【サイドストーリ】追う者達の明暗①(モクタ視点)
『まったく……クシソロウ先輩は文句を言わずに部隊を率いて動いてくれたと言うのにキュルコ……本当に貴女って人は……』
警備隊(カリーナ帝国軍の警備隊)の総副隊長のラヤカス様からのクレームの連絡が入った。
「あら、総隊長のキルシポ様からは……部隊の全滅の可能性を考慮して、馬喰らい街道に入るまでは、夜間の移動はしなくても良い。って言う返答を貰ったわよ。
寧ろ……その事をクシソロウ先輩に伝えなくても大丈夫なの?」
俺達の部隊の部隊長のキュルコ様が、ラヤカス様を小馬鹿にするような顔をしながら返答を返す。
通信でやり取りする事が出来るのが……声だけで良かった。
こんな顔をラヤカス様に見られたら……ラヤカス様は、癇癪を起こされるにちがいない。
でっ。そうなれば……連帯責任の名のもとに、俺までトバッチリを喰う羽目になるのは目に見えている。
『ふん。
細心の注意を払いながら行動すれば、モンスターや盗賊団の襲撃にも対応する事が出来る筈よ。
本当、努力不足も良いところよ。』
「見通しが良く、慣れている草原だったら……頑張らせて頂きますわよ。
だけど……草花や枝を掻き分けて林道を長時間かけて進まないといけない、私達の部隊は……根性でどうこうする事が出来る次元じゃない。
何故ならば、そう言った場所には、魔虎や魔豹のように気配を消すのが上手く、単独で行動するモンスターが多く潜んでいるからよ。
奴等に目をつけられたら最後、
たとえ、日が昇っている時間でも……バイクに乗ってる仲間なんて、サクッと殺される事もあるの。
そんでもって、その死体を持って、素早く薮の中や、木の上に連れ拐われでもしたら……敵討ちをする暇さえないときたもんだ。
そんな場所に、漆黒の闇包まれる夜に突入でもしょうものならば……明日の朝までに全滅しても可笑しくない。
流石に、それは……貴女も願ってはいないでしょ?」
『はぁ……貴女は……
昔から、そうやって、屁理屈をコネて、自分の限界を勝手に決めて、それを押し通してしまう。
だから、私と家格が同格なのにも関わらず……未だに、汗と泥にまみれながら、現場でもがく羽目になるのよ。』
「出世街道をひた走る貴女の事を、同期として誇りに思わさせて頂いておりますわ。
なぁ~んてね。
町や村から一歩でも外に出れば……貴族の肩書きなんて、何の役にも立ちゃしないわ。
もしかして……偉くなりすぎちゃったから、そんな事も忘れちゃったのかしら?」
キュルコ様のラヤカス様へのディスりと皮肉が止まらない。
本当に……聞いているだけで胃が痛くなってくるな。
キュルコ様には、自重と言う言葉を覚えて貰いたいものだ。
『ハイハイ。
兎に角。日が昇ったら、サッサと、ヴェル達を追ってね。
それと……ヴェル達を追い損ねたら……命令に背いた責任を取って貰うわよ。』
「怖い。怖い。
私は……キルシポ様の了解を得て、貴女の指示を拒否したのよ。
まさか……その発言。キルシポ様への宣戦布告でもあるのかしから?
悪いけど、今の発言。キルシポ様に報告させて貰うわよ。」
『勝手にしろ! このド平民のメス犬が!』
ラヤカス様は、そう言うと……一方的に通信を切られてしまった。
◇◇◇
「お嬢。
ラヤカス様は、典型的なお貴族様だ。
いくら、お嬢も、貴族とはいえ……上官になる、お貴族様を……あんなに煽っても、大丈夫なものなのか?」
退役間近の大ベテランのヒラロウさんが心配そうな顔で、キュルコ様に質問をする。
「クシソロウ先輩には申し訳ないけれど……多分、彼の部隊は壊滅。下手をすれば、全滅するわ。
そうなれば、私達はヴェル達の捕獲の任を解かれ、
可能な限り、彼達の遺体や遺品をかき集めて撤退って言う指示が出るでしょうね。
そんでもって、ラヤカスは……下手すれば降格もあり得る。
何故なら、クソシロウ先輩の実家の貴族としての格は……私やラヤカスよりも上だからね。
だからこそ、任務の成功よりも、自分と仲間の安全を優先するの。
まぁ……私達までクビにされるのも困るから……撤退の指示が出るまでは、皆にも、ある程度は、命をかけて貰う事にはなるけれどね。」
キュルコ様が、そう言いながら、ケラケラと笑っている。
「つまり、お嬢は……
我々やクシソロウ様の部隊は噛ませ犬の部隊で、
キルシポ様が、ウルチヨ様の進言を元に派遣された、カリーナ帝国の帝都からの増援部隊こそが、ヴェル達を捕獲する本命の部隊だと言いたいのですかな?」
ヒラロウさんが、怪訝な顔をしながらキュルコ様に質問をする。
「噛ませ犬と言うよりも……ラヤカスがバカすぎたせいで、急遽、囮の部隊にされたのよ。
本来ならば、ヴェル達を追う、この部隊にも……ギルドから派遣された、大森林地帯に詳しい冒険者のパーティーを、少なくとも1隊は道案内としてつけるべきだった。
だけど……ラヤカスは、それを怠った。
たまたま、私の実家が、大森林地帯との緩衝地帯と接している場所を領地にしていた為、森や山と草原の違いを体感的にも知っていた事と……
キルシポ様が、過去に外務卿の護衛をされていた経験があり、少数で草原を行軍する場合と、森や山を行軍する場合の違いを把握されていたから良かったものの……
草原で作戦を遂行させる感覚で指示を出すラヤカスと、草原で作戦を遂行する感覚のクシソロウ先輩のコンビでは……任務に失敗するのは目に見えてるものね。」
「へ~。草原と山や森では……そこまで違うものなのですかい?
草原と山や森を往来するのは……冒険者だけでなく、
冒険者に護衛されているとはいえ……隊商や運び屋。行商人等の戦闘が得意とは言えない者も、それなりに居ると思うんでんすがね。」
キュルコ様の話を聞いたヒラロウさんが、不思議そうな顔をしている。
「我が国(カリーナ帝国)の領内には、砂漠と湿地帯も少なからず存在するわ。
なので、草原と砂漠。草原と湿地帯を、冒険者に護衛されながら往来する、隊商や運び屋。行商人等が、それなりに居るわ。
だからといって、草原で作戦を遂行する感覚で、砂漠や湿地帯で作戦を遂行する事はないわよね?
そんでもって、行動予定や装備に関しても……
作戦を遂行する場所が湿地帯ならば湿地帯に対応したものに、
砂漠ならば、砂漠に対応したものに変更するわよね?
森や山での作戦も、それと同じ事なの。
作戦を遂行する場所が山や森ならば……森や山に対応したものに変更する必要があるのよ。」
「成る程。
確かに言われてみれば、お嬢の言う通りですな。
となると……俺達が囮の部隊に降格させられた事にも納得がいきますな。」
キュルコ様の話を聞いたヒラロウさんが、大笑いしている。
◇◇◇
「モクタ。顔がひきつってるぞ。
お嬢だって死にたくはない。
だから……何の策もなく、俺達を率いてる訳が無いだろ。」
ヒラロウさんが、俺を見ながら笑う。
「半分は買い被りすぎ。
木々が、生い茂る場所での移動は……遮蔽物が少ない草原を移動するよりも運任せの要素が大きくなるわ。
そんでもって、私が出来るのは……
ドライバー達が、出来る限り、万全な状態で仕事をする事が出来るように調整する事と、
明らかに可笑しな指示に従わなくても済むように交渉するぐらいよ。」
ヒラロウさんの話を聞いた、キュルコ様が苦笑いされている。
「だとしても……
クシソロウ様のような上官よりかは遥かにまっしだよ。」
ヒラロウさんが、大笑いしながらキュルコ様に返答を返す。
「フフン。
確かに、彼と比べれば、私はスペシャルな上官でしょうね。
だけど……心根も努力も大自然には関係ない。
悲しいけど……最終的には運なのよ。
てっ……議論はおしまい。
今晩の夜番の連中の指揮は私だけで十分よ。
だから、モクタ。
貴方もヒラロウと一緒に、明日に備えて休んで。」
「了解です。」・「あんがとな。」
キュルコ様の指示に、俺とヒラロウさんは笑顔で頷いた。




