スキル継承と、仲間の才能
村を襲った魔物の群れを退けた翌日。ラセル村には平穏が戻っていた。
だが俺は、その静けさの中で、何かが変わり始めているのを感じていた。
「お兄さん……昨日の戦い、ほんとに、すごかった」
そう言ってティナが、いつになく真剣な目でこちらを見る。
「私、今まで“戦う”なんて考えたことなかった。でも……昨日は、怖くて、悔しくて……」
彼女の拳が、膝の上でぎゅっと握られていた。
「私も、誰かを守れるようになりたい。……お兄さんみたいに」
その言葉に、俺の胸がわずかに熱くなる。
「ティナ……スキルは、誰にだって進化する可能性がある」
俺はそう告げて、彼女の手をそっと取った。
「ティナは何か感じることが多いだろ? 危ない気配とか、誰かの動きとか。たぶんそれ、“スキル”になってる」
「えっ……?」
俺は彼女の手のひらに、自分のスキルをそっと流す。
《スキルリンク:発動条件一致──対象のスキルを一時共有》
──その瞬間、俺の視界にティナのステータスが浮かんだ。
《ティナ・グレイス》
所持スキル:〈気配察知〉Lv.3
→ 進化可能:〈空間察知〉
やはり──ティナの感覚は、獣人特有の鋭敏さに裏打ちされたものだ。
だが、それだけじゃない。
「このスキル……進化する」
俺が指先で触れると、ティナの体が一瞬だけふるりと震えた。
目の奥に、かすかな光が灯る。
《スキル進化条件達成──〈気配察知〉→〈空間察知〉》
「──っ、これ……!」
ティナが目を見開いた。
彼女の視線は、明らかに“別のもの”を見ていた。
俺の位置、背後の木の葉の揺れ、地面に潜む小さな虫たちまで。
「見える……音も、匂いも、動きも……全部、頭の中にあるみたい」
それは、まさに“空間そのものを感じ取る力”。
彼女の才能が、進化という形で姿を現したのだ。
「これが、進化……」
彼女は小さく呟き、そして笑った。
「ありがとう、お兄さん。これからは、私も一緒に戦える」
「ああ。仲間だからな」
そう言って、俺はティナの手をしっかりと握り返した。
──新しい仲間。新しい力。
俺たちのギルドは、ここから始まる。