山道の移動
「残念ながら、3つ先の山の向こうで降き荒れている嵐は……昨日よりも、更に酷い感じになってしまってるでございまする。
今日は、かなり、キツい旅になると思いまするが……宜しく頼むでございまする。」
レイヒト君が、皆に、現状を報告してくれる。
時刻は7時。
日が昇ったと同時に、僕達は車外に集まって、今日の行動予定の確認を取る事にした。
「ヴェルさんが、ウチのバイクに取り付けてくれはった【マジックウインド シールド】だけやのうて、
ウチが同好会で使うてた、レインウェアと防水仕様のトレッキングシューズがあるから、雨や風の対策は、バッチリや。
せやから、ベアゾウさん。ウチもバイクで先導する事が出来るで。
ホンマに、自分、1人で先導役を、やりはるつもりなんか?」
プグナコちゃんが、そう言いながら、不服そうな顔で、ベアゾウさんに質問をする。
「あんた達のバイクも、2人乗りが限界だろ?
だから、不測の事態に備えて、サルクルさんと一緒に、子供達についてやっていて欲しいんだよ。」
「了解。
そう言う事やったら、先導は、ベアゾウさんに任せて、サルクルさんや、ドマ。コルと、子供達の護衛に専念させて貰うわ。」
ベアゾウさんの返答を聞いたプグナコちゃんが、真剣な顔で頷いた。
「てか……もしもの時ように、100均で買ったレインコートや、防水・レイン用シューズカバーが、こんなところで役に立つとは思っても見なかったよ。」
「買ってやった時には、『使う事が無さそう。』なんて、失礼な事を言ってたのは、どちら様でしたったけ?」
僕の呟きを聞いた嫁が、ジト目で見てくる。
「すみません。反省してます。」
「素直で宜しい。」
嫁が、満足気な顔で頷いている。
「取り敢えず、明日の朝までの食糧と飲み物を渡しとくわ。
足らなかったら言ってね。」
嫁が、そう言いながら、アルコさん達に、ビニール袋に入った、食糧や水を渡す。
「これは、ウチが同好会で使うてた、ペットボトル用のハイドレーションチューブ。ちゅう道具や。
こうやって、ペットボトルの蓋を取った部分に差し込めば……手を使わんでも飲み物が飲めるんや。
でっ。ペットボトル用のハイドレーションチューブを差したペットボトルを鞄とかに入れとけば……バイクに乗りながら、水分補給が出来るんや。
特に、ベアゾウさんは、重宝するんちゃうか?
でっ。実は……昨日の晩、サルクルさんに無限増殖を利用して、皆の分を揃て貰うたんや。
てな、訳で、これあげるわ。」
プグナコちゃんが、そう言うと、ペットボトル用のハイドレーションチューブを、得意気な顔をしながら、配り始めた。
「ねぇ……プグナコちゃん。ってさぁ……何の同好会に入ってたの?」
「ハイキング同好会や。」
興味津々な顔で質問をする嫁に、プグナコちゃんが、ドヤ顔で返答を返していた。
■■■
『出るぞ。』
携帯から、ベアゾウさんの声が聞こえてくる。
時刻は8時。
僕達はベアゾウさんの合図で行軍を開始した。
先頭を行くのは、ベアゾウさんが乗る、アドベンチャー バイクだ。
その後ろを、昨日と同様、
アルコさんが運転する、キッチン トレーラーを牽いた、ピックアップ トラックが続く。
今日も、助手席に置かれた、ドライブ ボックスみたいな感じの物に、アルブスが入り、周囲の索敵をしてくれるらしい。
アルコさんが運転するピックアップ トラックの後ろを、昨日と同様、ヴェルさんの店を牽いた、ウ◯モグ風な感じのトラックが続く。
昨日と同じく、
運転手は、バンオさん。助手席にはヴェルさんが座り、2列目に座席の真ん中に置かれたドライブ ボックスみたいな感じの物に、アーテルが入っている。
最後尾は、昨日と同様、植物油の入ったトレーラーを牽く、僕達のキャンピングカーだ。
運転手は嫁。助手席はレイヒト君。
僕。プグナコちゃん。メアちゃん。ルオ君。そして…… フェエスタオルを入れた、取っ手付きのプラスチック ケースの中に入った、コルとドマが、リアキャビンの乗車スペースに居る。
草原と山や森。走る場所の違いはあれど、配置に変更はない。
「今から、絵本でしか見た事のない、森や山の中を移動するらしいわよ。
森や山の中の景色は……どんな感じなんだろうね。
楽しみで仕方がないわ。」
メアちゃんが、ワクワクした顔で窓の外を見ている。
「山や森は、草原以上に危険だと、ヴェルさんや、バンオさんが言っていた。
だから……綺麗な景色を見ても、絶対に……勝手に窓を開けるなよ。」
「もう。それぐらい分かってるよ。」
心配そうに話すルオ君の言葉を聞いたメアちゃんが、頬を膨らませながら反論する。
「その言葉……信じるからな。
嘘をついたら……ヴェルさんや、バンオさんに言いつけるからな。」
「頑張ります。」
ルオ君のチクリます宣言を聞いたメアちゃんが、不機嫌そうな顔をしながら、窓の外を見つめていた。
■■■
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
【ガサガサ】・【ガサガサ】・【ガサガサ】
走り始めてから10分もしない内に森の中に入った。
ただでさえ、狭い林道を覆い隠すかのように生えている草木が窓にぶつかる音が絶え間なく聞こえてくる。
『うげ!
木の上から、フロントガラスに……バカ デカい ミミズが張り付きやがった!
キモ! キモ! キモ! キモすぎだわぁぁぁ!』
嫁の悲鳴が、携帯から聞こえてくる。
『サクモ殿。落ち着くでございまする。
それは……ミミズではないでございます。人の血も吸う……ヒルと言う生き物でございまする。』
『へ~。ミミズじゃなくて……ヒルなんだ……良かった……って、なるわけないでしょうが!
てか、ヒル。って聞いたら……もっと焦るだけだわ!』
レイヒト君のツッコミを受けた嫁が、レイヒト君に、八つ当たりをしながらも、キャンピングカーの運転だけは、冷静に行ってくれているようだ。
「運転、変わろうか?」
『大丈夫です。
こんな場所で車を止めるなんて、あり得ないです。
だから……事故らないように、死ぬ気で頑張ります。』
僕の質問に、嫁が逆ギレ気味に答えてくれる。
【ゴン】・【ゴン】・【ゴン】
【ゴン】・【ゴン】・【ゴン】
【ゴン】・【ゴン】・【ゴン】
リアキャビンの窓に、蜂の大群がぶつかってくる。
「あちゃ~。蜂の巣が近くにあったんかなぁ……
メアちゃん。窓は開けたらアカンよ。」
「言われなくても分かってます!
蜂が居なくなったら、教えて下さい!」
プグナコちゃんの言葉を聞いたメアちゃんが、そう言いながら、頭から毛布を被ってしまった。
■■■
「綺麗!」
「本当、スゲー、景色だな。」
メアちゃんの言葉に、ルオ君が頷いている。
僕達は、1つ目の山の頂上付近の広場で休憩を取る事にした。
開けた場所なので、モンスターや虫等から、木々の上から襲撃される恐れも
そのお蔭で、眼下に見える絶景をゆっくりと堪能する事が出来る。
【ゴソゴソ】
運転席等があるフロント キャビンと、僕達の居るリア キャビンを繋なぐトンネルから嫁が顔を出す。
「ごめんだけど……先にトイレを使わせて貰うね。」
嫁は、そう言いながら、トイレが置かれているマルチ ルームに移動して行った。
◇◇◇
「廃道予定。って聞いてたが……
実際のところ、既に廃道だったな。
キッチンカーや、ヴェルの店。トレーラー等を牽きながら、よく、ここまで来れたもんだよ。」
皆が、車外に出るなり、ベアゾウさんが、ドライバー達を褒め称えた。
「まぁね。腕が良いから。」
「そう言う事。」
ベアゾウさんの言葉を聞いた、嫁とアルコさんが得意気な顔で頷く。
「本当、そう思う。
バンオの腕が錆び付いてなくて良かったよ。」
ヴェルさんがタメ息をつきながら、僕達が来た方向を見つめている。
「お~い。ギルドから通信が来てるにゃぞ。」
アーテルが、そう言いながら、ヴェルさん達の乗る、トラックから出てきた。
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