第一章・終幕:再構築の証明
黒槍がわずかに傾く。
その瞬間、ヴァイスの姿が掻き消えた。
「っ──!」
反射的に剣を横薙ぎに構えた。火花と衝撃が腕を痺れさせる。槍の石突が、目にも止まらぬ速さで俺の脇腹を狙っていた。
「悪くはない。だが遅い」
槍先が翻る。風圧が皮膚を裂き、背後の壁が爆ぜる。速度も、間合いも、完全に支配されていた。
(……速さで勝てる相手じゃない)
一手受けるたびに、筋肉が悲鳴を上げる。それでも退かない。退いた瞬間、ティナが危険に晒されるからだ。
「クロウお兄さん、二歩後ろ! 次、右から来る!」
ティナの声が飛ぶ。
その一瞬だけ、ヴァイスの目がわずかに細められた。仲間の声を戦いに織り込む──その戦い方を、彼は試している。
「ほう……守るつもりか」
槍が大きく引かれ、地面を貫いた。石畳が弾け飛び、粉塵が視界を奪う。
(見えない……!)
粉塵の奥から、殺気が迫る。
次の瞬間、槍が頭上から振り下ろされ──
――外れた。
ヴァイスの目が、僅かに見開かれる。
(……来たか)
俺の中で、何かがひっくり返る感覚。
《確率干渉》が発動したのだ。
“当たるはずだった攻撃”が、ほんのわずかな瓦礫の崩れで軌道を逸らされた。
「この一瞬……もらった!」
俺は踏み込み、ヴァイスの槍柄を斜めに打ち払う。衝撃で彼の体勢が崩れる。その隙に喉元へ剣を突きつけ──止めた。
「……悪くない」
ヴァイスは小さく笑みを漏らし、槍を引いた。
「その力、偶然か必然か……いずれにせよ、戦場で生き残る資質はある」
そして、懐から封印付きの推薦状を取り出す。
「《リビルド》──俺が推薦してやる。ただし、忘れるな。強者の世界は、立ち止まった瞬間に終わる」
その言葉には、戦いの中でしか知り得ない重みがあった。
「……わかってる。俺たちは止まらない」
ティナが駆け寄ってきて、心底ほっとしたように笑った。
「やったね、クロウお兄さん!」
その日、ギルド《リビルド》の看板が初めて掲げられた。
まだ小さな始まりだが──この一歩が、すべてを変える。