【サイドストーリー】聖戦に向けて(イギンゲシュトゥグ視点)
「ナヤクラース連邦が、土地の所有権を放棄したお陰で、我が国が世界を統べる上で最大の障害となるであろう国の1つ。神聖法王国へ聖戦を仕掛けるにあたって、大森林地帯の国や部族との調整が必要な場所が、一気に減りましたわ。
しかも、ナヤクラース連邦が放棄した土地を除いた、カリーナ帝国と神聖法王国を隔てる土地は、全て、複数の国や部族が、土地の所有権を争っている場所。
つまり、誰の土地でも無い、所有者不明の土地だ。と言い切っちゃえば……今すぐにでも、神聖法王国へ聖戦を仕掛ける為の軍団を派遣する事も可能ですわよ。」
謹慎が解けたばかりの、カリーナ帝国の第1皇女であり、カリーナ帝国軍の総大将でもあらせられる、ムシェンサン様が意気揚々とした顔で陛下(カリーナ皇帝)に自説を説かれる。
「ギルドの高ランク冒険者への召集令状が先では?
失礼ですが……我が国の兵団だけでは厳しいですぞ。
それに、異世界(ムシュ イム アン キ)から召還させて頂いた勇者様達の殆んどが、我が国の兵団に入隊して頂けた、お陰で……データ上の戦力は大幅に上がってはおりますが、
如何せん、彼達はまだ、実戦に投入された事はございません、故に、その実力は未知数です。
ですから……焦る気持ちは分からんでも無いですが……ここは、慎重に動くべきかと思います。」
ムシェンサン様の、お言葉を聞かれたカプズル様が、慌てて、待ったをかけられた。
◇◇◇
「この会議が終わり次第、
我が国の領内にある、全てのギルドの支部・支店・営業所に対して、現在、依頼を受けていない、高ランクの冒険者への召集令状の発行を依頼する。
それと同時に、冒険者に拘らず、全てのギルドの登録者に、聖戦への参加を呼びかけて貰う。
部下には、明日の昼までに、進捗を確認させるとともに、
現在、依頼をこなしている真最中の高ランクの冒険者にも、速やかに聖戦に参加して貰えるよう、ギルドに調整を依頼させるつもりよ。
それと……異世界(ムシュ イム アン キ)の勇者様に関しては、警備隊や開発局や医務局等に振り分けて配属するわ。
そして、彼達には聖戦ではなく……冒険者達が聖戦に参加する事で手薄になる、我が国の領内の人外地の街道や林道の安全の維持や……武器の開発や生産。後に前線から帰国してくるであろう負傷兵達の看護等の仕事に就いて貰いたいと考えてるわ。
この流れならば……貴方も賛成してくれるかしら?」
「えぇ。素晴らしい案です。
この案ならば、皇女殿下を快く思われていない者達も納得せざる得ない筈です。」
カブズル様が、そう仰られながら、安堵の笑みを浮かべられている。
◇◇◇
「おい。おい。おい。待て。待て。待て。
何かさぁ……俺達、足手まといみたく言われてね?」
「スティオの言う通りだな。
てか、それだと、そもそも……僕達を、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)に召還する意味が無いんじゃないか?
僕達の世界(ムシュ イム アン キ)の人間の方が、この世界(アン ナブ キ シェア ラ)の人間よりも優れているから、召還されたんだろ?
君達のやろうとしている事は……理解不明だよ。」
異世界(ムシュ イム アン キ)人を代表して、この会議に出席して貰っている若い2人の男が、不機嫌な顔をし始めた。
「この世界(アン ナブ キ シェア ラ)で生まれ育った者よりも、異世界(ムシュ イム アン キ)からの召還者の方が、アサグに進化する確率が格段に高いのです。
まぁ……今回の召還者の中で、我々が確信を持ってアサグ様と言える、イノカワ殿は、何を思われたのか、アサグの特権を放棄されたようですから、通常のアサグとは、少し扱いを変える必要性が……って……すみません。話が逸れました。
兎に角、我々が、貴女達の世界(ムシュ イム アン キ)の人間を召還し続けているのは、アサグに進化なされた方を、我が国の中枢に引き込みたかったからです。
しかし、今回の召還者の質が想定以上に低かったので、到達点のジョブ補正を受けておられる貴女達まで、異世界(ムシュ イム アン キ)人の代表者として、この会議に召集させて頂かざるえませんでした。
貴方達が、我々に不満を持っている事は重々承知しておりますが……我々も、貴方達に不満がある事も、ご理解して下さいませ。」
ムシェンサン様が、異世界(ムシュ イム アン キ)人の代表者達を見下すような目で見られながら、タメ息をつかれている。
「ねぇ……喋る猫ちゃんも、イノカワ君に同じような事を言っていた気がするけれど……もう少し、詳しく教えてくれませんか?」
異世界(ムシュ イム アン キ)人の代表者の若い女で、【賢者】のジョブ補正を受けている、ニチワミが真剣な顔でムシェンサン様に質問をする。
そして、隣に居る、イノカワの腰巾着のような男で、【武聖】のジョブ補正を受けているスティオも興味津々な顔をしながら、そのやり取りを見ている。
「確かに、この僕の異能。【ジョブマスター】の影響力は、他のアサグの異能と違って、ジョブ補正を受けている者達と同等レベルだ。
だけど、僕は……ルル・アメル(原始的労働者)と言われている、他の奴達者と違って、全てのジョブ補正と完璧にシンクロする事が出来るんだぞ。
確かに、僕の異能では、あの糞生意気な猫には、全くと言って良い程、歯が立たなかったのも事実だ。
だけど……アサグではなく、ルル・アメル(原始的労働者)である、貴女にまで、小馬鹿にされる程、ショボい異能ではない筈だ。」
イノカワが、憤怒の表情を浮かべながら、ムシェンサン様を睨みつけていた。
◇◇◇
「同じ量のマナを込めた場合、
ジョブ補正の魔法や魔術の影響力は、シングルの異能の1/20。ダブルの異能の1/10。
これが、アサグと、我を含むルル・アメル(原始的労働者)を隔てる、もっとも大きな壁だと言われている。
でっ。イノカワ殿。貴方の異能から生み出させる魔法や魔術の影響力は……残念ながら、アサグの側ではなく、こちら側です。
だから、実際のところ、アサグと同格である、貴方が言う糞生意気な猫だけではない。
貴方と同様の問題を抱えた異能を持つアサグ以外の全てのアサグよりも貴方は格下になる。
しかも、その異能……一度に複数のジョブ補正を受けられる訳では無いのでしょう?
つまり、その時々の状況の解決能力。って言う意味では、到達点のジョブ補正を受けているルル・アメル(原始的労働者)と同格。って事になりますね。
だから、我々は、貴方をアサグではなく、優秀なルル・アメル(原始的労働者)として扱わせて貰う。
この決定に異論があるなら……覆せるだけの論理的な根拠を示して欲しいですわね。」
「………」
真っ赤な顔になったイノカワは、ムシェンサン様を睨みつけたまま、黙っている。
◇◇◇
「直言の無礼、ご容赦下さい。
イノカワ殿には、我が軍を退役して頂き、高ランクの冒険者様として、聖戦に加わって頂くのはどうでしょうか?
因みに、高ランクの冒険者は、総大将の皇女殿下様よりかは、格下ですが……各軍の将軍様とは同格。つまり……今の地位を現状維持する事が出来ます。
その上、軍役に就かれる者よりも自由度もアップしますし、報酬も……契約内容、次第では上がると思います。
ですから、我々だけでなく……イノカワ殿にとっても、良い提案だと思うのですが、如何でしょうか?」
カキリが、得意気な顔をしながら、この不穏な空気の落としどころを提案する。
◇◇◇
「なぁ……俺も……その冒険者。って奴にして貰う事は出来ねぇか?
聖戦。ってのは、合法的に人殺しが出来るんだろ?
しかも、今の話だと、大金まで手に入るみたいじゃねぇか。
警備隊に入れられて、チマチマと小金を稼ぎながら、平凡な日常を過ごすよりも……よっぽど楽しそうだ。」
スティオがニヤニヤしながら、カキリに質問をする。
「私は、あくまでも提案したまでです。
許可を求める相手を間違えないで貰いたいですね。」
カキリが、タメ息をつきながら、スティオに返答を返す。
「カリーナ。
カキリの提案や、イノカワ殿とスティオ殿の退役について、どう考える?」
「素晴らしい提案だと思います。
彼達に関わらず、聖戦に参加されたい異世界(ムシュ イム アン キ)人が他に居ないか、この会議の後、直ぐに聞き取りを始めます。
そして、冒険者として聖戦に参加したい方達には、ギルドへの登録等の作業を部下達にバックアップさせますわ。」
陛下(カリーナ皇帝)のご質問に、ムシェンサン様が、笑顔で答える。
「分かった。その方向で動いてくれ。
カキリ。良い提案をしたな、後日、改めて褒美の話をしよう。」
「陛下からの、お褒めの言葉と言う、ご褒美だけで充分でございます。」
「そうか。善き心掛けだな。誉めてつかわそう。」
カキリの言葉を聞いた陛下(カリーナ皇帝)は、満足気な、お顔で頷かれていた。
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