとは思うけどね
私がドラゴンを連れて列に並ぶと、それに気が付いた人たちが一斉に驚いていた。
中には剣に手を当てる人もいたりする。
大丈夫だよ、うちの子は私に手を上げない限り大人しいので。
ただ、うちのドラゴンは高さ三メートルほどあり、ほとんどの人より高い。
威圧感あるだろうね。
「お、おい。あんた、これ大丈夫なの……ってエルフ!?」
私の前に並んでいた、おじさんが恐々といった感じで声をかけてきた。
そんなおじさんへ見せつけるようにドラゴンの手を取ると、お姫様のようにドラゴンに傅かれた。
「あっ、ああ……いや、なんでもない。すまなかった」
少し笑みを浮かべるだけ。何も話さない。
これだけで、結構効果があるんだよね。
若干遠巻き気味になってたけど、そのまま何事もなく一時間ほどで私の番になった。
「私は魔女の弟子で、薬剤師のアリエス。サルトリオの町を拠点にしていたが、師の命令でこちらの町に拠点を移すこととなった」
そう門番に伝えながら、サルトリオの薬剤ギルドでもらった紹介状を手渡す。
「魔女? サルトリオ? あ、ああ……」
門番もよく分からない、という顔をしながら紹介状を見て、目を見開いた。
サルトリオ辺境伯家の印もあるからね。
百年近くサルトリオで薬を売っていたのだ。
薬剤ギルド経由でその町の領主との繋がりも出来てしまうのは、仕方ないこと。
紹介状と私を見比べる。
「と、通って良し!」
他の町の貴族印も貼られている紹介状だ。
きっと門番も、どう扱っていいか分からなかったのだろうね。
あっさりと許可が出た。
そんな彼らに軽く礼をして門をくぐった。
そして目に付いたのは、サルトリオとは全く違い、熱気が溢れているところだった。
一般人っぽい人はあまり見かけず、冒険者らしき人たちが、とにかく多い。
彼らは我が物顔で町中を練り歩き、立ち並ぶ店に出入りしたり、食べ歩きもしている。
もちろんごみはポイ捨てだ。
えぇ……治安わっる。
でもちゃんと子どもの清掃員がいる。彼らは慣れた手つきで捨てられたごみをまとめていた。
ああして、子どもにもお仕事を与えているのか。
ふーん、と思いつつ表情はおすまし顔で、いざ通りに出た途端、見事に絡まれた。
「おいおい、ここは人間様の町だぜ」
「エルフがなんでいるんだよ」
冒険者らしきガラの悪い者が四名。お風呂も満足に入っていないのか、薄汚れている。
外に出るなら、最低限身だしなみくらいは整えようよ。
しかし彼らには、私の隣にいるドラゴンが見えないらしいね。
まあいい、無視だ無視。
彼らを一瞥し、軽くふっと鼻先で笑って、そのまま通り過ぎようとする。
「お、おいまて!」
まさか無視されるとは思わなかったのだろう。
しばし唖然としてたが、我に返った一名が私の肩を掴もうとしてきた。
が、彼が私を掴んでくることはなかった。
ドラゴンが、がっしりとその男の手首を掴みあげる。
「い、いてぇ!」
「おい、お前なにするんだっ!!」
慌てて他の三人が助けようと動いた瞬間、ツタで雁字搦めにした。
「ふっ、下種ですね」
なるべく冷酷そうに言葉を吐き出し、かっこよく指をパチンと鳴らした。
するとツタが生き物のように動いて、彼らの着ている武具などを脱がしていく。
武士の情けで下着までは剥がなかったけど、半裸状態にしてツタを絡ませたまま、門前に放置した。
大丈夫だよ。そのツタは頑丈だけど、半日くらいで消えるからね。
後ろでぎゃあぎゃあ騒いでるが、そんなもの完全無視だ。
(アリエス、平気?)
大丈夫!
絡まれるなんて久々だったから、内心緊張してたけどさ。
(ところで剥いだやつ、どうするの?)
いらない、埋めておいて。
お風呂にも入っていないような男が着てたものなんて、絶対触りたくない。
師匠ならきっと火で焼却処分するだろうけど、私は使えないので埋めてあげるのだ。
あとで掘り返せば手に戻るし、私ってば優しいよね。
それよりカヤ、聞きたいことがあるんだけど。
(なにかな?)
薬剤ギルドって、どこ?
(知らないよ)
……二時間ほど町中を散策することになった。
だって、みんなドラゴンを怖がって、話を聞いちゃくれないんだもん。




