王都からの使者と、再会の気配
地下迷宮での依頼から三日。バルトラムの片隅にある酒場で、俺とティナは静かに報告書をまとめていた。
「ギルド《リビルド》──名前は地味だけど、“地下で影を斬った”って噂、ちょっとずつ広まってるみたいだよ?」
ティナが嬉しそうに言う。実際、宿の受付でも態度が少し変わってきていた。新米扱いではあるが、“無視される”段階は超えたようだ。
そこへ、酒場の扉が静かに開いた。
入ってきたのは黒いマントを羽織った男──その背には、王都騎士団の紋章が輝いている。
「……王都からの使者?」
俺が立ち上がるより早く、男は一通の封筒をテーブルに置いた。
「クロウ=イシュトリア殿。王都より、指名依頼だ」
「指名、だと?」
「“地下の封印に触れた者”として、王城魔導院より照会があった。詳細は書面にて確認願いたい」
男はそれ以上何も言わず、振り返るとすぐに酒場を後にした。
俺は封を開け、中身を読んで──息を呑んだ。
「“王都魔導院上席術師・エルナ”──あいつが関わってる」
「エルナ……って、クロウお兄さんの昔の仲間?」
「いや、もっと複雑だ。……幼馴染で、俺を“追放”する決定にも関わっていた人物だ」
ティナがそっとこちらを見る。
「再会……するの?」
「ああ。どうやら、逃げられそうにない」
そのとき、ティナが急に頭を押さえた。
「ティナ?」
「……なんか、変。スキルが、暴れてる感じ……」
彼女の瞳に、一瞬だけ赤い光が宿った。
《警告──スキル:空間察知/応力演算 進化状態:不安定》
《影響源:未知の魔力干渉/遠隔干渉の兆候あり》
俺はティナの肩を掴み、静かに言った。
「……これも、結晶の影響か。まだ終わってないんだな、あの地下の件は」
王都からの使者、再会する“かつての仲間”、そしてティナに忍び寄る進化の代償。
静かに、だが確実に、新たな局面が幕を開けようとしていた。