親バレ危機一髪!
ひなたの家の近くの公園で、ひなたと佐藤がベンチに座っていた。その日は、特に何も決まった話題がなかったのか、ただ静かな午後を過ごしているだけだった。時折風が吹き、ひなたの髪がふわりと揺れる。
「佐藤さん、最近、全然恋愛相談室の活動してないよね?」
「いや、やってるだろう。ちょこちょことね」
「でも、ここ数日、あんまり新しい相談者が来てないよね?」
「それは、ちょっと忙しくてな」
佐藤は言い訳をしつつも、心の中では少しほっとしていた。実は、最近はひなたの父親、高橋 翼(48歳、警察官)が気になって仕方がなかったのだ。ひなたの父親に相談室のことを知られたら、間違いなく怪しまれる。そして、それがバレれば、ひなたとの関係も変わってしまうのではないかと心配していた。
そんな中、ひなたの携帯が鳴り、画面には「父さん」の文字が表示される。
「おっと、父さんからだ。ちょっと失礼!」
ひなたは、少し焦りながら電話に出た。
「はい、父さん?」
電話越しに聞こえる高橋の声は、いつもより少し厳しそうだった。
『おい、ひなた。今すぐ家に帰れ。急ぎで話したいことがある』
「え? 今、ちょっと外にいるんだけど、何かあったの?」
『いいから、すぐ帰れ。早くしろ』
電話がガチャリと切れる。
「うーん、何か嫌な予感がする……」
「なんだよ、怖い顔して」
「いや、なんでもない。ちょっと家に戻ってみるね」
ひなたは急いで立ち上がると、佐藤に向かって軽く手を振った。
「佐藤さんも気をつけてね!」
「お、おう……」
佐藤は少し不安な気持ちを抱えつつ、ひなたを見送った。
――数時間後、ひなたは家に帰ると、すぐに父親の怒った顔が出迎えてくれた。
「お前、最近変だぞ?」
「へ? 何が?」
「何がって、なんだその『恋愛相談室』だ? 学校の友達と一緒にやってるんだろう?」
ひなたは一瞬、心の中でドキッとした。
「な、何のこと?」
「お前、相談者とか言ってたけど、その内容、俺、全部聞いたぞ。あんなの、ちょっと普通じゃないだろ!」
「ま、待って! 父さん、ちょっと勘違いしてるよ」
「勘違い? お前、誰に相談してんだ? 佐藤か?」
「え?」
ひなたは思わず言葉を詰まらせた。
「佐藤さんって……」
「そうだよ。佐藤だよ、佐藤!」
「……でも、あれはただの相談だから! 別に危ないことしてないし、そんな変な関係じゃないから!」
「だとしても、お前、そんな男と一緒にいるなんて許せないぞ!」
高橋の顔が真剣そのものになってきた。ひなたは少し頭を抱えたくなった。
「お父さん、お願い! 佐藤さん、すごく誠実な人だし、ただの恋愛相談だよ! あんなに心配しないで!」
「心配? お前が心配だ!」
ひなたの父親は深いため息をついてから言った。
「お前、もういい歳して恋愛の相談なんかしてる場合じゃないだろう。ちゃんと勉強しろ、勉強」
「でも、私はみんなのために役立ちたいんだよ! 恋愛相談室だって、少しでも役に立ちたくてやってるの!」
「だから、そういうのは、まともな大人に頼んでおけ! 佐藤なんかに頼んでどうする!」
ひなたの父親の声はますます激しくなっていった。彼女は必死に言い訳をしようとしたが、思わず言葉が出ない。
その時、家の扉が開く音がした。ひなたが振り返ると、予想通り、佐藤が顔を出していた。
「すみません、ちょっとお邪魔します……」
「佐藤か?」
高橋の顔が一気に険しくなった。
「その……ひなたの相談相手をしている者です」
「相談相手だと?」
「はい、ええと、ちょっと勉強を助けてるというか……」
「助けてる?」
高橋は佐藤をじっと睨んだ。その目には、あからさまな疑念が宿っていた。
「……佐藤さん、ちょっとやめてよ!」
ひなたが思わず叫んだ。
「お父さん、違うから! 佐藤さん、恋愛相談なんてしてないし、勉強を教えてもらってるだけだよ!」
「勉強を?」
高橋が少し驚きの表情を見せた。その隙に、佐藤は一歩前に出て、しどろもどろに言い訳を始めた。
「そ、その、えっと……私、あの、ひなたさんに、ちょっと社会人として、こう、教えているだけなんです」
「……社会人?」
「はい、ええ、私、社会人ですし、アドバイザー的な感じで……」
高橋は佐藤をじっと見つめたが、少し間をおいて、ぽつりとつぶやいた。
「……ふーん。まぁ、君がそう言うなら、今回は見逃してやる」
「本当に?」
「でも、ひなた、君がそんな人と関わってるなんて、ちょっと納得いかないな。気をつけろよ、いいか?」
「はい!」
ひなたは必死に笑顔を作りながら、佐藤にお礼を言った。
「佐藤さん、助けてくれてありがとう!」
「い、いえ、そんな、なんとかなると思って……」
佐藤は照れながら立ち上がると、家を出て行こうとした。その後ろで、ひなたは深いため息をついていた。
「危なかったよ、佐藤さん。本当にありがとう!」
「いや、こっちこそ、すみませんでした。でも、これで何とかなると思いますよ」
そして、ひなたは深く息を吐きながら、心の中で誓った。
「これからも、絶対に相談室の活動、続けていくぞ!」