最終決戦の直前②
「いや~。助かりました。」
『良い。って事さね。』
僕の俺に対して、シャンシさんが笑いながら返答を返してくれる声が携帯から聞こえてる。
6時間前から、全世界の龍脈を制御する施設の周辺を再び、異常気象が襲っている。
そのせいなのか……パールス連邦とナヤクラース連邦の国境の間に広がる、半径500キロ程度の森が広がる緩衝地帯を中心に、現在、物凄い量の雪が降り続いている。
そのせいで、当初、予定していたバイクやトライクでの移動が難しくなった。
そこで、僕達は……
シャンシさんとダラダさんに、ウラオラの町のギルドの営業所にキャビン付きのスノーモービルの購入したい旨を伝えて貰っていたのだ。
そして、たった、今、
シャンシさんとダラダさん達用の6台のキャビン付きのスノーモービルと、僕達用の荷台のキャビン付きのスノーモービル。計8台のキャビン付きのスノーモービルを販売してくれる旨の返答を、ウラオラの町のギルドの営業所から貰えた。との報告をシャンシさんから受けたのだ。
「長さー 3870 mm、幅 - 1730 mm、高さ - 1970 mm。 座席数 -4。
軽トラよりも一回り大きい程度の小回りの利くサイズに、
いざとなったら、1台のキャビン付きのスノーモービルでの行動も可能な座席数。
良い買い物が出来たでございまするな。」
レイヒト君が嬉しそうな顔をしながら、タブレットPCを眺めている。
「ドカ雪が降り始めたせいで、バイクやトライクでの移動が無理かも……って聞いた時は焦ったけど……
今は、このキャビン付きのスノーモービルで移動する事が出来るぐらい、雪が積もってくれる事を願ってるよ。」
「せやな。
バイクやトライクは……【マジックウインド シールド】を取り付けてるとはいえ、剥き出しの部分が多いもんな。
パールス連邦とナヤクラース連邦の国境の間に広がる、半径500キロ程度の森が広がる緩衝地帯の気温は……-10度前後。明け方は……-20度近くまで冷え込む。ちゅう話やもんな。
やっぱ……寒い場所に行くんは……キャビン付きの乗り物が良え。」
プグナコちゃんは、嫁の言葉に頷いた後、キャビン付きのスノーモービルでの移動を切望する理由を語ってくれた。
◇◇◇
「ディンエ殿から久しぶりにサルクル殿にご見解を求めたい。って言うメールが来たでございまするぞ。
ベシアセ連邦のカンガ殿や、カリーナ帝国のサイアン辺境伯殿達が、カリーナ帝国のムシェンサン殿が、自領に潜伏している可能性があるとして……彼女の捜索を始める。と言う報告が来たらしいのでございまする。
また……自領で、ムシェンサン殿を見つけた場合……
カリーナ帝国に引き渡すべきか否かの指示を出して欲しい。とディンエ殿に依頼して来ているらしいのでございまする。
ディンエ殿的には……どうすれば良いか答えを出しかねておられるらしく……サルクル殿のご見解を聞きたいとの事でございまする。」
「ムシェンサンをカリーナ帝国に引き渡さない場合……カリーナ帝国との戦争は避けられない。
そんでもって、それは……ナヤクラース連邦との戦争も勃発する。という事でもある。
ただ……ムシェンサンを返したとして、カリーナ帝国やナヤクラース連邦との戦争を必ず回避する事が出来る。っていう保障もないけどね……
って……話が逸れたね。
つまり、ムシェンサンを見つけた場合……
カリーナ帝国に引き渡すべきか否かで、カリーナ帝国やナヤクラース連邦との戦争を回避する事が出来るか否かが決まる。と言っても過言ではない。
だから、ベシアセ連邦のカンガさんや、カリーナ帝国のサイアン辺境伯さん達を交えて、ディンエさんサイドの主だった面々で、カリーナ帝国やナヤクラース連邦との戦争を回避したいのか、戦争をやりたいのかを決めた上で、対処する事案だと思う。」
「了解したでございまする。
早速、ディンエ殿にサルクル殿の見解を伝えさせて頂くでございまする。」
レイヒト君がそう言うと……タブレットPCを動かし始めた。
■■■
「ウラオラの町や、その周辺が吹雪になっているでございまするな……
【空の目】の映像を見ると……スノーモービルでソリを引っ張って荷物を運ぶ方々も、チラホラと見受けられるようになって来ておりまするな。」
レイヒト君が、窓の外とタブレットPCを交互に見ながら、苦笑いしている。
「それと……たった今、全世界の龍脈を制御する施設から、数十羽づつぐらいの鳥のような物体が……カリーナ帝国のある方角に向けて、一斉に飛び立ち始めたでございまする。
多分……ムシェンサン殿を探す部隊の増援部隊なのでございましょうな。」
レイヒト君が、そう言いながら、僕の方を見ている。
「多分……そうだと思う。
【カリーナ帝国 ムシェンサン失踪事件】のお陰で……仕事のハードルが、かなり下がったのかな。
だけど……油断は禁物。
【カリーナ帝国 ムシェンサン失踪事件】が、僕達を油断させる為の【虹を見たい者達】が仕掛けた自作自演の可能性も0%ではないからね。」
「了解。」×3
僕のレイヒト君への返答を聞いた、レイヒト君・嫁・プグナコちゃんが、静かに頷く。
「けど、まぁ……ここまで来たら、腹を括るしかないやろ。
【虹を見たい者達】が、ウチ達を待ち構えてはっても……ウチ達の事をノーマークやったとしても……
ウチ達がやる事は変わらへんのやからな。 」
「だね。」
プグナコちゃんの言葉に嫁が静かに頷く。
■■■
「カリーナ帝国のジハリマの町の城壁ぐらい、バカデカい城壁やな。」
「ですな。
こう言うのを生で見ると……やっぱり、ファンタジーの世界に紛れ込んだような気がして……ワクワクが止まらないでございまするな。」
「せやな。」
レイヒト君とプグナコちゃんが、キラキラした目をしながら、ウラオラの町の城壁を眺めてる。
「ごめん。少しだけ……我が儘な行動をする。
雪だぁぁぁぁー!」
嫁が、そう言うと、雪掻きをした時に出来たのであろう、雪の土手によじ登ると……そのまま、新雪の中にダイブした。
「うわぁ……丁度良い深さだわ!」
嫁が、そう言いながら、身体を起こす。
降り積もった雪の深さは……嫁の腰ぐらいまで積もっているらしい。
たった数時間で……良く降ったものだ。
「ウチも!ウチも!飛ぶでぇぇぇ!」
プグナコちゃんが、そう言うと雪の土手から嫁の近くにダイブした。
「なんか……スミマセン。」
「まぁ……独特なやり方のような気がするが……緊張を解しておるのだろうて。」
「だろうね。
ウラオラの町のギルドの連中が、キャビン付きのスノーモービルをここまで運んで来てくれるまでの数分間だけでも、存分に雪遊びを楽しませてやれば良いさね。」
ダラダさんと、シャンシさんは、穏やかな顔をしながら、雪合戦を始めた、嫁とプグナコちゃんを見ている。
「サクモ殿も、プグナコ殿も……良く雪の中で遊べるものでございまするな。
拙者は……お二人を見ているだけで、凍え死にそうな気分でございまするな。」
レイヒト君が、ガタガタと震えながら嫁とプグナコちゃんを雪の土手の上から眺めている。
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
【グォォォォーン】・【グォォォォーン】
遠くから機械音が聞こえてる。
「サクモちゃん。プグナコちゃん。
ウラオラの町のギルドの連中が、キャビン付きのスノーモービルを持って来たぞ!」
「はぁ~い。直ぐに行きま~す。」
「直ぐ、行く~。」
シャンシさんの声掛けに、嫁とプグナコちゃんが答える。
いよいよ、元の世界(ムシュ イム アン キ)に戻る為の最後の仕事が始まる。
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