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冒険者見習いの頃~若葉の季節~【1周年記念ゲスト様企画(1)】

【連載1周年記念特別企画!】

 小説家になろうで連載中の『ウィッチ・ザ・ヘイト!~俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します。戻れと言われてももう遅い~』((有)八先生)から、主人公タクトさんと、リーフィリアさんにゲスト出演していただきました。


※ゲストさんの作品内の話は、ケモモフの世界にはありませんので、その部分のみ作品内フィクションとしてお読みください。


(2021/04/05 掲載)

 14歳になる前に故郷を離れた。


 本来なら15歳で終わる勉強は、13歳の時に終わらせていた。

 教師には優秀だと褒められた。だが、今の生ではないが一度は通った道ではあったし、そこに重ねてさらに勉強をするのなら、前世よりは上の成績でないとおかしいだろう。

 若いうちから『獣人の国』を出る事を許されたのは、その成績と兄の協力のお陰だ。


 前世で果たせなかった目的を遂げる為には、まず冒険者にならないといけない。その為には人間の国に行って冒険者見習いにならないと。



 前世ぶりの王都は、一瞬、以前と変わらぬように思えた。

 いやいや、そんなはずはない。あれから15年もたっているんだ。よく見れば見慣れぬ店もあるし、いつものポーション屋の婆様もすでに居らず、代替わりをしている。

 自分だってそうだ。あの頃の(アッシュ)はもう居ない。私は狼獣人のリリアンなんだ。


 懐かしい西の冒険者ギルドで見習いの登録を頼むと、初めて見る受付嬢が丁寧(ていねい)に冒険者活動の説明をしてくれた。

 若い女性、しかも獣人の冒険者は珍しいらしい。ギルドマスターがわざわざ私の顔を見に受付までやって来た。

 あの頃冒険者仲間だったマイルズは、すっかり貫禄(かんろく)がついたオヤジさんになっていた。


 * * *


 ここ王都シルディスに来て、1か月程が経った。


 居候させていただいている『樫の木亭』では、手の空いた時間には店の手伝いをする事になっている。この仕事にもそこそこ慣れてきた。


 店主のトムさんと、奥さんのシェリーさんは優しい方で、私が冒険者見習いとして活動している事も承知してくれている。しかもトムさんは、元はSランクの冒険者だ。

 西の冒険者ギルドの常連には、この店を利用している者も多い。

 お客さんの少ない時間なら、少し油を売っていても構わない。むしろ冒険者の先輩方の話は積極的に聞く様にと、アドバイスを頂いた。色々な情報が欲しい私には、それはとても有り難い。



 店のドアに付いているベルが軽い音を響かせた。この音は来客の証。拭いていた皿を置いて、急いでホールに出た。

 お客様に声をかけるシェリーさんの声に続いて、「いらっしゃいませー」と声を上げる。


 どうやらお客様は旅人みたいだ。

 この『樫の木亭』は、西門から中央にある公園に向かって延びる大通りに面しているので、旅の者もよく訪れる。

 そんな人たちは大抵、店に入るとまず立ち止まって辺りを一通り見回す。

 この二人もそんな風に辺りを見回しているが、どうやらちょっと様子が違う様に見えた。


 王都には色々な旅人がやって来る。男女の連れなのは珍しい事じゃあない。でもカップルやパーティーにしては、アンバランスな歳の差のよう。歳の離れた姉弟か、師弟か何かなのかもしれない。


 赤い髪の少年は始終(うつむ)き加減で、しきりに周りを気にしている。私とあまり変わらない位の年頃の様だし、まだ旅の経験も浅いのか。見知らぬ町に来て、緊張でもしているのかな?


 もう一人は気の強そうな緑の髪のおねえさんで、先輩冒険者のデニスさんと同じくらいの年頃だろう。


 ああ成程。この二人の関係は、ちょうど私とデニスさんを反対にしたみたいなんだ。そんな想像をしてしまって、自分でちょっと可笑しくなった。


 店に慣れぬ旅人なら落ち着ける席が良いだろう。(にぎ)やかな常連客から離れた、壁際の席に案内した。



「なんでもいいから適当に見繕(みつくろ)って持って来てくれ」

 席に着くとメニューも見ずに、さっぱりとした言い方でおねえさんが言う。

「えー、俺、せっかくだから、ここの名物とかが食べたい」

 まるで(すが)りつくようにメニューを眺める少年に、おねえさんが首を傾げた。


「タクトはそういうシュミがあるのか」

「シュミって……そんなんじゃないけどさ。俺はリーフィリアみたいに旅慣れてないから、知らない土地の料理は珍しいんだよ。なあ、何かおススメあるかなぁ?」

 最後は私の方を見て言った。


「それなら、この西地区で評判の肉屋特製のソーセージが入ったところですよ。今日は野菜がたっぷり入ったポトフでお出ししています」

 そう伝えると、少年がごくりと唾を飲み込んだのが聞こえた。


 結局、二人ともポトフを注文した。



 厨房に居るトムさんにオーダーを伝えて、またホールに出た。少し賑やかな二人の様子にちょっと興味が沸いている。

 まだ来客も少ない時間だし……


 カウンターに居るシェリーさんをちらりと見ると、何故か目が合った。おいでおいでと私を手招きする。

「ちょっと早いですけど、先にご飯食べちゃいなさい」

「え?」

「あの旅人さんのお話、聞きたいんでしょう? 旅人の話を聞くのも、冒険者としては大事な事よ。トムに(まかな)いを作ってもらいなさい」

「!! はい!」


 早速、二人に同席させてほしいと願うと、快く承諾(しょうだく)してくれた。



 大きくカットした野菜がたっぷり入ったポトフには、やはり大きめのソーセージが2本も入っている。ソーセージにナイフを入れると、染みだした肉汁がスープに溶け込んでいった。


 食事をしながら色々と話を聞かせてもらった。もう1週間ほどの間、二人で旅をしているそうだ。


「へー、リリアンさんも冒険者なんだ。やっぱり魔法も使えるんだろう?」

 少年――タクトさんがそう言うのには、なにやら複雑な事情があるらしい。女は魔法が使えていいよなーと、何故か彼は羨ましそうに言った。 


 二人は、タクトさんの生まれ故郷の村を目指しているそうで、またそれについても不思議な話を聞いた。

 タクトさんは『敵視(ヘイト)魔法』という、変わった魔法が使えるそうだ。でも、その魔法の効果によって、故郷の皆から……両親にすら嫌われ、逃げるように村を出たのだと。

 村を出て辿(たど)り着いた先で、新しい仲間が出来て、新しい冒険をして…… でもその仲間とも、今は離れてしまったそうだ。


「アイツらを取り戻したいんだ。その為には、もっともっと強くならないと……」

 その為に、今はリーフィリアさんと二人で旅をしているのだと。


「今のタクトの仲間は、私だけだからな」

 『仲間』の部分を協調するように、リーフィリアさんが何故か誇らしげに言った。


 食事の最後にキイチゴのムースを出すと、二人とも喜んでくれた。

 故郷を追われた話をさせてしまった事を、少し申し訳なく思っていたけれど、二人が笑顔になってくれた事でちょっとほっとした。


 まだまだ旅は続くそうだ。

「またお仲間さんたちと冒険ができるようになるといいですね」

 別れ際にそう言うと、二人とも笑って手を振り去って行った。



 立ち去る二人の後ろ姿に、さっき話で聞いた「仲間」と歩く姿を思い浮かべた。

 ああそうだ。私にも過去に「仲間」とこの町を歩いた思い出があった。もう会えぬ仲間たちを思い浮かべて、痛む胸にそっと手を当てた。

『ウィッチ・ザ・ヘイト!~俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します。戻れと言われてももう遅い~』((有)八先生)

https://ncode.syosetu.com/n7995gq/


 少年タクトは冒険者なりたかった。しかし“男は”冒険者になれない……魔法が使えないからだ。女だけが魔法を使える。それが十五年生きて知った世界の常識だった。


 夢だった冒険者への道を否定され、意気消沈するタクトの前に“魔女”と名乗る老婆が現れる。

「お前さんに魔法を使わせてやろう」


 魔女から与えられた『敵視ヘイトを自身に向ける魔法』の力により、村の全員……実の両親からも憎まれ、村を追放される。

 タクトは一人決意した。「最強の魔術師になって、馬鹿にしてきた奴らを見返してやるッ!」


 これは、与えられた特異な魔法を武器に、世界でたった一人の“男の魔術師”を目指した少年の物語。

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(有)八先生、ご参加ありがとうございましたー

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