九話
「まずは魔力を感じることからだねぇ」
早速魔力操作の修行が始まった。
でも何から始めればいいのか、さっぱり分かりません!
師匠に聞いてみたんだけど、曖昧でした。
感じるって何を?
「どうやって感じるんですか?」
「知らん。エルフは人間より遥かに繊細な感知能力を持ってるはずだからねぇ。ま、頑張んな」
放置されました。
んー、要は精神修行だよね。
じゃあこういう場合、滝に打たれるとか瞑想するというのが定番だ。
でも滝なんてないから、瞑想から始めようかな。
(なにやってるの?)
「……瞑想、のつもりが寝ちゃってたみたい」
お布団替わりに敷いた藁の上で座禅を組みながら、何となく身体のあちこちを意識していたら、足元がぽかぽかで暖かくなってきて……。
ついうっかり。
えへっ。
そういえば、カヤは精霊なんだからきっと魔力操作もお手の物だよね。
コツとかないかな?
(魔力って、ごはんのことかな?)
「あ、それかも。カヤにお願いしたとき、私から何か吸い取ってるでしょ? たぶんそれが魔力だと思う」
(僕だけじゃごはん力が足りないからね。力を使うときは、アリエスから少し貰ってるんだよ)
ごはん力ってなに!? 私、ごはん係りなの?
なんとなく、給食当番を思い出した。
(でもアリエスはね、村にいた他のエルフたちより遥かに、たっくさんごはん力を持っているから、足りなくなるってことはないと思うよ?)
もういいや、魔力はごはん力だ。
うん分かりやすい。
ごはんをあげると元気に成長してくれるし、頑張ってくれるし、調合だってごはんパワーで不思議なものになる。
身体の中にある、ごはん力を探す。
……身体にあるごはんって、よく考えたらシュールだよね。
いやいや、余計なことは考えちゃダメ。
うーん。うーん。うーん。
ごはん力……ごはん力。
(ちょっ、アリエス!)
うーん。うーん。うーん。
ごはん……炭水化物……お米……お米たべたい!
……ミシッ。
何か聞こえたような気がするけど、瞑想瞑想。
(だからアリエスってば!!)
おにぎり! 塩で味付けして、ノリをまいたシンプルなおにぎり食べたい!
……バリッ。
床が軋んだような音が聞こえたけど、気のせいかな。瞑想瞑想。
それより、おにぎりだ。
塩のみもいいけど具入りも捨てがたい。
定番の鮭かな? いや梅干しも合うし、昆布やわかめ、ひじきもいい。
いっそ、全部食べたい!
ぱこーん。
「このぽんこつ娘っ! なにしてるんだいっ!!」
突然、師匠の怒声と同時に頭を叩かれた。
いたいっ!
「えっえっ? 痛いってば師匠!」
「どえらい魔力を天井から感じたと思ったら……なにやってるんだいっ!」
「魔力? えっと、瞑想やってたんですけど……」
「全く、この家ぶっ壊す気かねぇ」
え? もしかして、わたし何かやっちゃいました?
なんて定番のセリフはどうでもいいや。
よくよく師匠に聞いてみると、どうやら私から大量の魔力が出ていたらしい。
自分でも何やってたのか、よく分からない。
でも言えることは一つ。
ごはんの想像力すごい。
もしかしておにぎり最強では?
あと、庭で大木たちが右往左往していた。
何やったのか分からないけど、なんかごめん。
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「お前さん、瞑想禁止だねぇ」
「えええっ!?」
そんな……おにぎり……。
「魔力は十二分にあることは分かったからねぇ。それをもっと小さく、細かく制御しな」
「どうやって?」
「しらん」
そんな!
だいいち、おにぎりしか考えてなかったのに、どうして魔力なんてものが溢れてくるのか。
それが分からない。
「魔力は人それぞれ。制御方法もまたそれぞれだねぇ。だから教えることはできん」
「師匠はどうやって制御しているんですか?」
「ぶわーっと溢れたのを、ぎゅっと小さくして、分割させて一つずつ制御しやすいように分けてるねぇ」
擬音語やめてください。
師匠は感覚派か。
でもイメージはついた。
おにぎりを一口サイズにして、食べやすくさせるんだね。
……ちがう?
それからが地獄だった。
おにぎりの感覚は掴んだ。これは楽だった。
なにせ、探さなくても身体中どこにでもおにぎりがあるからね。身体中がおにぎりは、かなりシュールだけど。
でもね、問題は次だった。
何度試しても、おにぎりを一口サイズにできないのだ。
なお、家を壊す一歩手前までやらかして、大木たちに修理をお願いしたこともあった。
……枝、切っちゃってごめんね。
それだけチャレンジしてもできない。
なんで!?
(アリエスはさ、たぶん魔力が多すぎて制御できないんだよ)
自分では多いとか少ないとか分からないけど、おにぎりだらけだから、多いんだろうね。
エルフってみんなこんなものなのかな。
こういうところこそ、ぽんこつだったらいいのに。
制御できないほど多いのは、ある意味ぽんこつか。
……悲しい。
(うーん、一つ提案があるんだけど)
「なーに?」
(僕がごはん分けてもらって、それを返せばいいんじゃないかな)
……できるのかな?
えっと、ごはんあげる。カヤがつまみ食いして、食べた残りを返してもらう。
カヤのくいしんぼ!!
でも、一度やってみるか。
「はいカヤ、あーん」
(あーん、ぱくっ……うごぉぉぉぉ!?)
女の子らしくない声と共に、カヤが床に落ちた。
ちょっ、ちょっと!
落ちるくらいまずかったの!?
(お、多すぎ……る……ぱたっ)
カ、カヤーーーー!!
それからも、カヤにごはんをあげまくった。
多すぎるということで、スプーンに分けて食べさせるように頑張った。
それでも多かったのか、何度もカヤは床に落下した。
「カヤ、最近太ったんじゃない?」
(えっ?)
あ、違う。
カヤって確か二十センチくらいだったのに、三十センチくらいまで大きくなってるんだ。
わお、成長期だねぇ。
(アリエスがたくさんご飯を、無理やり口に突っ込むからだよっ!)
だ、だって……。
これできないと、鎮痛剤作れないもん。
長老に持っていけないじゃん。
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そんなこんなで、気が付けば数年が経っていた。
いきなり数年?
やだなぁ、こちとら五十歳から七十年間引きこもってたベテランよ?
数年なんて誤差の範囲さ。
それはそれとして、この頃になると師匠は数日、家を開けることが多くなった。
まあ私も一日中、調合の本を熟読しているんだけどね。
調合本は分厚くて、一ページずつ熟読してると、ものすごく時間がかかるのだ。
しかも何度も読み返して内容を覚えるまでを繰り返している。
年単位でかかるって、相当な量だよね。
でも前世でいえば、六法全書を丸覚えしている感じがする。どう考えても全部覚えきれないよ。
相変わらず、カヤからごはんを返してもらってない。
いい加減、食べ過ぎじゃないかな。
既に五十センチほどのサイズになっている。そのうち抱き枕サイズになるのかな。
最近はごはんをあげて、そのまま本を読んでることばかりの日常だ。
おかげさまで、かなりごはんをあげることが上手くなったけどね。
(これだけ大きくなれば、アリエスのごはんも受け止められるよ)
そんなある日、カヤから宣戦布告を受け取りました。
ほほぅ、私のごはんを全部食べ切ると?
ん? 全部食べちゃダメ! つまみ食いだけだからねっ!
「はい、あーん」
(あーん)
カヤは一瞬身もだえしたものの、指を私の口に近づけてきた。
食べろっていうのかな?
えっと……ぱくっ。
カヤから返してもらったごはんを口に入れると、体内にあるごはんと質が違う感覚がする。
そのまま口から喉を通して肩へ。そして自分の手の先へと移動させた。
とてもスムーズだ。
面白くて右手から左手へ、そのあと右足へ、など遊んでいると、カヤから白い目で見られた。
はい! 真面目にやります!
でも、どうせ失敗するんでしょ? そういうオチ知ってるんだ。
なんせこの数年間、何度も何度も調合にチャレンジしたのだ。
色が変化したり、爆発したり、まるでミミズのようにのたうちまわったりしたのだ。
最後、きもいよね。
そして途中で諦めて、調合本の熟読へと切り替えたのだ。
これはこれで、必要なことだからね。
どうせ失敗するだろうと、力を抜き、カヤから貰ったごはんを両手へと移動させ、実をすり潰す。
……ん? あれ?
ごりごりとすりこぎ棒を動かしていくうちに、液状となっていく実が変化していく。
だんだん手に移動させたごはん力が小さくなっていき、逆に液状へと滲み渡っていった。
えーっと、これは?
昔、師匠に見せてもらった調合。あれと似たような雰囲気をもっている。
ん? あれ? もしかして成功?
「師匠! 師匠! 師匠!!」
「何度も叫ばなくても、聞こえておるわ!」
幸い師匠は、今日家にいる。
慌ててさっき調合したものを、師匠へ見せに行った。
「これっ、これ見て!」
「なんだい。ほう……へぇ」
師匠の見る目つきが変わった。
じっと素材を見て、更に指を入れて軽く混ぜたりする。
そして、液状化したものを突き返してきて、一言。
「制御が甘い。やり直し」
……えぇ。
成功じゃないの?
「まあでも、やっと一歩前進だねぇ」
「本当に?」
「ああ、やっとだねぇ。これでようやく調合の基本に移れる」
「基本……」
そうですよね。
やっと調合ができる地盤が整っただけですもんね。
でも、できなかったことが、できた。
これは大きな一歩だ。
うん、やる気が一気にあがった。
よし、がんばるぞ!




