ギルド戦線、始動
自由都市バルトラム。
王都の規律が届かぬこの街は、追放者と強者、そして“無法”の希望に満ちている。
俺とティナが立ち上げたギルド《リビルド》は、ようやく登録が通ったばかり。まだ看板すら掲げられていない無名ギルドだ。だが、ここから始まる。
崩れた旧塔の出来事──あの瞬間、確かに俺の中で何かが変わった。
未来は固定じゃない。たとえ“確率”の壁があったとしても、それを超えていく手段はある。
俺は、それを手に入れた。
──《確率干渉》。
それは一度きりの奇跡を引き寄せるスキル。
だが奇跡は、使われるまで“備え”でしかない。
「……さて、ここからどう動くか、だな」
バルトラムにあるギルド認可制度は、王都と違いかなり“現実的”だ。依頼達成数も重要だが、何より評価を決定づけるのは「強者からの推薦」。特に、Aランク以上の冒険者からの信頼は、圧倒的な信用に繋がる。
だが、そんな存在にそう簡単に会えるはず──
「クロウお兄さん……あれって、もしかして……!」
ティナが小声で呟き、通りの向こうを指差した。
──槍を背負った黒衣の男が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「……ああ、間違いない。《黒槍のヴァイス》だ」
この街で知らぬ者はいないAランク冒険者。かつて王国軍の精鋭部隊に所属していたが、ある事件をきっかけに脱退し、今はどのギルドにも属さない孤高の実力者。
その彼が、無名の俺たちの前で立ち止まり、言葉を発する。
「《リビルド》の代表は──お前か」
「そうだ。クロウだ」
ヴァイスは少しだけ目を細める。品定めするような視線。だがそこには、明確な興味がある。
「旧塔の件……聞いた。お前が崩したのか?」
「……ああ。崩したのは結果だが、中で起きたことは全部、俺たちが処理した」
「ならば、それを証明しろ」
彼は背負っていた黒槍を地に突き立てた。その瞬間、舗装された石畳が砕け、周囲に鈍い音が響き渡る。
「この場で、俺と一戦交えろ。勝てとは言わん。だが──逃げた時点で、話は終わりだ」
周囲の冒険者たちがざわつく。
有名な実力者が、無名の新参者に“腕試し”を挑んでいる。
これは試練だ。否、チャンスでもある。
ティナが俺を見上げ、不安そうに唇を噛んだ。
俺は静かに剣を抜く。
「望むところだ。俺たち《リビルド》は、強さから逃げない」
ギルドとは、信頼だ。
信頼とは、力で築くものだ。
俺のスキルが“進化”するなら、ギルドもまた──成長するものだ。
「俺たちの“始まり”を、この一撃に込める!」