【サイドストーリー】死者達の任務(モクタ視点)
「結局、撤退命令が下りないどころか……
公的には、死亡した事にされてしまいましたね。」
「キルシポ様から頂いたメールには、ムルル自治区のトミシシゲの村は密猟から、本格的に人身売買と傭兵家業に商売を代えるらしい。って言う情報が書かれていました。
私達のような警備隊には、あまり縁の無い話ですが……
基本、軍の士気を維持する為には、娼婦や男娼が必要です。
とは言え……聖戦に商品である娼婦や男娼を貸し出したいと思うような娼館は無いかと思います。
何故なら……様々な理由で軍に貸し出した商品が、帰って来ない可能性の方が高いからです。
ですから……クビにしたかった者を廃棄処分にするような感覚で貸し出すぐらいでしょうが……そんな人達に、盛りのついた兵達が満足するとは思えません。
とは言え……そんな場所に、町や村から娼婦や男娼を募る訳にもいきません。
かと言って……借金まみれで娼館に落ちる一歩手間の奴や、万引き犯などの軽犯罪者を娼婦や男娼として派遣するのも考えものです。
何故なら……そう言う奴達は、逃亡する恐れがあるからです。
だからこそ、カリーナ帝国では禁じられている奴隷を扱うトミシシゲの村は……聖戦を勝ち抜くに必要不可欠な娼婦や男娼を供給し続けて貰う為に存続し続けて貰わなければいけない村なのです。
ここまでは、理解する事が出来ますよね?」
「はい。」
俺は、キュルコ様のご質問に、静かに頷いた。
◇◇◇
「じゃあ、次は……グマリハの村について説明するわ。
グハリマの村で作られる麻酔薬は、
その中毒性にさえ目を瞑れば、痛覚や眠気を消して、ハイテンションにしてくれる薬にもなります。
それに、異世界(ムシュ イム アン キ)の医療技術は、魔法や魔術を使った医療技術には劣るものの……
マナを必要とせず、受けているジョブ補正の内容やランクに左右されない稀有な技術です。
本格的な戦闘になれば、死傷者が続出する最前線では、医療系の魔法や魔術のバック アップとして必要不可欠な技術になる筈です。
だからこそ、異世界(ムシュ イム アン キ)の医療技術の根幹を担う薬の1つである麻酔薬を作っているグマリハの村も……トミシシゲの村と同様、聖戦に勝ち抜く為に必要不可欠な村なのです。
つまり、カリーナ帝国が、この聖戦に勝ち抜く為には、この2つの村を適切に管理し、存続させ続ける必要があるのです。
とは言うものの……カリーナ帝国から領主を、無法地帯である、ムルル自治区に派遣する訳にはいきません。
と。なると……統治者としてのノウハウを持っていて、尚且つ、自然な形で死人とする事が出来る者が必要になります。
でっ。その役割をこなせる能力を有し、尚且つ、
無能なラヤカスのせいで、死んでしまったクシソロウ先輩との兼ね合い上、死んでしまった事にして処理しても、誰も文句を言わないであろう、私に白羽の矢が立ったのです。
ですから、モクタを始めとした、ヴェル達を捕まえる仕事に従事してくれた者達には、申し訳ないとは思いますが……
仕方の無い事なのです。」
キュルコ様は、そう仰られながら、苦虫を噛み潰されたような顔をされておられた。
◇◇◇
「皇族様や、お貴族様が考えそうな事だな。
まぁ……お嬢にとっては……悪い話ではねぇんじゃねぇか。」
「そうね。
お貴族様の世界の感覚は、正直……私には合わないですからね。」
キュルコ様は、そう仰られながら、苦笑いをされておられる。
「でっ。ギャクコン団のサポートを受けて、俺達と共に、ヴェル達を追っていた異世界(ムシュ イム アン キ)人の部隊は、どうなるんだ?
やっぱ、俺達と同じように死んだ事にされて……
この部隊に編入されるのか?」
俺が聞き難いと思ってた事を……ヒラロウさんが、サラッと聞いてくれる。
「彼女達は、ギャクコン団のサポートを受けながら、ムルル自治区を目指して、森の中を移動中をしている最中に、本隊に戻る事が決まったらしいのですが……
その決定の直後にラヤカスは、ギャクコン団体との契約を打ち切りにしたらしのです。」
キュルコ様は、そう言うと、一旦、話を止められた。
「でっ。ぶちギレたギャクコン団に、異世界(ムシュ イム アン キ)人の部隊が殲滅された。って事は……流石にねぇか……」
ヒラロウさんが、そう言いながら、苦笑いしている。
「ラヤカスは、ギャクコンに、違約金の代わりに、あの部隊の中の者を自由に引き抜いても良い。と言ったらしいのです。
でっ。それを聞いたギャクコンは……
あの部隊の中で有能な人材だとキルシポ様も評されておられた、ニチワミ・フメグル・イツマンヨと言う名の3名を引き抜いたらしいのです。
因みに、ギャクコンは、
『ラヤカス様のお陰で、最高の補強が出来た。』と言う内容のメールをラヤカスに送っているみたいですよ。」
「おいおい。それじゃあ……
森の中に置いてきぼりにされた、残りの29人の異世界(ムシュ イム アン キ)人は……」
「キルシポ様のメールには、
彼女達は、もと来た道を戻っている最中に、全滅してしまった。書かれてました。」
キュルコ様は、ヒラロウさんの言葉を途中で遮られると……
彼女達の最悪な結末を話して下さった。
「最悪だな。
ラヤカス様は、気でも触れたのか?」
「どうでしょうかね……
有能な人材を3名も失ったのは痛いわね。ですが……
29名もの不良在庫を処理する事が出来たのも事実です。
因みに、キルシポ様は、プラス マイナスで考えれば、プラス。だと、お考えになられているようですわ。」
「どういう意味です?」
俺は思わず、キュルコ様に質問をした。
◇◇◇
「到達点のジョブ補正は知ってますか?」
「はい。
【賢者】・【錬金術師】 ・【聖なる解除師】 ・【踏破者】・ 【武聖】・ 【物情を繋ぐ者】・ 【闇裏師(器用万能者)】
です。」
俺はキュルコ様のご質問に答える。
「じゃあ……このジョブ補正を受けている異世界(ムシュ イム アン キ)人の中で、
この世界(アン ナブ キ シェア ラ)しか知らない、私達よりも優れた功績を残す可能性が高い者は、どのジョブ補正だと思いますか?」
「同格のジョブ補正を受けている者の優劣を決めるのは、受けているジョブ補正の活用の仕方次第だ。
だから、そう言うのは、人各々(ひとそれぞれ)。確率なんて存在しないんじゃねぇか? 」
ヒラロウさんが、俺とキュルコ様の会話に大笑いしながら加わってくる。
「確かに、個々人を見れば、そうなりますね。
だけど、可能性と確率の話をしているの。って……私が言葉足らずでしたわね。
私も行った事が無いので、真実は分かりませんが……
異世界(ムシュ イム アン キ)とは、どのような世界ですか?」
「魔法や魔術が使えねぇ世界。
そんでもって、科学と言う、マナを利用せずに魔法や魔術と似たような事が出来る技術が魔法や魔術の代わりをしている世界。
胡散臭い話だとは思うが……
麻酔薬だけじゃなく、車やバイク。銃や魔法燃料や携帯用の通信機器や蓄マナ池(電池みたいな物・マナを溜めておける道具)。なんかが、異世界(ムシュ イム アン キ)の技術を基本に発明された。って言われてる。
しかも、発明だけでなく製造ラインの構築にも、
異世界(ムシュ イム アン キ)人の【錬金術師】や【賢者】のジョブ補正を受けている者が、大活躍したと言う噂だしな。」
ヒラロウさんが、淡々とした口調でキュルコ様のご質問に答える。
「フフ。ヒラロウ。
今……答えを言いましたわよ。」
キュルコ様が、大笑いしている。
「どういう意味だ?」
「異世界(ムシュ イム アン キ)人の強みは、2つの異なる文明を知っている事。
でっ。この強みが生きるのは、
戦闘だけじゃなく、商品開発やロジスティクス等にも深く関われるジョブ補正を受けている【賢者】・【錬金術師】 ・【物情を繋ぐ者】・ 【闇裏師(器用万能者)】を受けている者達だと言われているわ。
そんでもって、【聖なる解除師】のジョブ補正を受けている者に関しては、
個々人の資質の問題で、異世界(ムシュ イム アン キ)人と、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の人間と言う括りでの優劣は無いと言われている。
でっ。逆に……何故だかは分からないけれど……
異世界(ムシュ イム アン キ)の……特に日本と言う国から召還した【踏破者】・ 【武聖】を受けている者は、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の人間よりも劣る傾向が高い。と言われているの。
それが原因で、この2つのジョブや、このジョブ補正の下位となる、一般ジョブの【狩人】や【戦士】等のジョブ補正を受けている者は、不良在庫なんて呼ばれて疎まれているの。」
「成る程。
その定義だと、あの29人は、不良在庫になるな。
だけど……彼女達は、我が国(カリーナ帝国)の都合だけで召還されたんだろ?
酷い話だよな。」
ヒラロウさんが、そう言いながら、苦笑いしている。
「私も、個人的な考えは、ヒラロウと同じです。
ですが、その……貴族としてや、部隊を預かる者の立場としては……
つまり、この問題は……非常に悩ましい話だという事です。」
キュルコ様は、そう仰られると、悲しそうな顔をしながら、窓の外を眺められ始めた。
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