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迷子の子2

「お嬢様!」


「いてて……」


 普段鍛えているとは言ってもまだ子供。

 アリアは堪えきれずに尻もちをついた。


 ぶつかってきたのも子供で、別の子の手を引いて走っていたようだった。

 フードを被っていて顔はよく見えないが男の子のようだ。


 手を引かれているのも男の子であるが手を引いている子より少し幼そうである。


「おい待てガキ!」


 そしてそんな子供たちを追いかけてくる男たちがいる。


「レンドン、ヒュージャー!」


 レンドンとヒュージャーが走ってきた子供と追いかける男たちの間に割り込む。

 その間にアリアはシェカルテの手を取って立ち上がる。


「なんだお前ら!」


 興奮したような男たちはレンドンたちが何者なのか気がついていない。


「何がありまして?」


 レンドンとヒュージャーが男たちを押しとどめている間にぶつかってきた男の子に話を聞く。

 明らかに何か事情がありそうだ。


「アイツらこの子にスリの手伝いさせてるんだ!


 失敗したら叩いて……許せないよ!」


 どうやら手を引いていた男の子は余計なことに首を突っ込んだみたいだった。

 子供を使って悪いことをするのは良くあることだ。


 認めたくはなくともそうした行為が一定数世の中に存在してしまうことはどうしても止められない。

 基本的にはそうしたことに首を突っ込んではいけない。


 なぜならそこにも事情ってものがある。

 生活がある。


 当事者同士の関係があるのだ。


「なぜそんな悪いことを手伝っているのかしら?」


 アリアが手を引かれている男の子の顔を覗き込んで事情を聞き出そうとする。

 場合によってはこのまま子供を引き渡さねばならないような時もある。


「……盗みを手伝えばお母さんの薬くれるって……」


「ほら、アイツら悪いやつで……」


「あなたは黙っていなさい」


 アリアの圧力に手を引いていた男の子が口をつぐむ。

 助けようとした聞けば良いことのように思えるけれど細かな事情も知らないのに首を突っ込んで掻き乱すのは無責任だとも言える。


 今回はおそらくこの子は騙されているとアリアは思う。

 しかしそれはたまたまそうした事情であったというだけで他の事情であったこともあり得る。


 仮にこの子と男たちのうちの1人が親子だったなら。

 手を引いて逃げて、その先にどうするのか。


 親元に戻るしかない男の子がどんな目に遭うことか。

 仮に他人で、男たちが悪い奴だとして男たちと関わらざるを得なかった事情を解決してやらねば何も変わらない。


 今手を引いていた子のやったことはほとんどの場合で良い結末を生まない行いであるのだ。


「何も出来ないのに半端に首を突っ込むことほど迷惑なことはありませんわ」


「なっ……」


「この子の母親の薬代を払えまして?」


「えっ、今はお金なんて持ってないけど……」


「ならどうするつもりだったのですか?」


「それは……その…………」


 アリアの鋭い指摘に言い淀む。

 やはりどうするか考えていなかった。


 アリアは盛大にため息をついた。

 もう事が起きてしまった以上無視することはできない。


「あなた方、この子に盗みの片棒を担がせていたのですか?」


「チッ、なんだこのクソガキ!


 口出すんじゃね……いででででっ!」


 アリアにすごもうとした男の1人をレンドンが取り押さえる。


「お前こそこの方をどなたと心得る!」


「し、知るか!


 放せ!」


 もう1人の男が暴れ出さないようにヒュージャーは剣を抜いて牽制する。


「んー……」


 アリアは男の顎を持ち上げて顔を見る。

 いかにも人相は悪い。


 叩けば埃なんかいくらでも出そう。

 ここはエルダン家の領地であり、特に家があるお膝元である。


 そんなところで子供をダシにした泥棒が闊歩しているとあれば恥である。


「私の名前はアリア・エルダン」


「お前の名前なんか知るか……エ、エルダン?」


「知らないのでしたらそれでも構いません。


 警備隊にあなたを引き渡すだけですから」


「ま、待ってくれ!


 エルダンってまさか……」


 男の顔が青くなる。

 男たちの身が潔白だとしても貴族に暴言を吐いて手を出そうとしてしまった。


 それだけで逮捕されるには十分なことをした。

 さらにはエルダンの領地でエルダンに対して狼藉を働いた。


 それがどんなことを意味するのかは流石に男にも分かる。


「恥というものをお知りになってください」


「ま、待ってください!」


 騒ぎを聞きつけて町の警備隊が飛んでくる。

 今更敬語を使ったところでもう遅い。


 騎士を連れた子供などそうそういるものでもないのだから少し考えれば分かるはずなのに。

 手を引かれた男の子を逃して泥棒であると言いふらされては困ると考えて視野が狭くなっていた。


 警備隊に男たちを引き渡す。

 荷物の中から男たちのものではない複数の財布が出てきて、しっかりとした説明が出来ないとそのまま牢屋行きとなる。


「それではあなたの母親に会いに行きましょう」


 これで終わらせてしまえば手を引いていた男の子と同じになってしまう。

 関わった以上最後まで責任を持たねばならない。


 アリアは買い物を切り上げて手を引かれていた男の子の家に向かった。

 母親の病気の状態を確かめるためである。

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