進化武具と、最初の依頼
バルトラムの夜は長く、冷たい。だが、工房の炉は静かに赤く灯っていた。
バルドの手が動く。鍛冶槌が鉄を打つたび、火花が散る。
ティナはそれを黙って見つめていた。
「……すごい。あのバルドさんが、目を輝かせてる」
「バルドは、腕だけなら王都でも一級だった。スキルがない、というだけで追われただけさ」
俺は炉の横で、素材のスキル情報を読み込んでいた。
《素材:火鉄鉱》
→《進化可能:熾炎鋼》
【効果】:高熱耐性+斬撃時の炎属性付与(微)
《スキル保管》が示す進化条件は「高温鍛造+魔力注入」。
バルドに条件を伝え、俺の魔力を注ぎ込むと──
素材が赤く輝き、甲高い音を立てて変質した。
「これが……進化素材ってやつか。こいつで作るのか?」
「ああ。ティナの短剣だ」
バルドは黙ってうなずき、再び作業に没頭した。
* * *
翌日、ティナの腰には新しい短剣が提げられていた。
黒銀の刃に赤い模様が走る、鋭さと美しさを備えた一振り。
「これ……軽い! でも、すごく手に馴染む!」
「炎属性付きで、魔物に対する威力も上がってる。何より、進化スキルに対応してる」
「進化スキルって?」
「“進化したスキル持ち”が使うと、武器も反応して強化される。例えば、ティナの《空間察知》と連動すれば──」
俺の言葉の途中で、ティナが一瞬だけ身を翻し──空中に投げられた果実を一刀両断した。
「うわっ……すごっ……」
「……えへへ。ちょっと見えた気がして」
スキルと武器が、共鳴している。
これが“進化ギルド”の可能性の一端だ。
* * *
「クロウさん、依頼です!」
宿の受付が慌ただしく駆け込んできた。
見るからに新人ギルドの俺たちに話しかけるのは珍しい。
「小規模な魔物討伐依頼です。……正規ギルドが全部断ってて」
「断る理由は?」
「場所が……貧民街の地下です。行方不明者が多数。調査兼討伐……らしいです」
ティナがちらりと俺を見る。
「行こう。俺たち《リビルド》の仕事は、“誰も拾わない依頼”を拾うことだ」
ティナがきゅっと短剣の柄を握った。
「うん。クロウお兄さんと一緒なら、怖くないよ」
こうして、ギルド《リビルド》初の正式な依頼が動き出した。
地下に潜む“何か”との遭遇は、まだ誰も知らない。