才
俺は今後ろの席の後ろで立っている。
「ルー、また遅刻したね。私の授業で何回目よ。
で、宿題は勿論やってきてるよね?」
「は、はい。これです。」
鞄からプリント2枚を取り出し先生に渡す。
「はぁ、この量の宿題を完璧にこなせるだけの力はあるのに、なんで肝心な部分ができないのかねぇ。
宿題に免じて今日の遅刻は勘弁しといてあげる。」
「いいのかよ、先生、こいつもう遅刻魔だぜ。」
「サード、お前は宿題いつもやってないだろ。」
「うっ。」
「それにな、宿題やってきてるのルーだけだぞ。こんな授業を聞いてれば分かる問題をルー以外の奴は毎回やってきてないんだぞ。先生、困っちゃうよ。」
「すみませんでした。」
毎回こんなやり取りをしている。
いつもと変わらない生活、遅刻以外は大好きな日常だ。
「今日の授業は、己の力量を知ること。前回の授業では、自分自身の魂について学んだだろ。今回はそれについてもっと詳しく知ることだ。じゃあ、最初にペア作れよー。」
”魂”
人に必ず存在する才能のこと。
例えば先生。先生は【小知識】という才をもっている。
元から人に教えるのが得意なそうで、まさにこの職は天職と言えるらしく、学園の先生をやっているらしい。自分の知識を共有するのが趣味らしい。
「今日もペアでいいよね。」
いつも俺とペアになってくる、トモエという女子。
彼女は人望が強く、表情豊かな人物だ。
「ペアになったら、この水晶をもってけ。これは前回の授業で使ったものの、上位版だ。
手を触れるとこのように文字が浮かび上がってくる。リストと照合してみ。自分の才がどのくらいか知ることは大切だ。」
先生の水晶には【小知識】と文字が出ていた。
「ルーくん。まず私からやってみてもいい?」
「あぁ、いいぞ。」
トモエが水晶に手をかざす。
透明な水晶が光り、薄いオレンジ色になった。
そこには【支配】、【協調】と2つ出ていた。
「【支配】、【協調】って出てるぞ。」
「なんか怖そうねぇ、リストで見てみましょ。」
リストから探してみる。
「わぁ!嬉しいわ!!2つともSランクの魂じゃないの!」
一斉にみんながこっちを向く。
それと同時に悔しがる声と共感する声が聞こえてきた。
「いいなー、俺なんてCランクだぜ。」
「さすがトモエさん!」
「人望が出てるわー、すげえや。」
「俺もそのぐらいのが良かったなぁ。」
様々な声が聞こえる中ただ一人、先生は何とも言えない表情をしていた。
「ルーくん、次は君の番よ、手をかざしてちょうだい。」
俺は自分の才をすでに知っている。
俺は5つの才を持っている。このことを知ってるのは俺と妹の二人だけ。
そして才の数とランクが多く、高いほどその人がどこに行くのかを知っている。
行先は学園とはかけ離れたいわば戦場。
一般的に才が多くランクが高いものは即戦力で1週間の教育を受けた後、戦場行きとなる。
逆に才が少なくランクが低いものはこのまま学園で過ごし、卒業する。
戦場から無事帰ることができたならそのまま学園に戻ることができ一緒に卒業することができる。
帰れなかったら、どうなるかは想像におまかせする。
そのことを知っている先生は複雑そうな表情をしていたのだ。
そして、俺は自分でも驚愕するほどのチートともいえる才を持っている。
そのうちの一つである、【虚偽】。
端的に言うと、内容を書き換えることができる。
「うーんと、【回避】って書いてあるよ。リストに照合してみると...Dランクだってさ。」
みんなからの視線を感じる。
それもそうだろう、Dランクは一番下の才だ。
みんなの表情から見て俺が一番このクラスで下だったんだろう。
「まぁまぁ、そんな落ち込まないで。気楽にいきましょ。」
トモエが慰めてきた。
「えーと、皆さん。自分の思ったものと同じだったり、違ったりとそんな人が多いと思いますが、トモエさんの言うようにそんな気にしてはいけません。先生も最初はこれ何に使えるんだろうと思ってたけど、今このように天職に巡り合えています。」
先生の言うとおりだ。
こんな嘘のような才でも何かしらに応用することはできる。
「それでは結果を収集します。」
先生は水晶を回収していきメモを取っていた。
「では結果を共有したいと思います。
まず、トモエさん。おめでとう、Sランク2つも凄いですね。
そしてナエさん。これも凄いですよ。【吸収】は100人にいるかいないかのレアな才です。
最後にユヅキくん。Aランクの【反対】とSランクの【音響】。今年は凄いですねぇ、本当に。」
ああぁ、かわいそうに。これから自分がどこに行くとも知らずに。
「では3人はこれから才についての詳細な説明があります。別室に行ってください。(お元気で...。)」
最後に微かな声で悲しそうに聞こえた。
自分の才にうきうきとしてる3人は手を振って教室を出ていった。