冒険者見習いの頃~炎陽の季節~【1周年記念ゲスト様企画(2)】
【連載1周年記念特別企画!】
小説家になろうで連載中の『君の姿と、この掌の刃』(日諸畔先生)から、ヒロインのお二人、ホトミさんとリザさんにゲスト出演していただきました。
※ゲストさんの作品内の話は、ケモモフの世界にはありませんので、その部分のみ作品内フィクションとしてお読みください。
(2021/04/09 掲載)
日差しの強い季節がやってきた。
獣人の体はおそらく暑さには強くはない。いや、種族によるのだろうか。狼獣人の私にはふさふさの尾がこの季節には少しうっとおしい。
まあ、私には人間だった頃の記憶があるから、余計にそう思えちゃうんだろう。
バイト仲間のミリアちゃんも狐獣人だ。ふさふさの尻尾は私より大きい。その分、彼女の方が暑そうに思えるのだけど、いつもなんて事のないような表情をしている。慣れなのかなぁ?
有り難い事に、『樫の木亭』では魔道具で風を回しているので、屋外に比べると店内はだいぶ涼しくなっている。
今日は店が忙しくなるまでは、勉強をしていて良いと言われたので、お言葉に甘えて客席の隅に居場所を頂き、図書館から借りてきた本を読んでいた。
「いらっしゃいませー」と、ミリアちゃんの声が聞こえて、ハッと気がついた。いけない、つい夢中になってしまっていた。本を閉じ、傍らに置いてあったエプロンを手にして立ち上がった。
「すみません、気が付かなくって」
「あら、まだ勉強していて大丈夫よ?」
シェリーさんはそう言ってくれたけど、店の手伝いも住まわせてもらっている代金の一部なのだから、出来る限りはやらないとね。
ドアベルの音が次の来客を告げる。
「いらっしゃいませー、お二人ですか?」
いつもの様に声をかけたが、お客様の様子が少し……いや、だいぶ気になった。
まず服装がかなり見慣れない。どこか遠くの地方から来たのだろうか。女性の二人組。歳の差があるようで、二人の雰囲気がだいぶ違う。姉妹……にしては、似てる様にも思えない。それぞれ違うタイプの美人さんだ。
そして何より、片方の少女の方はふわふわと宙に浮いているし、体が半分透けて向こうの景色も薄っすら見えている……
いや、その光景の方が服装とか雰囲気とかよりも気にしないといけないはずなのに、あまりの事に思考が止まってしまったらしい。
皆も驚くだろうに。そう思ったけれど、何故か他のお客さんは彼女たちの様子を気にする風でもない。もしかして、他の人には見えないのかな?
「ねえねえ、良い感じのお店だねー 何食べるの?」
浮いている少女は明らかにもう一人――落ち着いたお姉さんに見える女性に声を掛けている。
でもお姉さんの方はそれには返事をせずに、でもちょっとだけ少女に視線を向けて目配せをした。
変わった二人連れだなとは思ったけれど、それを言うなら『神様に転生させてもらった』体験をしている私の方も普通ではない。人の事は言えないのかもしれない。よくわからないけど。
なんとなく人目に付きにくい席の方がいいような気がして、、まだ人の少ない方の壁際の席に案内した。
お姉さんの腕を取りニコニコと笑う少女は、ひっきりなしに「ねえねえ」と彼女に話し掛けている。メニューを指さしながら嬉しそうに何か話しているみたい。
色々と迷っていたようだけど、お姉さんが選んだのは今日の日替わり定食だった。
「そちらの方もご注文はご一緒ですか?」
そう尋ねると、お姉さんがひどく驚いた顔をして言った。
「貴女、リザちゃんが見えるの?」
今日の日替わりは、ヤマキジのソテーに野菜をたっぷり使った具沢山のソースが添えてある。さらに、燻製肉を散らしたサラダ。ジャガイモの冷たいスープも人気の一品だ。
しかもボリュームもなかなかな物で、半透明の少女――リザさんは食べる事が出来ないそうなのに、大袈裟に顔を綻ばせた。
お姉さんっぽい女性はホトミさんと言うそうだ。
ホトミさんがいいと言ってくれたので、同席してお食事の合間にお話を聞かせてもらう事にした。
リザさんは、本当なら他の人には姿が見えないらしい。『カムイ』という不思議な力が少女の姿をしている……とか、そんな感じのかな? その辺りはちょっとわかりにくかった。
「わからないけど…… 私は神の力に似た物を持ってるみたいなんです。だから、リザさんの事がみえるのかなあ?」
それが正解かどうかわからないけれど、そういう事で納得しておくことにした。
ホトミさんの向かいに座って話をしていれば、他からは二人だけで話をしている様にみえるだろう。実際は3人なのだけど。
リザさんは大層おしゃべりで、話す内容もどことなくとりとめない感じで。どうやら思いついた事をぽんぽんと話したいタイプらしい。彼女のおしゃべりの合間に、補完するようにホトミさんが説明をしてくれる。
「でね。私、タケキに殺してもらう約束をしたんだよ」
そう、あっけらっかんとリザさんが言った事には少し驚いた。
どうやら、そのタケキさんという男性は彼女らの共通の友人で、戦士として仕事をしているらしい。そして、彼がある人を殺した事がきっかけで彼女たちも知り合ったそうだ。
「うーんと。タケ君は殺し屋とかそういう物騒な感じじゃなくって。色々と事情があるだけなんです」
リザさんが言った言葉を気にしてか、ホトミさんがフォローの様な事を言った。
彼には『カムイ』を操れる不思議な力があるのだと、そして大事な探し物をしているのだと、リザさんがはしゃぎながら言った。でも良くない事に巻き込まれて、危険な戦いをしているのだと、ホトミさんが付け加えた。
食事の最後にと、氷菓子を持ってきた。
リザさんが食べられない事を気にはしたけれど。その彼女は氷菓子を匙で掬うホトミさんの手元を見て「きれいだねぇ」と言った。
刻んだ果物を中に散らした氷菓子は、匙で崩したところからキラキラと光を弾かせながら零れた。
「うん、きれいね」
ホトミさんが応えると、リザさんは嬉そうに笑った。
氷菓子の皿が空になった頃、「じゃあ、私たちはそろそろ……」と、ホトミさんが席を立った。
「お話ありがとうございます。お体に気を付けて下さいね」
そう言って二人を見送った。リザさんがふわふわと浮いたまま、ニッコリと笑って手を振った。
この出会いが偶然であったとしても、縁があった二人の……いや、3人の未来に、良い事があるようにと、そう願った。
『君の姿と、この掌の刃』(日諸畔先生)
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最初に人を殺したのは十五歳。
それから二年間は戦場で人殺しを続けた。
そして終戦から十年。
切り裂く事に特化した少年は軍を退役し、青年になった。
平穏を受け入れつつあった青年は、友の頼みから危険な『仕事』を請け負うこととなる。
青年は自身のもつ特殊な能力とその正体、そして見えない少女の核心に迫る事件に身を投じる。
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日諸先生、ご参加ありがとうございましたー