スキルは、進化する──俺だけの力で
深い森の中。風の音も聞こえない、静寂の世界。
盗賊の死体を前に、俺は膝をついていた。
手は震えている。息も切れている。
だが、それ以上に胸の奥が、熱く燃えていた。
「……勝った。俺が、ひとりで……」
初めての、“自力の勝利”。
誰にも頼らず、誰の指示も受けず、俺のスキルで、俺の判断で、俺の命を守った。
だが、勝利の直後、俺は背中に走った激痛で崩れ落ちた。
どうやら最後に逃げた盗賊の一人が、倒れる寸前に短剣を振るっていたらしい。
不意打ちだった。避けようもなかった。
「ぐっ……、クソ……」
服の背が裂け、血が滲む。
だが意識はまだ保てている。俺は必死に体を引きずり、森の外を目指した。
──それから、意識を失った。
* * *
次に目を覚ましたときには、藁葺き屋根の下。
柔らかな布の感触と、薬草の匂い。
「──あ、起きた!」
耳の先が尖り、ふさふさとした尻尾を揺らす獣人の少女が、目を輝かせていた。
「ここは……?」
「ラセル村だよ。お兄さん、森で倒れてたの。背中、すごい傷だったよ」
彼女はティナと名乗った。狐族の少女で、この辺境の村に暮らしているらしい。
「ありがとう。助けてくれて」
「ううん、助けてもらったのはこっちだよ。魔物から逃げてた子を守ってくれたでしょ? うちのおじいちゃんが見てたんだ」
そうか。あのときの子ども……無事だったんだな。
「……あれは偶然だよ。俺が逃げてたら、ちょうど通りかかって」
「でも、戦ってくれた。あの動き、すごかった! まるで戦士みたいだったもん」
俺は少しだけ迷ってから、正直に話した。
「俺のスキルは《弱点分析》。戦闘の動きを見て、相手の隙を読み取るんだ」
「すっごい……そんなの、まるで英雄じゃん!」
──英雄。
王都では“無能”と罵られ、笑われたスキル。
けれどこの村では、たった一人の少女が、それを目を輝かせて称えてくれた。
その言葉が、胸の奥で静かに響いた。
* * *
村の長老に挨拶に行くと、「助けてくれた礼だ」と、しばらく滞在することを勧められた。
「ここの人たちは、俺がいても……嫌な顔をしないんだな」
そう呟いた俺に、ティナは不思議そうに言った。
「なんで? お兄さん、すごいのに」
──すごい。
その言葉が、今はただ嬉しかった。
なら、俺はこの村から始めてみよう。
誰かの“戦力”じゃなく、“仲間”として生きられる場所を。
俺のスキルで、俺自身を、そして他人を変えていける場所を。
「……よし。やってみるか」
この辺境の村を拠点に、俺は新たなギルドを作る。
“追放者”でも、“無能”でもない、“進化する者”たちのギルドを。