めっちゃかわいい二本足の猫がギフトをくれた件
ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
配達の人だとは思うけれどいつもより遅い。恐る恐るドアを開けると、自分と目線が同じくらい大きな、二本足のネコが立っていた。
「長靴は履いてないんだ」
思わずそう言った途端、前世の記憶が蘇ってきた。
時が巻き戻るように前世の赤ちゃんになり、早送りのように今の自分に戻ってきた。
「っはぁ!」
無意識に止まっていた息を吐き出す。
「思い出したようにゃ」
ネコがニッコリと笑った。
「チェシャ猫?」
「ボクはチェルシーにゃ」
「……どうも。前世も今もリンカです」
「日本からこの世界に転生した人にはもれなくギフトを渡していたにゃ」
「ギフト?」
「そうにゃ。手違いで今までごめんなのにゃ」
「はあ」
チェルシーがもふもふの両手を合わせてから広げると(あ、CMで見た動きだ)二つの箱が現れた。小さな箱と大きな箱(雀?)。
「どれでも好きなのを選んでほしいにゃ」
チェルシーは自分の前に二つの箱を少し離して並べた。
「中身が何なのか、ヒントは貰えるの?」
「ダメにゃ」
「どのくらい迷っていいの?」
「できれば今日中にお願いしたいにゃ」
「とりあえずお茶を飲んでいい? チェルシー、あなたもどう?」
「嬉しいにゃ。いただくにゃ」
両親が他界して二年。兄弟姉妹もなく、友人はいるものの家族持ち。この家で誰かとお茶をするのは久しぶりだった。
「はい、どうぞ」
家にあったクッキー缶を開けた。もふもふの手で器用に食べている。どうやって動かしているんだろう。
「美味しいにゃ」
「チェルシーは配達がお仕事?」
「他にも色々できるにゃ」
「そうなんだ。今は誰かに雇われているの?」
「なかなか決まらにゃくて、いわば厳選中なのにゃ」
「希望の就職先とかあるの」
「居心地がいい所がいいにゃ。ごちそうさまにゃ。ついゆっくりしてしまったにゃ。そろそろ選んでほしいにゃ」
「決めたわ!」
「準備するにゃ」
チェルシーは立ち上がって箱の後ろに立つと、それぞれの箱に片手ずつ向けた(あの動き、お寿司三昧したくなるわね)。
「……お願いするにゃ!」
「チェルシーにします!」
「ボクでいいのかにゃ? 他の人は箱を選んだにゃ」
「やっぱりあなたも選択肢の一つだったのね」
「その通りにゃ」
「ちゃんと三つのうちの一つとか言わないと」
「なるほどにゃー」
チェルシーが両手を合わせると箱は消えた。
「うちで働いてくれる?」
「もちろんにゃ。嬉しいにゃ」
私はチェルシーのもふもふの胸に飛び込んだ。
完




