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佐藤、恋を語る(他人の)

 翌日、佐藤はいつものように会社のデスクに向かっていた。朝の通勤電車に揺られ、何も変わらない日常が流れていく。ただ、その日はいつもと少しだけ違っていた。


 佐藤の同僚、小野田 正志(45歳)は、その日の昼休みもまた、少し過剰に明るかった。


「おーい、佐藤! 昼飯行くか?」


「うーん、いいよ。今日は軽く食べようかな」


「軽く? お前、最近元気ねぇな。なんかあったのか?」


「別に、何もないよ」


 佐藤は少し笑顔を作るが、小野田はじっとそれを見つめてから、何かを思い付いたように言った。


「おい、佐藤。お前、最近、なんか恋愛関係で悩んでるだろ?」


「え?」


「お前、あれだろ? ひなたちゃんに何かしてやってるんだろ? 恋愛相談とか」


「そんな、別に……」


 佐藤はすぐに言葉を濁した。しかし、小野田はさらにニヤリと笑って続けた。


「いや、いいんだよ、そんなの。俺も恋愛経験豊富だからな、いろいろアドバイスできるぞ」


「お前、失敗談ばっかりだろ」


 佐藤は少しため息をつきながら返すと、小野田は楽しげに笑った。


「確かに、失敗も多かったけどな。それでも、恋愛については俺のほうが先輩だろ?」


「それは否定できないけど」


「なーに、少しでもお前の役に立てれば、嬉しいじゃないか」


 小野田は腕を組んで、どこか得意気に言った。それを聞いた佐藤は、少しだけ心が軽くなる気がした。


「じゃあ、ちょっと教えてくれよ、恋愛のこと」


「ほほう、いいぞ! お前の恋愛相談も受けてやるから、なんでも聞いてこい」


「いや、そういう話じゃなくて……」


 佐藤は目を伏せ、少し恥ずかしそうに言った。


「ひなたが、どう思ってるのか分からなくて」


「うーん、なるほどな。それは難しいな」


 小野田はしばらく黙った後、ゆっくりと言った。


「お前な、俺の経験から言わせてもらうと、若い女の子はな、意外と純粋だ。恋愛って、結局、お前の気持ちをどう伝えるかが大事なんだよ」


「それは分かってるけど……でも、俺はただの相談相手で、そんなに積極的に関わっていいのかって思うんだ」


「ふん、そんなこと考えてたら恋愛なんてできねぇよ!」


 小野田は肩を叩いて、豪快に笑った。


「恋愛って、結局は突っ込む勇気だ。佐藤、お前、今すぐひなたに気持ちを言え!」


「な、なんでだよ!?」


「お前、そんな中途半端な気持ちでいいのか? それに、ひなたもお前のこと、少しは気になってるはずだぞ」


「そ、そんなことないって……」


「ほーら、照れてやがる。でもな、お前みたいな真面目なやつが一番、女心をくすぐるんだよ」


 佐藤は思わず顔を赤らめて、目を伏せた。


「だ、だって、俺は……」


「恋愛経験が少ないから自信がないんだろ?」


 小野田は茶化すように言うと、さらに続けた。


「でもな、俺も昔はな、結局、告白しなかったんだ。で、後悔してる。だから、お前にはそういう後悔をしてほしくない。気持ちを伝えたほうが、絶対にいい」


 佐藤はその言葉に、少し動揺を覚えると同時に、心の中で何かが決まったような気がした。


「うーん、でも、なんか勇気が出ないんだよな」


「なら、俺が背中を押してやるよ!」


 小野田は勢いよく立ち上がると、佐藤に手を差し伸べた。


「さぁ、行こうぜ、佐藤!」


 佐藤は少し戸惑いながらも、小野田に引っ張られるまま、オフィスを抜け出すことになった。




 一方、ひなたのほうはというと、相談室を開いて以来、ますます忙しくなっていた。


「お疲れ様、ひなた!」


「お疲れ様、ミキ!」


 ひなたはミキに軽く手を振りながら、最近は新しい相談者が増えてきたことに心を躍らせていた。


「やっぱり、恋愛って楽しいよね」


「うん、でも、ちょっと難しいよね」


 ひなたはその言葉を聞き、思わず考え込んでしまった。


「そういえば、最近佐藤さん、あんまり来ないね」


「うーん、それはどうかな?」


「でも、なんか気になるんだよね」


「気になる?」


 ミキが目を輝かせて言った。


「うん、だってさ、佐藤さんって、意外といい感じだと思わない?」


「え?」


 ひなたは思わず驚きの声を上げた。


「そんなこと、ないよ!」


 その瞬間、ひなたの携帯が鳴った。画面には「佐藤さん」と表示されていた。


「うわ、佐藤さんからだ!」


 ひなたは急いで電話に出る。


「もしもし?」


『あ、ひなた……あのさ、ちょっと、話があるんだ』


「え? なんですか?」


『会える時間取れる?』


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