ギルド名は、まだない
翌朝。朝露が草の葉先で光り、ラセル村の空気はどこか清々しかった。焚き火の残り火を囲みながら、俺とティナは今日の旅立ちに向けて支度をしていた。
「で、どうするの? クロウお兄さん、これから」
ティナが木の椅子に腰かけ、湯気の立つスープを口にしながら尋ねる。昨夜よりも声に張りがあるのは、スキルの進化で少し自信を持てたからだろう。
「いずれは、冒険者ギルドの認可を取って、“ギルド”を作るつもりだ」
「ギルド?」
「そう。スキル進化を中心としたギルド。“可能性”を集めて、誰でも強くなれる場所を──」
俺はスプーンを置き、焚き火の火に視線を落とした。熱ではなく、決意を見つめるように。
「……ただ、まだ名前も決めてなかったな」
ティナがくすっと笑う。
「『まだないギルド』……っていう名前でも面白そうだけど」
「仮の名前でもいい。目標が形になるだけで、気持ちも変わるからな」
俺はしばらく考える。過去に囚われず、未来に縛られず、ただ仲間と進む場所。そんな場所に相応しい名を。
「“リビルド”……再構築、再起動。どうだ?」
ティナは一瞬目を丸くして、それから嬉しそうに頷いた。
「うん、いいと思う。今の私たちにぴったり」
こうして、俺たちのギルド《リビルド》が誕生した。
* * *
その日の昼、ラセル村の村長が見送りに来てくれた。
「クロウ、お前さんには感謝しかない。この村を救ってくれて、ありがとう」
「いえ、俺たちも……この村で救われました」
ティナも、少し照れながら頭を下げた。その背後には、何人もの村人が集まってきていた。
「これ、旅の支度に使ってくれ」 「道中、怪我したときはこれを塗るんだよ」 「それと……これ、お守りだから」
温かな言葉とともに、干し肉や薬草、小さな護符が俺たちの荷に加えられる。ティナは布包みを手に、目を潤ませながら「ありがとう……!」と呟いた。
温かい空気の中で、俺たちはラセル村を旅立った。次に向かうのは、隣国との国境近くにある都市──バルトラム。
そこには、資格を失った“元冒険者”たちが流れ着き、独自のルールで暮らす混沌の街があるという。
「強くなるために、俺たちに必要な仲間が、きっとそこにいる」
「うん、クロウお兄さん」
ティナと肩を並べて歩き出す。ギルド《リビルド》。まだ名前だけの小さな場所。だがここから、全てが始まる。