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金属バット

俺には許せないことが二つある。

一つはお弁当に入ってるぬるいプチトマト

もう一つは平気で人を傷つけられるやつだ。


そう思いながら、四角いお弁当の中で寂しそうに

残されたプチトマトを箸でころころ転がしていた。

まだ昼休憩だというのに憂鬱な気持ちだ。


社会の歯車になって15年。

辛く厳しい日々を乗り越えて手に入れた物といえば、

月手取り30万と係長という役職だけだ。

友人、彼女、からの結婚、子供、その他イベントに

は全てスキップで対応してきたわけだが、今となっては

片足失ってでも取り戻したい眩しい青春なわけである。


「キーンコーンカーンコーン。」


チャイムが昼休憩の終わりを告げる。

俺はまた地獄へ戻る。



一息ついてふと時計に目をやると、もう21時半を

回っていた。

「そろっと帰るか。」

身支度を整えて会社の外に出る。

空は曇りで星は無く、それがまた俺を憂鬱にさせた。


帰り道の途中、暗い路地がある。

よくアニメや漫画で女の子が不良とかに

絡まれているときに出てくるような路地だ。

毎回そこを通るたびに何も無いとわかりつつも、

一応覗き込んでしまう俺なのだが、当然いつも何も無い。


いつもはだ。


今日は違った。路地手前で聞こえる男の

「少しぐらい良いだろ?」という声。

「やめて下さい!」と女性の声。

 

これはまさか。


忍足でそっと路地を覗き込む。  

そこには、おそらく高校生位の女の子と

いかにもな不良3人がいた。

「あんま俺たちを怒らせんなよ?」

3人の中でリーダー格であろう、金髪の馬面が

言う。

俺はポケットの中のスマホを取り出した。

警察にかけなきゃ。

頭ではわかっていた。だがこの時の俺は

残業の疲れからか、または人生の疲れからか、

どこかハイになっていたのだろう。

「やめろよぅ!」

裏返った情けない声が路地に響き渡る。

「何だお前?」

馬面がこちらを睨みつけて言った。

明らかに俺と目が合っている。

いつのまにか俺は路地に入っていたようだ。

俺は一体何をしているんだ?

頭の中ではベートーベンの運命が流れていた。

「なんか用かって聞いたんだよおじさん。」

おじさん?俺のことか?ああそうだよ。35はおじさんですよ。

でもいきなりそれは失礼じゃ無いの?そんなんじゃ社会出てから苦労しやがりますよ?まったく。最近の若い子は怖いね。


「とりあえずお前、ミンチな。」


馬面が言う。

ミンチ?あーハンバーグでも作るのか?

お前?いやこの場合、おれ?俺はひき肉?

人間咄嗟の時に頭は回らないものだな。


「いやちょ、ま!私はひき肉でゃ!」


ろれつも回らなかった。


「かっこいいね。お前。」


そう言って笑いながら近づいてくる。

馬面が。この馬面如きが。大体馬面に碌な奴は居ない。

内野部長とか。

馬が俺の目の前まで来た。

瞬間、俺の頬に衝撃が走る。

倒れ込む俺。俺は殴られたのか?

考える間もなく次々と衝撃が来る。

俺は体をうずくまる事しか出来なかった。


そこからはあまり記憶が無い。

ただ、意識の薄れていく中妙な声を聞いた。

それは車のナビのような、何ともいえない声だった。


「ハローハロー。これから時空間移動を開始します。


「尚、身体能力、性別、人格は現個体を参照。」


「そして新たに、スキル【不老輪廻】を獲得。」


「それでは新たな人生を。ハピハピー。」


ハピハピー。




風鈴の音で目が覚めた。

今何時だ?てかアラームなったか?

出勤しないと。

あれ?ここどこだ?


辺りを見渡すと一面草原が広がっていた。

何処からか小鳥の鳴く声がする。

ここは天国か?

そう思いながら、俺は手元に

不釣り合いに転がっている金属バットを見ていた。


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