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後日談(私の)


 一日に一本ずつ投稿していきます。全7話で完結予定です。


※この作品は、一定の文字数で完結させる練習及び実験的なものです。



■ 後日談(私の)



 「青春したいねー」


 校舎の渡り廊下、縁に背中を少しばかり預けながらちょっと見上げれば、青緑とも灰色とも言えない絶妙な空が浮かんでいた。そういえば、今日の夜から台風が通過するとニュースでやっていた。

 ああ、青春はせっかく「青」と漢字が入っているのに、気持ちと空模様がアンマッチだ。空は私の求める色をしていない。

 さてと、私はいま「青春したい」と聞こえるように言ってみたのだけれど、斜め前にいる「梨中なしなかひより」と「鈴木朝陽すずきあさひ」は漫画の話で盛り上がっているみたいだ。

 それにしても、私のぎりぎりパーソナルエリア内にいるはずなのに、このオタクガールたちは・・・。と、背中を軽く反動つけて起こして近寄る。


「いやだからお前たち、青春したいねって言ってるのだが。はい、リアクションちょうだい」

「・・・嫌だよ。めんどい。でさ、今年リメイクされるんだよ。でもまたつまらなかったら損した気分になるからなあ。やっぱ原作が真理で至高だよね」

 と、少し間を置いて、ツンとした表情で一瞥だけしてすぐに漫画話に引き戻したのが鈴木朝陽。通称アサヒンだ。そして、もう一人向かい合っているのが梨中ひより。ひよりんがポツリと言った。


「青春、したい。青春・・・死体、ねー。青春死体? 雨ちゃん青春と死体って、なに?」


「ちがうちがう! 死体じゃない。そんなサイコじゃなくて、単純に青春を味わいたいって・・・」


「そうだよ、ひより。それに青春と死体って言ったら『シットダウン〜そこには死体がある〜』でしょ。私は観たことないけど、でもテーマがセンスあるよね」 


「待て待て! オタクガールたちよ。すぐに話を持っていかないで、まずは私の相談にのってよ!」


 アサヒン、ひよりんとは、昼休みにはこうして集まると、漫画やアニメ、ゲームなんかの話をして花を咲かす。気心しれた共通の趣味を持った良き友人たちだ。これはこれで楽しい。けれど私は桃色の青春がしたいのだよ。そんな旨を明かしてみたのだが。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 え? なに急な沈黙。


「ほら、・・・相談ってなに。早く話しなよ」

「え、あっ、はい。・・・アサヒンのその急旋回はいつまで経っても慣れないよ」



 ーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー

 ーーーーーー

 ーーーー

 ーー



 私たちは、女子高校生だ。2年生だ。共学だ。そして彼氏はいないのだ。

 わたくしの名前は「石神雨子いしがみあめこ」産まれた日に雨が降っていたから雨子という。ちなみに二十歳になる姉がいて、名前は雪乃。お察しの通り産まれた日に雪が降っていたからだ。ああ、なんて安直なんだろううちの両親はっと、話が脱線しそうになった。

 まあ、そうね。あと私のことを話すとしたら、そうだな、自他ともに認められる地味な女子ってことくらいかな。こう、よくあるさ。クラス内のカースト、ピラミッドの最下段と真ん中を行ったり来たりするような、そんな立ち位置にいるのだけれど、私のふらふらライフを共にしてくれるのが、アサヒンとひよりんだ。まあ、二人は私に比べて可愛いんだけどね。


「・・・だからね。私の懐はさみしいのよ。あっ、懐ってお金ってことじゃないよ。まあ潤ってはないけどさ。人肌がね、恋しいのよ」


 腕を組みながら少し身を寄せて、自分で自分を温めるような仕草をすることすら寂しい。ため息だって溢れてしまう。物憂げに二人を見ると。


「で、全集の中から何個かアニメ化されるんだよ」

「なるほど。梨中も試しに観てみようかな」


「ねえねえねえねえ! アサヒン、ひよりん! どうしてなの? 一拍おいたら普通話聞いてくれるよね大体の人はさ!」


「いや聞いてるよ。青春とか人肌恋しいとか、結局どうしたいのさ」


「男だよっ! わかるでしょ! 青春を謳歌したい年頃の高校生は彼氏がほしいんだよ!!」

 そう言って、丁度良く抱き心地のよいひよりんの体にしがみつく。


 「そんなことより、雨ちゃん。さっきからお腹鳴ってるよ?」ひよりんは抑揚のない声色で言った。


「はあ、ほら聞いてよ、お腹の音がズーズーいってるよ。なんかお腹の音すら可愛くないんだけど」


「いやわかんないよ。それにお腹の音はクークーでしょ。ねっ? ひより」


「クークーといえば、ホワイトショコラっていうノベルゲームに『クークー・ヨシノ』っていうキャラクターがでてくる。ヨシノはね、ある日右腕をプロペラに改造されてしまって、そんなことをした敵を倒すために旅をしながら右腕を元に戻すための物語で・・・」


「いや世界観厳ついな! てかそれノベルゲーなの? あらすじがめちゃくちゃアクションなんだけど」


「あっ、あっそうだ。梨中この前、同じクラスの男子に告白されたかな?」


「急な方向転換っ! しかもなに、告白されただあ!?」


「アクション苦手だし、ノベルゲーなら触ってみようかな」


「さらに強引な軌道修正っ!? え? 会話の脈絡が意味不明だよ。ちょっとストップ! そこじゃない! 私が気になるのはそこじゃないから。ひよりん告白されたって、誰からなの?」


「・・・・・・さあ?」

「えー・・・」


 とぼけ顔のひよりんに呆れながらも、まったくこの天然系美少女ちゃんは、望まなくともホイホイと男が寄ってきよってからに。


「それでなんて返事したの? まさか誰だか忘れているような男の告白をオーケーはしないだろうけどさ」


「・・・告白のセリフが、『現代古典色恋イロハ』っていうエロゲに似てたから、あらすじを話していたら返事をする前にどこかへ行ってしまったのでした。梨中はネタバレを踏まないように話したつもりだったのに」


「ええー、それはもう告白した男子に同情を禁じえないよ。下手したらトラウマもんだよ」


「あっ、雨ちゃんまたお腹鳴ってる。・・・グルグルだって」

 そう言うとひよりんは私の傍で体を屈ませる。

「子供を授かった妻のお腹に耳を当てる旦那みたいに聞かないでえー」

 と、ひよりんとそんなやりとりをしていて、ふっとアサヒンの方を見た。どこか頬が赤らんで見える。どうしたのかと聞こうとしたとき、アサヒンはぶっきらぼうに言った。


「おい、ひより。その、あれだろ? エロゲって18禁だろ? 未成年で、その、やめときなよ」

「でも、どんなゲームでも触れとかないと」

「ダメなもんはダメだ! もっとこう全年齢向けのだな・・・」

「でもさあ、アサヒンだって結構どぎついエロ描写のある漫画読むし、あんまひよりんのこと言えなくない?」

 私の背後から「そうだそうだ」とひよりんが言う。


「うっ、いやそれは、私が読んでるのはその、そういう描写があるものもあるけど、それは物語の展開上必要な描写であって、私が選り好んで見ているわけではないというか、そのー、そう! 芸術の一つだから!」


 ・・・・・・

 ・・・・・・


「そのジト目で私を見るなっての!」

 アサヒンはさらに頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。その仕草がおかしくて、そして何より可愛らしくて思わず笑ってしまった。アサヒンのその古典的ツンデレ美少女は何なのだろうか。破壊力抜群の可愛さに再び溜息が溢れそうになる。


「とろこでアサヒンは? なにかこう浮いた話しはないわけ?」


「私は自分の好きな物に囲まれていたらそれでいい」


 そう言って、アサヒンは細い顎を傾けてつまらなそうに目を瞑る。


「あーあー、アサヒンもひよりんも顔面が整ってるから、私みたいな悩みもないのでしょうねえ」


「そんなことないよー」


「いや、そんなことあるんだよ! ひよりんは天然不思議ちゃんでおっぱい大きいし」


「そんなことないよー」


「アサヒンはモデルさんみたいに身長も高くて足も長いし」


「そ、そんなことないよー」


 ・・・・・・


「いやっ! そろそろ私のことも褒めてよ! 褒められたら褒め返す、私だってタダで褒めてるんじゃないのよ。褒め返されるという見返りを求めて褒めてるのだけど!」


 私がそう捲し立てると、ひよりんは、トトっと寄ってきて頭を撫でてくる。


「・・・雨ちゃんは、・・・キュート」

「ええー、どこがあ? 溜めて出された称賛がとてもシンプルな慰めでした!? ・・・はあ。どうせ、私なんて魅力亡き女ですよ」


 ・・・・・・

 ・・・・・・


「雨ちゃん大丈夫だよ」

「まあ、大丈夫じゃね?」

「・・・二人して簡単に気休め言うね」


「気休めっていうか、雨子は・・・。まあ、それに慰め合っても仕方がないことだろ。時間の無駄だよ。それより好きなものを語らっていた方が有意義だ」

 そうアサヒンは言った。


「はい、急な正論は受け付けていません。二人ともTHE女子の見た目なのに、なんでかこう趣味嗜好が尖ってるというか・・・。人のこと言えないけど」


 まあ、そんな時間が楽しいのだけれどね。



 チャイムが鳴った。昼休みが終わる頃だ。私たちは、並んで教室へと戻っていく。移動中、台風がやってくる影響なのか午後から閉校となり、強制下校となった。午後の授業がなくなって浮足だつクラスメイトに向かって担任教師は「くれぐれも外に遊びにでるんじゃないぞ。まっすぐ家に帰って大人しく家にいるんだぞ」と言った。

 窓の外を見ると、たしかに今か今かと台風が荒れ狂う準備を上空で始めているように見える。灰色の雲が速く流れている。


 斜め前の方を見れば、軽く振り返るアサヒンと目が合った。どこかハッとした表情を浮かべるとすぐに前を向いた。その様子を不思議に思いながら、私は帰り道に二人に何の話をしようかと考えていた。

 私は、こういうことを考える時間が好きなんだな。


 大好きな友だち、大好きなものを語らい、放課後の帰り道、それが揃えば他になにもいらない。


 あーあ、ずっとこの時間が続けばいいのになあ。



 ・・・なんてね。



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