バルトラムと落ちこぼれ鍛冶師
バルトラム──それは王国の西端、国境に近い自由都市。
規律を嫌う者、追放された者、運に見放された者が流れ着き、それでもなお“強さ”だけは価値とされる街。
「思ったより……うるさいね」
ティナが顔をしかめた。活気というには荒々しい喧騒が、通りを支配している。
「ここじゃ、スキルも地位も、金で測られる。俺たちみたいな無名は、最底辺だ」
街の一角、冒険者登録所を兼ねた宿に入り、登録手続きを済ませる。
「ギルド名は?」
「《リビルド》だ」
「聞いたことないな。ま、登録は自由だからな。好きにしな」
そっけない対応。だが、今はそれでいい。
その夜、ティナと別れ、俺は一人、鍛冶工房の集まる裏通りへと足を運んだ。
(仲間を集めるには、まず装備がいる。だが、金がない)
頼るのは、かつて王都で名工と呼ばれながら、スキルが発現しなかったことで評判を落とし、ここに流れ着いた──落ちこぼれ鍛冶師、バルド。
彼の作る武具は精度も威力も高いが、スキル付与ができないため、どこのギルドからも見向きされない。
「……クロウ? お前、生きてたのか」
煤けた工房の奥で、無精髭の中年男が顔を上げる。
「生きてたし、“ギルド”を作った。バルド、あんたの腕が必要だ」
「俺に何ができるってんだ。スキルがない鍛冶屋に、価値なんか……」
「《スキル進化》があれば、話は別だ。素材を進化させ、武具を進化させる方法がある」
「……お前、まさか」
バルドの目が揺れる。
「俺は“保管”してきた。あんたの鍛冶も、仕上げ方も。進化に必要な“観察”は、全部、ここにある」
俺は胸に手を当て、《スキル保管》のウィンドウを開いた。
《対応演算》──バルドの鍛冶手順との照合を開始。
《可能進化:鍛造技巧 Lv1 → 鍛造練成術》
《効果:素材加工に対し、魔力耐性および強度の付加が可能となる》
「進化……するのか。俺の技が」
「“落ちこぼれ”なんかじゃない。可能性は、まだ眠ってるだけだ」
しばらくの沈黙の後、バルドが工具を持ち上げた。
「……火をつけろ。仕事の時間だ」
この街に“再起”を。
ギルド《リビルド》、始動の第一歩が今、踏み出された。