召集令状の拒否
『もしもし。
こちら、アルコ。どうしたの?』
アルコさんの声が携帯から聞こえてくる。
僕達は、アルコさんの許可を得た上で、
アルコさんとギルドとのやり取りを盗み聞きさせて貰う事にしたのだ。
『お久しぶり。
ギルドのカリーナ帝国支部の支部長のウルチヨよ。
カリーナ帝国の政府から、貴女とベアゾウ。それと……貴女達が護衛している。って事になっている、元高ランク冒険者のヴェルの居場所を教えろ。と言う勧告が出た為、貴女達が持っている携帯用の通信機器から居場所を割り出して報告したわ。
その結果、貴女達は、カリーナ帝国領には居ないものの……カリーナ帝国と他国との境目の緩衝地帯に居る事が分かった為、召集令状が出される事になったわ。
因みに、ギルドとしての見解は……
貴女達が、カリーナ帝国政府からの召集令状を無視したとしても、ペナルティーは課さない。
だけど、ギルドとしては、カリーナ帝国との関係維持も考えないといけない。って事にもなったわ。
だから、貴女達が、カリーナ帝国政府からの召集令状に応じないつもりの場合、申し訳ないのだけど……
カリーナ帝国と他国との境目の緩衝地帯に居る間は、カリーナ帝国軍が、貴女達を敵前逃亡の罪で逮捕する事については黙認する。って事になったの。
てっ。言う訳だから……
カリーナ帝国政府からの召集令状に応じないつもりならば……頑張って、カリーナ帝国と他国との境目の緩衝地帯を抜けてね。
まぁ……最初からそのつもりだったから、そんな場所に居るのだろうから余計な、お世話かもしれないけど……
貴女達が、カリーナ帝国政府からの召集令状に応じない。って言う見解ならば、2個小隊(1個小隊の人数は30〜80名)を、追っ手として差し向けるつもりらしいから、そのつもりで。
てっ……別に脅してる訳じゃないわよ。
ギルドとしては、貴女達が、カリーナ帝国政府からの召集令状に応じても、応じなくても……どっちでも良い。って言う事なの。
ただ……ギルドとしては、貴女達がカリーナ帝国政府からの召集令状に応じるか、否かを聞き取って、カリーナ帝国に速やかに報告する義務もあるのは分かってくれるわよね?
ってな訳で、貴女達がカリーナ帝国政府からの召集令状に応じるつもりか、応じないつもりなのか。
これについてだけでも、今すぐ、答えて欲しい。』
ギルドのカリーナ帝国支部の支部長のウルチヨが、
遠回しではあるが、アルコさん・ベアゾウさん・ヴェルさんに、帝国政府からの召集令状に応じろ。と言う、命令を出してきた。
『ヴェルは、冒険者を引退してるんだ。
だから、そもそも……カリーナ帝国政府が召集令状を出す事に無理があるだろ。
それに……アタシとベアゾウは、大森林地帯の国々と、植物油と言う新製品の取り引きを始めたい。って言う、ヴェルと、その一家の願いを叶える為に依頼を引き受けた。
植物油は、ジハリマの町でも既に売れ筋商品だ。
だから、街道や旧街道沿いにある町や村には、既に大勢の商人や行事が詰めかけている筈だ。
だからこそ……人が使わないルートを使ってでも、ライバルになる商人や行商人よりも、早く、お客様候補の元に駆けつけさせてやりたいだけだよ。
タイミング的に、カリーナ帝国政府からの召集令状を嫌って逃げている。風に見えるだろうけど……そんなつもりで、ここに居た訳じゃないわ。』
アルコさんが、捲し立てるように、ウルチヨに自分達の現状を語ってる感を出してくれる。
こんな事もあろうかと、アルコさん達に入れ知恵をつけておいて良かったな。
『ククク。
脳筋の、あんたにしては……気の効いた言い訳を考えていたものね。
まぁ……そんな危ない旅に……わざわざ、見ず知らずの運び屋を同行させているのか。とか……
ヴェルの同居人のバンオは別として……孤児院から引き取った子供達まで連れて居るのか。とか……
そう言う野暮な事を聞くつもりは無いわ。
どうせ……そのやり取りで時間を稼ぎながら、私の失言を引き出して、
それを理由に、ギルドのカリーナ帝国支部の顔を潰す為に、カリーナ帝国政府からの召集令状に応じない。なんて……言うつもりだったのでしょ?
残念。当てがハズレたわね。』
アルコさんの話を聞いた、ウルチヨが大笑いしながら、アルコさんを小馬鹿にするように笑う。
『今までの会話……当然、録音してるのよね?』
『勿論。』
『じゃあ……後で聞き返す事ね。失言だらけだから……
けど、まぁ……アタシは大人だから、そんな事で言い合うつもりもない。
貴女は、アタシを怒らせて、帝国政府からの召集令状に応じないように導きたかったのでしょ?
だから、貴女に遠回しの指示に従って、帝国政府からの召集令状に応じない。って言う回答をさせて貰う事にするわ。
てっ。事で……落ち着くまで通信には出れないかもだけど……貴女の顔を立てたせいで忙しくなるのだから、勘弁してね。
じゃあ……またね。』
アルコさんは、そう言うと、
ウルチヨとの通信を、一方的に切ってしまった。
◇◇◇
「ふう。
サルクルさんや、レイヒト君。バンオに、ギルド経由で来るであろう、カリーナ帝国政府からの召集令状に対する受け答えを考えて貰っていて正解だったわ。」
大役を終えたアルコさんが、そう言いながら、笑顔で、僕達の元に戻ってきた。
「ご苦労様。
今後、2個小隊(1個小隊の人数は30〜80名)が、僕達を追って来るかも?って言う情報を得られたのはデカかったです。
取り敢えず、少しでも緩衝地帯を早く抜けたいな。
だから、バイクでの先導を止めて、3台の車を運転手を交代しながら、24時体制で稼働させながら移動したいね。
本音を言えば、キッチンカーや、ヴェルさんの店。トレーラーと言った、牽いてる物を、今すぐにでも、小瓶に封印したいところではあるけれど……
十中八九、【空の目】の監視されている。って考えると……小瓶に封印するタイミングも、良く考えないといけなさそうだね。」
僕は、アルコさんへのお礼の言葉と、今後の行軍についての提案や課題等を一気に話した。
「それならば、この山を降りて林道に戻る狭い道ではなく、尾根伝いを走る広い道で移動しよう。
そんでもって、2つ目の山の頂上にある分岐点で、旧街道に続くルートではなく、3ヶ月前に廃道になった、馬喰らい街道に続くルートを選択しよう。
因みに、馬喰らい街道は、表街道や裏街道。旧街道と同じく、大型のトレーラーを牽いたトラックが行き交う事を前提に作られた道だ。
それに、まだ、廃道になってから3ヶ月しかたってないから、そこまで道も荒れていない筈だ。
だから、ヴェルでも、自分の店を牽いたトラックを、問題なく運転する事が出来ると思うんだ。
勿論、状況次第では、キッチンカーや、ヴェルの店。トレーラーと言った、牽いてる物を、小瓶に封印してスピード アップを図らないといけないとは思う。
だけど、まだ……奥の手として取って置くべきだと思うんだよ。」
僕の話を聞いたベアゾウさんが、私見を話してくれる。
「了解。ベアゾウさんの言うルートを取ろう。
それと……サクモちゃん。
いくら、寝なくても大丈夫だとはいっても……疲労は蓄積されている筈だ。
だから、少しだけでも、運転を代わるよ。」
「それは助かる。
だけど、パパに運転を代わって貰う。って事は、
パパが、カリーナ帝国の追っ手から逃げる為の案とかを考える時間を奪っちゃう事にもなるんだよね……」
僕の提案を聞いた嫁が、困った顔をしている。
◇◇◇
「せやったら、サクモさんを休んで貰ってはる間の運転は、ウチが代わりにしよか。
それで、万事解決やろ。」
「気持ちは嬉しいけど、プグナコちゃん……元の世界(ムシュ イム アン キ)では、高校生だったんでしょ?
車の運転免許なんて持ってないでしょ。」
プグナコちゃんの提案を聞いた嫁が、苦笑いしている。
「チッ。チッ。チッ。
実は、ウチ……車の運転が出来るんや。」
「まさか……プグナコ殿。ハワイで、お父上に……」
プグナコちゃんの話を聞いた、レイヒト君が、驚愕の表情を浮かべている。
「何でやねん。
ウチの誕生日は、4月なんや。
でっ。今年の夏に、夏休みを利用して合宿免許を取ったんや。
これが、その証拠や。」
プグナコちゃんが、そう言いながら、財布の中から免許証を取り出して、見せてくれた。
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