一抹の不安と旅立ち
「と。言う訳で、草原の移動は、バイクの先導は無しとする。
予定では23時頃まで働く事になる予定だが……
状況が悪化しても支障が出ないようにする為に、
今日中に、大森林地帯の旧街道に接続する事が出来る、廃道予定の林道の10キロ手前まで、一気に移動する。
宜しく頼む。」
ベアゾウさんが、レイヒト君が掴んでくれた情報を話した後、移動ルートや、今日の予定を一気に話してくれた。
「ナヤクラース連邦も、面倒な事をしてくれたもんだよ。
バンオ・メア・ルオ。店を移動モードに変える。
準備は、粗方、出来てるとは思うが……最終点検をするよ。」
「了解」×3
バンオさん・メアちゃん・ルオ君は、ヴェルさんの言葉に頷くと、
ヴェルさんと共に、店の中に走って戻っていった。
「車の封印を解く。『封印解除』」
アルコさんが、小瓶の中から、ダブルキャビンのピックアップ トラックのような形をした車を出した。
「これ。昼と夜のご飯。
それと……飲み物ね。
足らない時は言って。都度、渡すから。」
嫁が、アルコさん・ベアゾウさん・アルブス用のご飯や飲み物を入れた、コンビニのビニール袋をアルコさんに渡す。
「有り難う助かるよ。」
アルコさんが、そう言いながら、頭を下げてきた。
■■■
【ガシン・ガシン・ガシン】
【ガシン・ガシン・ガシン】
【ガシン・ガシン・ガシン】
ヴェルさんの店の形がミルミルと変わっていく。
マナを通すと、炉や家具等の配置が、予め設定されている場所に移動し、
その後、壁の一部がスライドし、横と高さが1.9メートル。長さが9メートルのコンテナ ハウスになるらしい。
ただ、店の中の空間の広さを、魔法や魔術で変えている訳ではないらしく、
面積で言うと1/6まで圧縮された店の中は、炉や家具等が、ところ狭しと配置されているらしく、人が中に入れるようなスペースは、トイレを除いて無いらしい。
「店の縮小が完了するまで、あと5分。ってとこね。」
ヴェルさんが、そう言いながら、小さくなっていく店を眺めていた。
■■■
僕達は、草原を3台の車に分かれて乗車して移動している。
先頭を行くのは、アルコさんが運転する、キッチン トレーラーを牽いた、ピックアップ トラックだ。
助手席に置かれたドライブ ボックスみたいな感じの物にアルブスが入り、2列目にベアゾウさんが座っている。
2台目は、ヴェルさんの店を牽いた、ウ◯モグ風な感じのトラックだ。
運転手は、バンオさん。助手席にはヴェルさんが座り、2列目の真ん中の座席に置かれたドライブ ボックスみたいな感じの物にアーテルが入っている。
そして、最後尾は、植物油の入ったトレーラーを牽く、僕達のキャンピングカーだ。
運転手は嫁。助手席はレイヒト君。
僕。プグナコちゃん。メアちゃん。ルオ君。そして……
フェエスタオルを入れた、取っ手付きのプラスチック ケースの中に入った、コルとドマが、リアキャビンの乗車スペースに居る。
『だいぶ、暗くなってきたわね。
ライトは付けるべきだと思う? 付けないべきだと思う?』
携帯から、アルコさんの声が聞こえてきた。
レイヒト君が、僕達の携帯と、アルコさん達やヴェルさん達の車やトラックに取り付けらた通信機器と接続させてくれたお陰で、走りながらでも連携が密に取れている。
『夜間に移動している時点で、ライトを付けてようが、付けていなかろうが、国境警備隊に出会えば、職務質問をされる筈です。
だったら……堂々としてる方が良いかと思います。
それならば、予定に遅れが出たので、その遅れを取り戻す為に、夜間まで仕事をしている。って言う言い訳が出来ます。』
バンオさんが、アルコさんの質問に理路整然と答える。
『了解。じゃあ……ライトは付ける。と言う事で。』
アルコさんが、バンオさんに返答を返す。
『トイレ休憩以外は、止まらない。
食事も、乗り物を走らせながら取るのよね?』
『あぁ。その方が良いだろうな。
出来れば、明日の朝一から、林道に入りたい。
だけど、俺達は、アサグの皆さんと違って、半球睡眠が出来ねぇ。
だから……少しでも睡眠時間を長く取らせて欲しい。』
嫁の質問に、ベアゾウさんが、申し訳なさそうな声で返答を返す。
『了解。』
嫁が、ベアゾウさんに短い返答を返す。
『メア・ルオ。眠くなったら……遠慮せずに、寝かして貰うんだよ。』
「は~い。」×2
ヴェルさんの指示に、メアちゃんとルオ君が、元気な声で、返答を返す。
■■■
「ふぁ~。外が真っ暗で景色も楽しめない。」
「見えたところで、見える景色なんて大して変わらへんやん。」
眠そうな声で文句を言うルオ君に、プグナコちゃんが、笑いながらツッコミをいれている。
時刻は20時。
少し早い気もしたが……トイレ休憩の間に、メアちゃんと、ルオ君。そして……フェイスタオルを入れた、取っ手付きのプラスチック ケースの中に入った、コルとドマをバンク ベッドに上げていて正解だったな。
因みに、バンク ベッドには、ヴェルさんが、滑落防止の柵を取り付けてくれたので、動く車内でも安心して利用する事が可能になったのは有り難い事だ。
「寝ても良いですか?」
「良えよ。」
メアちゃんの質問に、プグナコちゃんが優しい声で答える。
「おやすみなさい。」×2
メアちゃんと、ルオ君は、そう言うと、スヤスヤと寝息をたて始めた。
◇◇◇
「そう言えば……
僕達の動きを、ディンエさんや、サスサイさんに報告してなかったよね……」
僕は、メアちゃんと、ルオ君が眠ったのを確認しながら、嫁・プグナコちゃん・レイヒト君に確認を取った。
『安心するでございまする。
拙者が、毎晩、近況を報告しているでございまする。』
『お~。流石、レイヒト君。マメね。
でっ。ディンエさん達は、何か言ってた?』
嫁が、レイヒト君のファインプレーを褒め称えてくれる。
『サクモ殿。誉めて頂き、有り難うでございまする。
ディンエ殿からは、今のところ、
『了解しました。引き続き宜しくお願いします。』
と言う返信が来るだけで、特に指示等は出ていないでございまするぞ。』
レイヒト君が、弾んだ声で追加の情報をくれる。
「なぁ……明日の朝から入る、林道を確認してたんやけど……
山を3つ越えた先で、土砂降りの大雨が降ってはるで。
この話は、ここら辺にしといて……
念の為、ベアゾウさん達に連絡しといた方が良さそうな気がするんやけど……」
『確かに。物凄い嵐が吹き荒れいるでございまするな。
プグナコ殿。確認、感謝感激、雨アラレでございまする。
直ぐに、ベアゾウ殿やバンオ殿が乗られておられる、車やトラックと、通信を繋ぐでございまするぞ。』
レイヒト君の慌てた声が、携帯から聞こえてきた。
■■■
『【空の目】てのは、本当に便利だな。
かつては、管理人や神仏の代理人。今は……皇家や王家。公爵家等の上位貴族。軍の上層部やエリート部隊。ギルドの上層部の職員達や、そいつ達のお気に入りの高ランクの登録者等が独占する訳だぜ。』
ベアゾウさんの声が携帯から聞こえてくる。
因みに、アルコさんや、ヴェルさんに渡したタブレットPCの操作方法を覚えて貰う時間が取れなかったので、レイヒト君が、遠隔操作で映し出した映像を見て貰っている。
『こりゃ……かなり道が泥濘でるだろうね。
状況によっては……土砂降りの雨の中、全員、バイク移動。って事になりかねないわね。』
アルコさんが、苦笑いしている。
『バンオ。
先に備えて、直ぐに店を封印していた方が良いんじゃないかい?』
『落ち着けヴェル。
【空の目】。って奴で、カリーナ帝国軍や、カリーナ帝国軍に尻尾を振っているギルドの職員に、俺達の同行が観察されている可能性があるんだろ?
それを想定した場合……効率的すぎる事前準備は、逆に悪手じゃねぇか?』
『確かに。』
バンオさんの言葉に、ヴェルさんが頷いていた。
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