(後日談)時を経て、また新たな一歩
春の陽気が過ぎ、夏の気配が感じられる頃。ひなたは大学での新生活に少しずつ慣れてきていた。忙しい授業、サークル活動、友人たちとの交流──。日々が駆け抜けるように過ぎていく中、ふとした瞬間に思い出すのは、あの日、佐藤と過ごした卒業式の日のことだった。
あれから半年、ひなたは一度も佐藤に会っていなかった。電話やメールでのやり取りは続いていたが、どこかお互いに忙しく、会う機会がなかった。
「卒業してから、何だかあっという間だなぁ。」
ひなたはふと、大学のキャンパスを歩きながら呟いた。新しい環境に馴染んだとはいえ、あの頃の佐藤とのやり取りが心に残っていた。あの日、佐藤に伝えた「ちょっとだけ、好きだったよ」という言葉が、今も心の中で温かく響く。
その日の午後、ひなたは久しぶりに、佐藤からメッセージを受け取った。
『ひなた、元気か?こっちは相変わらず忙しいけど、頑張ってるよ。そういえば、久しぶりに会わないか?』
ひなたは少し驚きながらも、心の中で喜びがこみ上げてきた。佐藤からの誘いは、久しぶりの再会を意味していた。
「会えるんだ…久しぶりだな」
ひなたは嬉しさを隠しきれず、すぐに返信をした。
『はい!会いたいです!いつがいいですか?』
数日後、二人は再びカフェで会う約束をした。
約束の日、ひなたは少しドキドキしながらカフェに向かった。卒業してから久しぶりに会う佐藤。会うのが楽しみであり、少しだけ緊張もしていた。
カフェに着くと、佐藤はいつも通り落ち着いた表情で座っていた。髪型が少し整っており、以前よりも少し若干シワが増えたように感じたが、それもまた佐藤らしい。
「久しぶりだな、ひなた」
「はい、久しぶりです!」
ひなたは少し照れくさそうに微笑みながら座った。
「どうだった、大学生活は?」
「楽しいです!でも、最初はちょっと大変で。でも、色んなことを学べて、すごく充実してます。佐藤さんは、どうですか?」
「俺も、仕事は忙しいけど、前より少し落ち着いてきたかな。年齢的に、少し余裕ができたっていうか」
二人はしばらく、近況を報告し合った。自然と会話は弾み、昔のようにお互いに笑顔を見せ合っていた。
「でも、ひなた。あれからどうだ?恋愛の方は?」
佐藤が少しだけ照れくさそうに聞くと、ひなたは少し顔を赤らめながら答えた。
「うーん、まだですね。まだ自分の気持ちが、うまく整理できていなくて」
その言葉に、佐藤は少し考え込みながら言った。
「そうか…まあ、無理に急ぐ必要はないからな。自分のペースで、じっくりと向き合うことが大切だ」
その時、ひなたは気づいた。佐藤が伝えていた言葉が、あの頃よりもずっと重みを持って響いていたことを。
「佐藤さん、ありがとうございます。私、少しずつでも前に進んでいますよ」
佐藤は微笑みながらうなずいた。
「ひなたなら、きっと大丈夫だと思うよ」
その後、二人はさらに話を続けた。佐藤はひなたに、昔の恋愛の失敗談を笑い話として話してくれた。それはひなたを笑顔にさせ、また何気ない日常の一瞬がとても特別なものに感じられた。
会話が途切れたとき、ひなたはふと、佐藤に言った。
「佐藤さん、私…やっぱり、少しだけ、好きだったんです」
その言葉に、佐藤は静かに答えた。
「ひなた…俺も、お前に感謝してる。お前のおかげで、俺はまた自分のことを見つめ直すことができたんだ」
その言葉に、ひなたは心が温かくなった。
「でも、今はそれぞれの道を歩んでいくんだよな?」
佐藤が真剣に言うと、ひなたも静かに頷いた。
「はい、それぞれの道を。私、もっと成長します」
佐藤はその言葉に微笑んで、静かに言った。
「お前ならきっと、素敵な未来をつかむよ」
その後、二人はカフェを後にした。ひなたは、以前のように不安や迷いを抱えていたわけではなく、これからの自分にもっと自信を持てるようになった。
そして、ひなたは確信した。
あの日伝えた「ちょっとだけ、好きだったよ」という気持ちは、もしかしたら一生忘れない思い出になるのかもしれないけれど、それはもう、ひなたの成長の一部になったのだと。