移動と作戦会議①
『ほな。行くで。』
プグナコちゃんの声が携帯から聞こえてくる。
時刻は8時。
日も昇り、気温も上がってきたので、最初の目的地に向かって移動する事にしたのだ。
僕達は、カリーナ帝国の最先端の町の1つ。ジハリマの町に行き、そこでギルドに登録し、行商人として、カリーナ帝国の領土外の大森林地帯に入る事にした。
因みに、大森林地帯の比較的、平坦な場所にはエルフ属。そして、山岳地帯には、ドワーフ属がメインで住んで居るらしい。
そして、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)では、人間属と呼ばれる普通の人間の中で、大森林地帯を訪れる者の大半は、
親類や師匠等から、エルフ属や、ドワーフ属との商売を引き続いだ運び屋や商人を除けば、かなり少ないらしい。
とは言え……
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の、あちこちを巡りながら、龍脈を正常化させる仕事を遂行するにあたって、大森林地帯は避けて通れない場所だ。
だから、レイヒト君に、
親類や師匠等から、エルフ属や、ドワーフ属との商売を引き続いで居ないのに関わらず、大森林地帯を訪れる人属について調べて貰った。
その結果、
新しい商品のネタを発掘したり、新しい商品を広めようと考えている商魂逞しい行商人。
何らかの理由で、人属の領域から逃げて来た者。
そして……冒険者と呼ばれる狩猟採集を生業にしている人が比較的、多い事が分かったのだ。
『了解。』
嫁の短い返答が携帯から聞こえてくると、キャンピングカーが、ゆっくりと動き始めた。
◇◇◇
『昨晩、サルクル殿は、
ジハリマの町のギルドで登録を済ませた後、綿実・菜種の種・ヒマワリの種・パーム ツリーの苗木をゲットして、大森林地帯に入りたいと申されておりましたな。
サルクル殿が、睡眠を取られている間、色々と調べてみたのでございますが……
ジハリマの町は綿織物が盛んな場所らしく、
しかも、丁度良い事に、今が、綿花の収穫時期らしいので、綿実は、簡単に手に入ると思うでございまするのですが……
菜種の種や、ヒマワリの種。パームツリーの苗木は、
拙者が調べた限りでは、どうやら、手に入りそうになさそうでございまする。
なので、作戦の変更が必要な気がするでございまするよ。』
レイヒト君の真剣な声が携帯から聞こえてくる。
『昨日は、眠そうな顔をしてたから、それ以上、聞かなかったけど……
そもそも、パパは、
なんで、綿実や菜種の種や、ヒマワリの種やパームツリーの苗木を欲しがっているの?』
嫁の興味津々な声が携帯から聞こえてくる。
◇◇◇
「大森林地帯には、基本、人属は足を踏み入れない。
そんな中、大森林地帯に訪れる人間の中に、
新しい商品のネタを発掘したり、新しい商品を広めようと考えている商魂逞しい行商人が居る。って言う情報を、昨晩、レイヒト君が掴んでくれた事は覚えてるよね?
それと、レイヒト君に、
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)と、僕達の世界(ムシュ イム アン キ)で、価格の差が大きい物を調べて貰った事も覚えてるよね?
でっ。そのリストの中にあった、油についての詳細な情報を、レイヒト君に調べて貰らったところ、
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)では、植物油が流通していない事が分かったよね?
そんでもって、それが……
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の油の価値が、
僕達の世界(ムシュ イム アン キ)よりも、かなり高価な物になっている原因ではないか?って言う推測に至った事も覚えてるよね?
だから、僕達の世界(ムシュ イム アン キ)で、広まっている植物油と……その原材料に目をつけたんだよ。」
『成る程。
つまり、パパは、
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)には無い、植物油を広める為に、大森林地帯に入った、商魂逞しい行商人に偽装しよう。って言いたいのね。
けど、何故、米油やコーン油。大豆油には手を出さないの?
米やトウモロコシ。大豆の方が簡単に手に入りそうな気がするんだけど……』
嫁の興味津々な声が携帯から聞こえてきた。
◇◇◇
「レイヒト君が調べてくれた限りでは、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の多くの国々は、身分制を敷いている。
そんでもって、貧富の格差が激しい世界らしい。
だから、主食や主食の代わりとして、日常的に食べてる食糧品を高値で売れる油に加工する事が出来る。なんて言う情報を流してしまったら……貧困層の食糧事情が更に悪化しかねない。
だから、米油やコーン油。大豆油については、広めたくないんだよ。」
『へ~。
パパが、見ず知らずの人を思いやるとか……珍しい事もあるもんだ。』
茶化すような声で話す嫁の声が携帯から聞こえてくる。
「多くの人から恨みを買うような行動はしたくないだけだよ。
だからこそ、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の砂糖の価値が異常に高い事についても、敢えて、スルーしたんだよ。」
『サルクルさんは、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の砂糖が、アホみたいな高級品や。ちゅう理由が分かったんか?』
プグナコちゃんが会話に加わってくる。
「レイヒト君に調べて貰った結果、砂糖の産地は熱い地域に集中していた。
これは……サトウキビで出来た砂糖しか流通していない。って言う証拠になる。
因みに、僕達の世界(ムシュ イム アン キ)で出回っている砂糖の7割は、サトウキビで、
残りの3割は甜菜と言う植物から作られている砂糖だと言われているんだけど……
甜菜は、日本では、主に北海道だけで作られているような、寒い地域でしか作られない作物なんだ。
でっ。この甜菜から作られる、てんさい糖。ってのは、サトウキビから作られる、きび砂糖よりも、かなり歴史が浅い砂糖なんだよ。
そんでもって、僕達の世界(ムシュ イム アン キ)でも、てんさい糖が開発される前は……この世界(アン ナブ キ シェア ラ)と同様、高級品だったらしいんだ。
後、僕達の世界(ムシュ イム アン キ)では、砂糖の代替え品がある事も、砂糖が安くなった一因らしいよ。
メジャーなところでは……
色々と問題があるとは言われていて、国によっては規制がかけられ始めている、コーン シロップ。
後は、はちみつ・メープルシロップ・ココナッツシュガー・オリゴ糖・みりん・水飴・ガム シロップとかになるのかな。」
『おぉ。
もの凄い情報を見つけたでございまする。
なんと、3ヶ月程前に、
凍ってない方の南の大陸(クンの大陸)のチャア帝国と言う国のギルドの支部から、
コーン シロップ・水飴・はちみつ・メープル シロップ・ココナッツ シロップ・ガム シロップの特許申請されているのでございまする。
そんでもって、同じく、凍ってない方の南の大陸(クンの大陸)のメアマ帝国と言う国のギルドの支部から甜菜糖の特許申請されているのでございまする。
これは……サルクル殿のように、
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)と、拙者達の世界(ムシュ イム アン キ)とで、価格の差が大きい品物を調べ、
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)でも売れそうな品物を世に出した。って言う証拠だと思われますぞ。』
レイヒト君の興奮する声が携帯から聞こえてくる。
◇◇◇
「成る程ね。
でっ。植物油は特許申請されている?」
『残念ながら……一足、遅かったようでございまする。
半年程前から、
チャア帝国のギルドの支部や、メアマ帝国のギルドの支部から、
様々な材料から作られた植物油が、次々と特許申請されているでございまする。』
レイヒト君の沈んだ声が携帯から聞こえてくる。
「そう。
じゃあ……唐揚げや、フライド ポテト。ポテト チップス等の揚げ物が、
この世界(アン ナブ キ シェア )でも、普通に食べられているのかとか……
揚げ物が、特許申請されているか否かについても、調べてくれない?」
『それ良いですが……
サルクル殿の、ご指示の意図が分かりませんな。』
レイヒト君の困惑する声が携帯から聞こえてくる。
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