旧塔と、進化する影神の爪痕
王都南部の外れ──かつて天文観測に使われていたという旧塔。
今は朽ちかけたその建造物の前に、俺とティナは立っていた。
「ここ……なんだか空気が重いね」
「“何か”が蠢いている。エルナが言っていた“影神”の爪痕、間違いなくここにある」
塔の扉は、既に半壊していた。内側から吹き出すように、黒い“すす”のような魔素が漂っている。
ティナが短剣を抜き、俺は魔力障壁を展開する。
階段を上がるたびに、空間が歪むような圧迫感が増していく。
そして──最上階。
そこにあったのは、巨大な魔法陣と、中央に浮かぶ“結晶の欠片”。
前に見たものと同じ構造……だが、これは明らかに“進化”していた。
《解析開始──影神封印片》《警告:変質進行中》
《新構造確認:同化型スキル媒体/意思断片抽出機能》
「……これは、結晶じゃない。影神自身が、“新しいスキルの形”に進化してる」
そのとき──結晶から“腕”のような黒影が伸び、こちらへ襲いかかってきた。
「クロウお兄さん!」
ティナが前に出て、防御障壁を張る。が、黒影は物理も魔力もすり抜ける。
脳内に直接、響いてくる“音”──いや、“呼び声”。
『……シンク……ロ……進化……共鳴……』
《警告:ティナ=ヴェルレ:精神リンク強制進行中》《対応演算:切断準備》
「ティナ、離れろ!」
「だ……め……動けない……」
俺は瞬時に《スキル保管》の防御ログから“精神遮断式”を抽出、魔導端末に展開し、結晶との間に強制遮断結界を張る。
バチィ、と空間が裂ける音とともに、黒影は結晶に引き戻された。
ティナが膝をつき、荒く息をしていた。
「……大丈夫か」
「うん……でも、頭の中に……声が……いっぱい、入ってきた」
俺はティナを抱きかかえ、結晶に目を向ける。
「このままじゃまずい。これはもう、“ただの遺物”じゃない」
影神の欠片は“スキルの形”を取って、進化と同調しようとしている。俺たち《リビルド》の存在が、それを加速させているのかもしれない。
──このまま関われば、ティナの進化も、俺のスキルも、境界を越えてしまう。
けれど。
「それでも、止まるわけにはいかない。誰かが踏み込まなきゃ、この“影”は広がる」
その時、魔導端末が鳴動した。
『王都魔導院より通達:封印領域、各地で同時活性の兆候あり──』
……影神は、一箇所だけじゃなかった。
全ての始まりは、きっともっと深いところにある──