旅の準備と一抹の不安①
「はぁ……あの2時間は、なんやったんやろな。」
「だよね……」
プグナコちゃんの愚痴に、嫁が頷く。
僕達は、昨日、ジハリマの町に入る為に並んだ城門とは別にある、
ギルドの職員や登録者しか使えない城門から、ジハリマの町の外に出た。
昨日、僕達が、ジハリマの町に入る為に通った城門は、僕達の世界(ムシュ イム アン キ)の城の城門と似たような感じの造りをしていて、並んだ順番に沿って、門番が、1人・1人、チェックをしながら、中に入れてくれるシステムだった。
僕達の世界(ムシュ イム アン キ)の行列の出来る飲食店で、順番待ちをしているような気分だった。
それに比べて、今日、ジハリマの町から出る為に使った城門は……まるで、僕達の世界(ムシュ イム アン キ)の巨大な倉庫の搬入口のような感じだ。
トラック等が入るバースが、横一列に30個ぐらい並んでいる。
僕達は、そのバースの1つの横を通り抜けて、ジハリマの町の外に出る予定だ。
「アルコ殿と、ベアゾウ殿のお陰で、拙者達まで、顔パスのような感じで、スムーズにジハリマの町の外に出して貰えるようでございまする。
感謝感激でございまするぞ。」
「そう言って貰えると、こちらも嬉しい。
店を構えてるのは壁外区だが……俺達が知っている限りでは、最高の職人だ。」
レイヒト君の言葉を聞いた、ベアゾウさんが、にこやかな笑みを浮かべている。
■■■
「アーケードがあったら……完璧な商店街やな。」
「言えてる。
てか……城壁の中よりも、活気に満ちてない?」
嫁は、プグナコちゃんの言葉に頷きながら、目をキラキラとさせている。
ギルドの職員や登録者の専用の出入口から、ジハリマの町の外に出た僕達の目の前には、様々な店が軒を連ねている、アーケードのない、商店街のような光景だった。
そして、全ての店の天井には、ゲルのような感じの大きなテントが張られていた。
「そこの店だよ。」
アルコさんが、そう言いながら、1階部分が、町工場。って感じの雰囲気がする店を指差した。
◇◇◇
「いらっしゃい。」
「連チャンで来るなんて、珍しいですね。」
ガレージから、小さな女の子と、男の人が出て来た。
「今日は、ヴェルに客を連れてきたんだよ。」
アルコさんが、そう言いながら、にこやかな笑みを浮かべる。
「有り難うございます。
そうそう。昨日は、社長が、スミマセンでした。」
男の人が、そう言いながら、頭を下げる。
「気にすんな。
今日は、リベンジもさせて貰うつもりだよ。」
「それは、有り難い話ですね。
正直な話……この子達や、社長の事を考えると、一刻も早く、この国(カリーナ帝国)を出るべきですからね。」
男の人が、アルコさんの話を聞いて喜んでいる。
「バンオが言いたい事は分かる。分かるけど……
ジハリマ侯爵領の他の村に、出張サービスをするのとは訳が違う。
まず、山や森の移動は、草原の移動の何百倍も危険なの。
しかも、この店を展開する事が出来るような場所を見つけられる保障なんてない。
だから、夜は野営を覚悟しとかないといけない。
そんな場所に、戦闘が苦手なジョブ補正を受けている、あんたや……子供達を連れて、ホイソレと行ける訳無いじゃん。」
妙に威厳に満ちた、女の子が、タメ息をつきながら、店の中から出てきた。
◇◇◇
「お客さんを連れて来てやったぞ。
話は、その後にしてやってくれ。」
ベアゾウさんが、そう言いながら、僕達を手で指す。
「珍しく気が利くじゃない。
でっ。何をして欲しい?」
威厳に満ちた女の子が、僕達に笑顔を向ける。
「キャンピングカーを商品を積んだトレーラーを引っ張れるように改造して欲しい。
それと……バイクに【マジック ウインド シールド】を取り付けて欲しい。」
嫁が、そう言いながら、威厳に満ちた女の子に頭を下げる。
「そう。じゃあ……店の裏に回って?
とりあえず、キャンピングカーとトレーラー。それと……バイクと【マジック ウインド シールド】を見せて欲しいな。」
「トレーラーも積み荷も【マジックウインド シールド】も、まだ、買えてないの。
トレーラーや、【マジックウインド シールド】を売っている店があれば、教えて欲しいです。」
「了解。
【マジックウインド シールド】は、ウチで販売している物を取り付けさせて貰うよ。
とろこで……アルコ。ベアゾウ。
何処で、こんな化物達と知り合えたのさ。」
威厳に満ちた女の子は、嫁の言葉に頷くと、
アルコさんと、ベアゾウさんに質問をする。
「昨日、マトルの宿屋に飯を食いに行ったら、たまたま、出会った。
この人達、異世界(ムシュ イム アン キ)人らしいぞ。」
「へ~。そうなんだ。」
ベアゾウさんの返答を聞いた、威厳に満ちた女の子が、興味津々な顔で僕達を見ていた。
■■■
【カン・カン・カン】・【カン・カン・カン】
ヴェルさんが、僕達のキャンピングカーを改造してくれている音が聞こえてくる。
髭の生えていない、ドワーフの成人女性は、大人になっても子供みたいに見えるとは聞いていたけれど……
まさか、威厳に満ちた女の子だと思ってた人が、僕や嫁と対して年齢の変わらない、冒険者を引退して、加治屋になったという、ヴェルさんだとは思わなかった。
レイヒト君は、ヴェルさんの側に居て、ヴェルさんの質問に分かる範囲で答えてくれている。
ベアゾウさんは、キャンピングカーの隣に出した、オフロード仕様の高速道路も走れる3輪スクーターを物珍しそうに見ている。
嫁とプグナコちゃんは、
アルコさんや、ヴェルさんが世話をしていると言う、2人の孤児達と一緒に、
ベアゾウさんが使役している、魔狼のアルブスと、フリスビーを使って遊んでいる。
地平線まで見渡せるような広い草原は、天然のドッグラン。って言う感じだ。
嫁達以外にも、若者達が、あちこちで、魔犬と戯れている。
◇◇◇
「平和な光景ですね。」
「えぇ。
この光景が、何時までも続けば。とは思うのですが……大戦の足音は、こんな辺境の地まで近づいて来てます。
中には、夜間の番犬として飼っていた魔犬に、本格的な対人戦の練習をさせる奴まで出てくる始末です。
幼い頃、軍人の家系で育った、人属の自分が言うのもなんですが……本当に……狂ってるとしか言い様が無い。
こんな事になると分かっていたならば……
たとえ、結果は、同じだったとしても、
神仏の代理人達を殲滅する為に、我々と共に戦ってくれたと言う、新任の管理人様達の追放に反対する運動に参加するべきでしたよ。」
僕の言葉を聞いた、バンオさんが、そう言いながら、苦笑いを浮かべている。
バンオさんの母親は、幼い頃に病気で亡くなったらしい。
そして、父親と兄・姉は、神仏の代理人達との戦争で、立て続けに戦死してしまった為、天涯孤独の身になってしまったらしい。
その後、バンオさんは孤児院に引き取られ、ヴェルさんとは、その孤児院で出会ったらしい。
ただ、その時は、仲が良かった訳でもないらしい。
◇◇◇
【物情を繋ぐ者】と言う、商人系の最高のジョブ補正を受けられたバンオさんは、ジハリマの町のシリソク商会に入り、幹部にまで登り詰めたらしい。
そして、職人系の最高のジョブ補正と言われている、【錬金術師】のジョブ補正を受けられたヴェルさんは、アルコさんとベアゾウさんと共に、冒険者になったらしい。
そんな2人の人生が、再び、交わる事になったのは……
アルコさん・ベアゾウさん・ヴェルさんが、
ジハリマの町の騎士団の手伝いで奴隷商人達を逮捕した事からスタートしたらしい。
ヴェルさん達の活躍で、奴隷商人達は瞬く間に捕まったらしいのだが……
奴隷として捕まえられていた子供達の中に居た、ハーフ エルフのメアと、ハーフ ドワーフのルオに関しては、
ヴェルさんやバンオさんが育った孤児院も、人属とエルフ。人属とドワーフの混血と言う理由で難色を示したらしい。
でっ。その時、ヴェルさんは、
2人の子供達を育てる事や、冒険者を引退して加治屋になる事を宣言したらしい。
ただ、その後……
ヴェルさんは貯蓄を叩いて壁外地区に店を構えたものの……商売は軌道に乗らなかったらしい。
でっ。その噂を聞きつけたバンオさんは、直ぐに、シリソク商会を辞め、ヴェルさんの店を訪れて……今に至るらしい。
「にゃあ。バンオ。
古巣(シリソク商会)のコネを使えば、植物油とやらをトレーラーごと買えにゃいか?」
先刻まで、僕達のキャンピングカーの中を探検していた、ヴェルさんが使役している猫又のアーテルが、ニヤニヤしながら、バンオさんに質問をする。
「植物油は分かりませんが……トレーラーなら直ぐに手に入れられますよ。」
アーテルの質問に、バンオさんが、不思議そうな顔をしながらも、返答を返す。
「サルクルさん。聞いたかにゃ。
メアとルオを主達のキャンピングカーに乗せて、カバパ連邦に運んでくれるのにゃらば……
バンオに便宜を図って貰えるよう、お願いしてやるにゃよ。」
アーテルが、ドヤ顔で僕を見ている。
「成る程ね。
だけど……僕の一存では決められない。
直ぐに、皆に話してみるよ。」
「そうしてくれにゃ。」
アーテルが、にこやかな笑みを浮かべながら、頭を下げてきた。
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