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おそらくスライムにとっては災難だった日/デニス【記念企画/ゲスト様ご来訪話(2)】

【ケモモフ、ノベプラ&アルファ掲載一周年記念企画】

 カクヨムで連載中の『おじさん魔法使いと押しかけ女子大生 ~彼は恋を思い出し、彼女は再び恋をする~』(日諸畔先生)から、里中健司さん、山崎明莉さんにゲスト出演していただきました。


※ゲストさんの作品世界とケモモフの作品世界が交差している設定の作品内フィクションです。ご了承下さい。時系列は初期の頃の話になります。


◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。

・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者


(2021/11/06 掲載)

 普段はこんな低ランクのクエストを、わざわざ受ける事はない。こういうのはまだランクの低い奴らの為に残しておいてやるべきだと思っている。

  でも今日は、このクエストを受けてくれる者が居ないんだと、冒険者ギルドの受付嬢に手を合わされて、しょうがないなと依頼のカードを受け取った。


 冒険者8年目でAランクの俺には、このクエストをこなしてもなんのメリットもない。

 せめて若手を連れて行こうかとギルド内を見回していると、ちょうどやって来た狼獣人のリリアンから逆に声をかけられた。

「デニスさん、どうかしたんですか?」

 彼女ならまだ冒険者1年目だし適任だろう。クエストの話をすると、尻尾を振って快諾してくれた。


 * * *


 クエストの為に森に入り獣道をしばらく進む。ふとリリアンが怪訝(けげん)な顔をして立ち止まった。


「……何か、居ます」

「魔獣か??」


 森の中で魔獣に出会うことは珍しいことではない。でもリリアンは首を横に振った。


「いいえ、違うみたいです。でもなんだか不思議な匂いです」


 リリアンは狼の獣人なので、やたらと鼻と耳が利く。


「ちょっと辺りを探してみてもいいですか?」

 ああと(うなず)くと、リリアンは森の奥に向かって歩き始めた。



 何かの匂いを辿っているリリアンに付いていくと、すぐに目当てに当たったらしい。

「どなたか、そこにいるんですか?」


 相手は人なのだろうか? リリアンが向こうの木立ちに向かって声をかけた。



「ああ、よかった! 私、迷ってしまって…… ええっ!? 耳!? 尻尾!?」


 木立ちから出てきた長い黒髪の少女は、リリアンの姿を見てやけに驚いている。まるで異様な物を見たかのようだ。

 年頃はリリアンと同じか、少し上くらいだろうか。安全とは言えない、こんな森の中に居るのに、武器すら携帯していない様子なのが気になった。


「あの…… この近くでイベントか何かがあるんですか?」

「「えっ!?」」


 何故か、妙なことを訊かれた。


 * * *


「ご、ごめんなさい。てっきり仮装か何かだと思って……」


 少女はアカリと名乗った。

 彼女が話した事情を繋げると、気が付いたらこの森にいて、しかも夜を明かしたらしい。魔獣がうろつく森で、結界も張らずに夜明かしをして、無事で済んだのが幸いだろう。


 だが、どうもそれだけではない。

「重ね重ね申し訳ないのですが、連れが見当たらなくて…… 一緒に探してはもらえないでしょうか?」

 彼女だけでなく、もう一人いたらしいのだ。


「はい。大丈夫ですよ。探し物は得意ですから」

 リリアンはそう言って、狼の耳をわざとピクピクさせて見せた。



 リリアン曰く、アカリさんから嗅ぎ慣れぬ匂いを感じたそうだ。

 そして、狼獣人の彼女が本気を出してそれに似た匂いを探し、さらに聞き耳を立てると、半時(はんとき)もしないうちに探し人を見つけることができた。


「健司おじさん!」

 少女が駆け寄って行く先に、やはり武器も持たずに少し変わった服装をした男性が座り込んで居た。彼女が『おじさん』と呼ぶように、見た感じだと30代半ばだろうか。


「ああ、山崎か。無事でよかった。 いたたたた……」

「ああっ もしかして、恒例の筋肉痛ですか?」

「ああ、まさかこんなところで」

 そう言いながらちらりと俺たちの方を見た。


「山崎、そちらのお二人は?」

「私の恩人です。一緒におじさんを探してくれたんですよ」


「無事に会えて良かったです。森には魔獣がうろついてますからねぇ。ところで、筋肉痛って聞こえましたが」

 落ち着いた口調でリリアンが声をかける。アカリさんと違って、ケンジと呼ばれたこの男性はリリアンに警戒している様子もない。それならこういう初対面の相手の対応は、基本的に女性に任せておいた方がいい。


「ああ、ちょっと。いやだいぶ、体のあちこちが痛くて……」

 ケンジさんが申し訳なさげに頭を掻いた。


「デニスさん、回復のポーション持ってましたよね」

「ああ、持っているぞ」

 腰に下げた小型のマジックバッグに手を入れる。


「ポーション?」

 アカリさんが首を傾げた。まさか、ポーションを知らないのだろうか?


 * * *


 リリアンは相変わらず手際が良い。


「お二人ともお腹が減ってるんじゃないですか?」

 そう尋ねて、二人が首を縦に振るのを確認すると、周囲に結界を張りマジックバッグから出した敷物を手早く敷いた。


「デニスさん、クッションとカップを並べて下さい。あとバッグに茶葉とポットも入ってますから」

 そう言いながら、切り目を入れたパンを火魔法で炙り、ソーセージにも焼き目を付ける。


 先程の二人にクッションを勧める。彼らは目を丸くさせながらリリアンが料理をするのを眺めていた。何か物珍しいものでも見ているような、そんな様子だ。


「いや驚いた。リリアンちゃん、それはどうやっているんだい?」

「はい?」

「今、そのパンとソーセージを焼くのに、手をかざして焼いたように見えたんだが……」


「はい、火魔法ですよ?」

「え?! 魔法!?」


 リリアンの言葉に二人はえらく驚いている。どうしたんだろうか?


「お二人の故郷では魔法で料理はしないんですか?」


 その隣で、火魔法と水魔法を同時発動させて、茶葉を入れたポットにお湯を注ぐ。それを見て、さらに二人は驚いた顔になった。


「君も魔法が使えるのか!?」

「……キュウトウキ……」


 アカリさんの言った言葉はちょっと意味がわからなかったので、ケンジさんの質問に答える。

「そんなに珍しい事ではないと思いますが…… まあ、確かに魔法の同時発動はちょっとばかし複雑ですけど」


「いやそんな魔法、俺は聞いた事も見た事もないぞ。魔術でもない」

「マジュツ? なんですか、それは?」


 逆に尋ねると、ケンジさんは何かを深く考え込むようにしばらく口元に手を当てていた。

「俺らの使う魔法と、彼らが使っている魔法は全然違うものなのか…… さっきの、筋肉痛を治した不思議な飲み薬といい…… そうだとすると……」


 そしてアカリさんの方を向いて言った。

「どうやら俺たちは別の世界に来てしまったようだ」



 リリアンの作ったホットドッグを(かじ)りながら、4人で向かい合わせて話をする。

 互いの話を合わせてみた結果、やはり二人はこことは違う世界から来た事に間違いないだろうという話になったが……


「なるほど…… でも何故でしょう。ここに来る前には何があったんですか?」

 いまいち理解がついていけない俺と違って、リリアンはやけに冷静に二人の話を聞いている。別の世界だとかの話を、すんなりと受け入れているようだ。


「ああ、俺は『魔法使い』なんだけど――」

「健司おじさん、それ部外者に話しちゃっていいんですか?」

「ああ、本当はダメだけど、ここは日本じゃないみたいだから、大丈夫だろう」


 ケンジさんの話すところによると、二人は元の世界で『魔法使い』と『その助手』という関係らしい。そして、それは本当ならば人に話してはいけないらしい。


「将来的には助手から配偶者へのランクアップを狙ってます」

 ケンジさんの話には、こんな感じにアカリさんからの補足がところどころ入る。


 『魔法使い』は依頼を受けて『黒影』という人に憑依する化け物を退治するのが仕事なのだそうだ。

 その化け物退治の際に敵に襲われそうになったアカリさんを助けようと、使った魔法の加減を誤ったのだろうというのが、ケンジさんの見立てらしい。


「山崎の存在する場所をずらそうとしたはずが、まさか別の世界にまでずれるとは…… 痛いミスだなこれは」

「あの『黒影』はもう祓ったんですよね」

「ああ、だから依頼主はもう大丈夫だ。それが救いだな。事故だとしても、依頼を途中で放りだすなんて、免許剥奪(はくだつ)なんて事にもなりかねん」

「なら私は別の世界でも大丈夫ですよ。健司おじさんと一緒なら」

「いやいや、そういう訳にもいかないだろう」


 困っている様にも見えて、でも二人でいちゃついているようにも見えるのは俺だけだろうか。

 ケンジさんがああでもないこうでもないとうんうんと頭を捻る横で、アカリさんが程よく相槌を打っている。年の差はあるが、なんだか似合いの夫婦のようだ。


 そういえば、ケンジさんがアカリさんの事を『ヤマザキ』と呼ぶのは、彼女の苗字なのだそうだ。

 彼らの世界では基本は苗字で呼び、親しい相手は名前で呼ぶことが多いのだと。

「私は明莉って呼んでほしいんですけどね」

 アカリさんがそう言うと、ケンジさんは何か言いたげに口籠(くちごも)った。でも嫌がってる感じじゃなかった。



 お腹をすかせていた二人の為に、リリアンが何度かパンを焼き、俺が何杯かのお茶を淹れたところで、ケンジさんが「よし」と声をあげた。


「おおよそ把握できたぞ。多分、大丈夫だろう」

「帰れそうですか?」

 リリアンが尋ねると、ケンジさんは俺たちの方を向いて言った。

「ああ、計算上は。ここに来てしまった時と同じだけ逆にずらせば、元の世界に帰れるだろう」


 ケンジさんはそうは言うが、あれだけ頭を抱えていたのだから、きっと並大抵な事ではないのだろう。

 アカリさんが信頼を寄せている様子からも、おそらくケンジさんはすごい『魔法使い』なんだろうなと、そう思った。


「なら善は急げ、ですね」

 そう言うと、ケンジさんは一旦ああと返事をしてから、気が付いたように頭を下げた。


「食べ散らかすだけ食べ散らかしてしまって、申し訳ない。何か礼でもできればいいんだが……」

「いいんですよ。困ったときはお互い様ですし。今日の依頼をこなせば、パンとソーセージが山と買えるくらいに稼げますから」

 リリアンがそう言うと、アカリさんも「ありがとうございます」と言って丁寧(ていねい)に頭を下げた。



「もう一つ、先に謝っておかなきゃいけない」

 いざ帰る為の魔法を使う段で、ケンジさんが俺たちに向かって言った。

「魔法を使うときには、周りから魔力をもらう必要がある。もちろん、君たちからも少しずつ魔力を分けてもらうことになるが、これにはちょっとした反動がある」


「反動、ですか?」

「ああ、大した程ではないんだが。……魔力を分けてくれた人が、一時的に不機嫌になる。だから、あーー…… 俺たちが帰った後で、喧嘩(けんか)なんてしないように気を付けてほしい」


 うーん、俺が理由もなしにリリアンに腹を立てるなんて事は考えられないが…… リリアンは――

「はい、わかりました。大丈夫ですよ」

 俺の考えは、リリアンの言葉で遮られた。まあ、大丈夫だろう。



「じゃあ、行くぞ。山崎、ちゃんと俺に掴まっていろよ」

「はい!! なんなら今だけでなく、ずっと腕を組んでても私は嬉しいです」

 アカリさんがニコニコしながら、ケンジさんの腕に掴まる。ケンジさんはおい!とか言いながらもちょっとニヤけそうになってるみたいだ。


「本当にお世話になりました」

 アカリさんが言い、ケンジさんの手が光ると、二人はすぅと風に紛れるように消えていった。


 * * *


「じゃあ、片づけてクエストに行きましょうか」


 そう言って、テキパキと片づけるリリアンを見て、さっき彼女が言ったことを思い出した。

「なあ、今日のクエストは最低ランクのFのクエストだから、ソーセージを山と買えるほどの報奨金は出ないぞ」

 なんだかちょっと嫌な言い方になった。彼女に文句を言うつもりはないのに。


「ああ、そうでしたね。すみません」

 困ったようにリリアンが言うのを見て、しまったと思った。

 そんな事をわざわざ言わなくても、彼女が二人に気を使わせまいとしてそう言った事はわかっていたはずなのに。

 ケンジさんが言っていた、不機嫌になるってこういう事だったのか。


「いや、すまない……」

 それに気づいて謝ったが、リリアンは不思議そうな顔で少し首を傾げただけだった。



 その後の依頼のスライム捕獲で、リリアンは俺には手を出させない程に暴れまわって、依頼の倍以上のスライムをあっという間に捕まえてしまった。


「いっぱい動いたら、スッキリしました! これでソーセージも余計に買えますね」


 なるほど。表には出していなかったが、彼女にも魔法の反動とやらが少しはあったんだろう。

 もうそんな事はなかったかのように笑うリリアンは、いつもの元気なリリアンだった。

『おじさん魔法使いと押しかけ女子大生 ~彼は恋を思い出し、彼女は再び恋をする~』(日諸畔先生)


魔法使いの里中 健司(36)は、女子大生・山崎 明莉(18)に突如求婚された。

子供の頃に彼女を助けた魔法使いは、こう言ったそうだ。

『大人になって魔法使いと出会ったら、その人と結婚してあげて』

健司は気付く。

『え、それ俺じゃん』

その事実を知らない明莉は、魔法使いの助手(配偶者狙い)となることを申し出た。

おじさん魔法使いと女子大生の恋が、割と強引に動き出す。

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日諸先生、企画へのご参加ありがとうございましたー

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