選択と準備
「別に怒ってませんよ。
ただ……時間がなくなってきましたので焦ってるだけです。
異能の共有は大事だとは思いますが……先に渡す物があります。
あちらをご覧下さいませ。」
ディンエさんが、指を指した場所を見ると、僕と嫁のミニバン。
それと……僕達が先刻まで居たショッピング モールの広場に展示されていた、5,410mmサイズの中型トラックをベースにした、災害時にも使えると言う悪路走破性を備えたキャンピングカーと、
オフロード仕様に改造された、前輪が2輪の、高速道路も走れるという、3輪スクーターが1台あった。
「申し訳ないのですが……
皆様が、ムシュ イム アン キから召還される際に、持ち出せた皆様の私物や、
カリーナ帝国領の最西端の大森林地帯や平原を移動される際に使えそうな物は、これだけでした。
それと、アン ナブ キ シェア ラで半年ぐらいは無収入でも暮らせるぐらいのお金を、お渡しします。
因みに、アン ナブ キ シェア ラには、石油で作られたガソリンや軽油はありませんが……魔石から作られたガソリンや軽油の代わりになる、魔法燃料液と言う液体があります。
これは、貴方達よりも前に、アン ナブ キ シェア ラに召還された方が開発された物で、ムシュ イム アン キのガソリン車やディーゼル車の燃料としても対応する事が出来る、非常に優れた液体となっております。
因みに、この魔法燃料液は、大抵の町や村で購入が可能です。
また、ラインナップは少ないですが、
アン ナブ キ シェア ラ産の車やバイク。トラック等も、生産され販売やレンタルもされています。
ですから、これ達の車やバイクを使用して、旅をなされたとしても、そこまで悪目立ちする事は無いと思います。
そうそう。忘れるところでした。
封印魔法の術式を付与された小瓶を3つ程、差し上げます。
町や村の中等、車やバイク等を使用されない時に、この小瓶に封印して頂ければ、盗難や紛失の恐れが格段に減ると思いますので、上手く活用して下さいませ。」
ディンエさんが、そう言いながら、笑顔で小瓶を嫁に渡す。
「有り難うございます。」
嫁がそう言いながら、ディンエさんに、ペコリと頭を下げた。
◇◇◇
「では、もう1つだけ、お願いをしても宜しいでしょうか?」
「聞くだけは、聞かせて貰います。」
ディンエさんの質問に、嫁が代表して答えてくれた。
「この二匹のリスも貴女達の召還に巻き込まれた者です。
そのせいで、虚体化ジリスと言う幻獣に進化してしまいました。
因みに、幻獣とは、アサグのモンスター版の一種で、不老有死の存在です。
また、虚体化ジリスは、虚体化が出来き、人語も操れる幻獣です。
因みに、知能は……貴女達の世界(ムシュ イム アン キ)の日本と言う国の人々の感覚では、小学生の低学年並み。と考えて頂ければ問題ありません。
そうそう。【虚体化】についての説明が必要でしたよね。
【虚体化】 とは、
一定時間、幽霊の上位置換のような存在になれる異能。
魂眼・聖魔法・祓い魔法や、それに準ずる異能以外の一切の攻撃が効かない。
聖域化等の術式や、それに準ずる異能を付与された場所以外は、どんな場所にも入り込める。
そんな能力です。
でっ。お願いとは……プグナコさんに、この二匹と使役契約を結んで頂き、貴女達の仲間に加えてあげて欲しいのです。」
ディンエさんが、そう言いながら、頭を下げてきた。
「別に良いですよ。
プグナコちゃん。使役契約のやり方は分かる?」
「バッチリや。
せやけど……この二匹、ハーネスを着けてはる。
ホンマの飼い主が、ウチ達の世界(ムシュ イム アン キ)に居はると思うんやけど……ウチと使役契約を結んでも問題無いんか?」
プグナコちゃんが、そう言いながら、二匹のジリス。ぽい生き物に質問をする。
「問題無い。
アタイ達は、ペットショップで売れ残ってた。
飼い主様を見つかりやすくする為の修行の1つとして、この布を着させられてただけだから……」
ジリス。ぽい生き物の一匹が、淡々とした口調で、プグナコちゃんの質問に答える。
「さよか。
てか……使役契約を結ぶに当たって名前が必要らしいんやけど……
つけて欲しい名前はある?」
プグナコちゃんが、淡々とした口調で質問をする。
「ペット ショップでは……
アタイはコル。こいつは、ドマと呼ばれてた。
新しい名前をつけられるよりも、同じ名前の方が良い。」
「了解。
ほな。コルとドマ。使役させて貰うで。
『使役契約』×2」
プグナコちゃんが、呪文らしき言葉を唱えると、
プグナコちゃんと、コルとドマが、一瞬だけ、淡い光に包まれた。
「コルとドマの使役契約が終わったで。」
「早。
てか……滅茶苦茶、アッサリした感じだね。」
プグナコちゃんの報告を聞いた嫁が、目を丸くしながら返答を返す。
「ウチも、そう思うわ。」
プグナコちゃんが苦笑いしていた。
◇◇◇
「俺の名前はサスサイ。
ディンエの護衛 兼 相談役だ。
お前達のキャンピングカーのバンクベッドの中に、最低限の武器を積んで置いてやったぞ。
お前さん方が、ここに止まれるのは、後、15分程度だろうな。
悪いが……話の続きをする前に、小さい方の車とバイクを小瓶に封印し、キャンピングカーの中に移動してくれ。」
大男が、そう言いながら、
ディンエさんが、僕達の為に用意してくれた。と言うキャンピングカーから降りてきた。
「少し、車から出したい物があります。
それと……これから、僕達が転移する予定の場所の気温とかも教えてくれたら有り難いです。」
「了解。
あの平原は寒暖差が激しい場所だ。
今の時期ならば……日中の気温は30度近くまで上がり、早朝の一番、冷える時間は、氷点下(0℃)以下になると思う。」
「有り難うございます。
お陰で、車の中から必要な物を全て取り出せそうです。」
僕は、サスサイと名乗る大男に頭を下げた。
■■■
「取り敢えず、冷感ジェルマット。充電式のコードレス タイプの電気毛布。カイロ。殺虫剤。携帯用の電池式の虫除け。雨具なんかを、バンク ベッドに置いたよ。
必要に応じて、使っていこう。
それと、水や食糧は、パパの異能を活用して、わたしのエコバックから、必要な時に取り出す。って事で。
後、コルとドマの寝床は、取っ手付きのプラスチック ケースの中に、フェイス タオルを入れた物を使う。
コルとドマの餌になる牧草や、齧り木。トイレや砂浴び用の砂は現地調達。
牧草を調達するまでは、コルとドマの餌は、冷凍のカット野菜やドライ フルーツ。冷凍ササミ等を与える。
そんでもって、トイレは……
寝床とは別の、フェイス タオルを敷いた、プラスチック ケースの中でする。
皆、この認識でオッケーだよね?」
「うん。」×5
皆が、嫁の確認に頷く。
「ディンエさん達からの指示は、こっちが落ち着いたタイミングで貰う。って事で了解を貰ったから……
最初にする事は、お互いの異能を教え合って、役割分担を決める。って作業になるね。」
「うん。」×5
僕の意見に皆が頷いてくれる。
「出来れば……転移する前に、簡単な役割分担だけでも、決めておきたいところでございまするな。」
「せやな。」
レイヒト君の言葉に、プグナコちゃんが深く頷いていた。
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