目的地の手前
『うげ。ホタルって……
もっと綺麗で幻想的なもんだと思ってたわ。』
時刻は20時。
嫁の愚痴が携帯から聞こえてくる。
【ガン・ガン・ガン】・【ガン・ガン・ガン】
【ガン・ガン・ガン】・【ガン・ガン・ガン】
【ガン・ガン・ガン】・【ガン・ガン・ガン】
『ホタルは、ホタルでも……吸血ホタルだからな。
血を吸おうとして、襲ってくるんだよ。』
『襲われているモンスターなんかを遠くから眺めるには幻想的なのですが……
如何せん、襲われる立場になると、気持ち悪いの一言ですね。
とは言え……吸血ホタルの顎では、車にかすり傷ぐらいしかつけられない。
ですから、車内に居れば安心ですね。』
ベアゾウさんの呟きを聞いた、バンオさんが、笑いながら言葉を繋ぐ。
『それにしても、この道……凸凹してるね。
しかも、道端もせまくて走り難い。
本当に……こんな道の先に人が住んでる場所があるの?』
『ムルル自治区にある町や村に続く道は、大体、こんな感じだ。
なんてったて、お尋ね者だからな。
簡単に辿り着けるような場所に住んでたら、命がいくつ有っても足りないんだろうな。』
嫁の愚痴にベアゾウさんが反応する。
『へ~。そうなんだ。
無法地帯。って聞いていたから、もっと、こう……かかってこいや!的な感じで、堂々と暮らしてる人達。って、思ってたわ。』
『ハハ。そんな事をしたら、流石に、指名手配をかけている国の軍隊に攻め込まれますよ。
ムルル自治区が放置されている原因の1つに、
指名手配犯を捕まえに行くよりも、放置しておく方が、コスパが良い。ってのも、あるらしいですからね。』
嫁の話を聞いたバンオさんが、ムルル自治区が放置されている理由の1つを教えてくれた。
◇◇◇
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
狭い林道を覆い隠すかのように生えている草木が窓にぶつかる音が絶え間なく聞こえてくる。
「夜なのに、吸血ホタルのお陰で、お外の景色が良く見える。」
メアちゃんの嬉しそうな声がバンクベッドから聞こえてくる。
「せやな。
せやけど……そいつ、血を吸いはるみたいやから、窓は開けなや。」
「うん。絶対に窓は開けない。」
プグナコちゃんの話を聞いたメアちゃんが、素直に頷いている。
◇◇◇
『このペースなら、明日の昼には、グマハリの村につけそうだな。』
ベアゾウさんの声が携帯から聞こえてくる。
『グマリハの村を目指しているのですか?
グマリハの村は、麻薬等、ギルドが使用を禁止している薬物を、カリーナ帝国の人達に供給する為に作られた村だと聞いてます。
何故、確実に犯罪者が居ると分かっている場所を、わざわざ目指しているのですか?』
ベアゾウさんの言葉を聞いたバンオさんが、慌てた声で質問をしている。
『コネでも無い限り、初めて訪れるムルル自治区の町や村で、理不尽に絡まれない保障は無い。
それに……俺達が訪れる。って事は、カリーナ帝国軍や、ギルドのウルチヨの暴走に巻き込んでしまう可能性もある。
その点で言うと、グマハリの村ならば……村人と諍いが起きても躊躇無く叩き潰せる。
そんでもって、グマリハの村人達が、カリーナ帝国軍や、ギルドのウルチヨの暴走に巻き込まれたとしても、
確実な犯罪者だと分かっている分、罪悪感も少ないだろ。』
ベアゾウさんの淡々とした口調で話す声が、携帯から聞こえてくる。
「ごめん。それって……グマリハの村は、売人達のアジトって事やろ?
その話がホンマなんやったら、最低な奴達の巣窟やん。
てか、グマリハの村に着いたら……そいつ達の根性を叩き直して、全うな道を歩むように更正させてやりたいところやな。」
プグナコちゃんが、イラっとした顔をしながら話す。
「たとえ、本人達が、全うな生き方をしたい。と望んだとしても……
他の方法で稼ぐ術が無ければ、自分や家族が食べていく為に、その仕事を、やり続けるしかないんじゃないかな。
てか、その辺りについてまで、深く立ち入るつもりが無いのならば、寧ろ……深く関わるべきでは無い。って思うけどね。」
『はぁ……パパは……
確かに、パパの意見は、ごもっともだけどさぁ……
プグナコちゃんの考え方自体は、素敵な事なんだから、もう少し、言い方。ってのも考えてあげないといけないんじゃない。』
僕の話を聞いた嫁が苦笑いしている。
◇◇◇
「サクモさん。フォローしてくれて有り難うな。
それと……サルクルさん。
現実の世界で、人の道を外れはった人を助けたる。ちゅうんは……ウチが想像してたよりも難しい事みたいやね。
てか、ウチ、多分……
異世界(アン ナブ キ シェア ラ)に召還されて、チートな力を得た事で、知らず知らずのうちに、マンガの主人公にでも成った気でいたみたいやわ。
ホンマ、ウチは、アホや。
イラン事、言ってゴメンな。」
プグナコちゃんは、そう言いながら、苦笑いしている。
「別に謝る必要は無いよ。
出来る・出来ない。やる・やらない。を含めて、
チームのメンバーが意見を出し合いながら、チームとしての方向性を決めていく。
特に対等な者同士で仕事を進める場合、こう言うやり取りになるのは、珍しい事じゃないよ。」
「対等な者同士かぁ……
ウチの事を大人扱いしてくれてはるんは嬉しいんやけど。その……大人扱いされるんも……それは、それで、プレッシャーやわ。」
僕の話を聞いたプグナコちゃんが、苦笑いしている。
「僕も、バイトと言う立場から正社員と言う立場に変わった時や、社員としての裁量が増える度に同じ事を思ってたよ。
まぁ、発言権や裁量が増えれば増える程、
その発言や行動に対して責任や……求められる結果が増えるからね。
だから、個人的には、どっちの立場が楽か。っていうよりかは……
立場によって、ストレスの質が変わってくる。っていう方が正解だ。って気がするよ。」
『はぁ……パパ……
言ってる事は、正しいのかもしれないけどさぁ……
そんな事を言っちゃうと、真面目なプグナコちゃんが、更に萎縮しちゃうでしょ。
だ・か・ら。
パパには、わたし達の話をちゃんと聞き、わたし達の意見を尊重して貰います。
だけど……
それと同時に、わたし達のパパへの失言や失敗については、大目にみて貰います。
そんでもって、必要に応じて、適切なフォローもして頂きます。
これは、決定事項です。
悪しからず、ご了承下さいませ。』
茶化すように話す、嫁の声が、携帯から聞こえてくる。
「了解。」
『サルクル殿、有り難うございまする。
それは、つまり……拙者達にとって、都合の良い時だけ大人扱いをして頂ける。って事でございまするな。』
レイヒト君の嬉しそうな声が携帯から聞こえてくる。
「いきなり、大人にはなれないからね。
だから、これは、僕からの先行投資。決して慈悲的差別ではない。って考えてくれたら良いよ。」
『これこれ。
慈悲的差別なんて言葉……言う必要がある?』
苦笑いする嫁の声が携帯から聞こえてくる。
「あらゆる可能性を想定して、未来に備えたいだけだよ。」
『はぁ……パパが……どんな未来を想定しているのかは、敢えて聞かないけれどさぁ……
石橋も叩きすぎると壊れるぞ。
何でもかんでも、白黒をつけるのではなく、
程々や曖昧。あやふや。そう言うのも必要だと思うぞ。』
嫁の苦笑いしながら話す声が携帯から聞こえてくる。
『慈悲的差別でございまするね。
早速、調べてみるでございまする。』
レイヒト君の興味津々な声が携帯から聞こえてくる。
『調べるのは良いけれどさぁ……
ナビゲートや、【空の目】を使った索敵。
追っ手の動向を探る仕事等に支障が出ない程度にしてよね。
未来の自分とは、今の自分の延長線上に居る存在。
今、やるべき事よりも、未来の自分への投資した結果、死んでしまいました。なんて事になってしまったら……笑い話にもならないぞ。
その事を忘れないでよね。』
嫁の苦笑いしながら話す声が、携帯から聞こえてくる。
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