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悪役令嬢、悪になる〜真紅の薔薇よ、咲き誇れ〜  作者: 犬型大
第二章

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迷子の子1

「レッツクッキング、ですわ!」


 回帰前は色々と料理をしたものだ。

 貧しくてものがなかったのでその中でどうにかするためにも料理で工夫するということをしていた。


 貴族令嬢の中には料理をしない人も多い。

 ビスソラダなんかは手が荒れると言って一切料理をしなかった。


 けれども料理をするということは様々な能力向上にも繋がる。

 手先の器用さだけでなく工程を考えたり同時並行的に物事を処理する能力など料理にはいろんな要素が求められる。


 料理スキルが上がってそうした能力も上がると料理以外のところでも能力は活かされる。

 さらには料理レベルが上がると刃物の扱いも少しだけ上手くなるのだ。

 

 微々たるものだけど料理レベルの違いによる差が命を分ける時が来るかもしれない。

 そうでなくとも普通に料理するのはアリアは好きだった。


 上手くやってきたので家がなくなることはなさそうになったと思うけれど人生何があるか予想はできない。

 ほんのわずかでも戦いにも応用できるスキルであるし料理が出来て損なことはない。


「うーん……ありませんわね」


 ということで買い物に来ていた。

 アリアには食べたいものがあった。


 とある果物なのであるけれど生ではあまり食べなくて加熱して食べると甘くて美味しいものである。

 加熱しなきゃ食べるのに厳しくて比較的安い果物でケーキなどにして焼いて食べるのがアリアは好きだった。


 けれど市場に出ても中々それが見つからない。

 回帰前に住んでいたところでは比較的手に入りやすかったけれどこのエルダン家がある町では一般的じゃなかった。


 まあ適当に色々買いつつお店を見て回る。

 いつも通り護衛はレンドンとヒュージャーだ。


 もうアリアの専任護衛騎士みたいな感じである。

 ただ2人も最初の頃と違ってやる気には満ち溢れている。


 短い間とはいえディージャンとユーラがいなくなるので家中にはゴラックとアリアだけになる。

 自然とアリアの立場は大きくなり、アリアに気に入られたい動きも活発になる。


 その中でもレンドンとヒュージャーはアリアに付けられて重用されているのでやる気も出るというものだ。

 実際ゴラックからアリア手当ても出ているのも大きい。


「何をお探しですか?」


「パップルという果物ですわ」


「パップル……私は聞いたことないですね」


 シェカルテもカインがいるので料理はする方だ。

 けれどあまりデザート系は作らないので果物には詳しくなかった。


「……アダノ青果店はどうでしょう」


「ヒュージャー?」


 話を聞いていたヒュージャーが珍しく口を開いた。

 ヒュージャーは真面目でそのためか非常に寡黙な男で無駄話をほとんどしない。


 レンドンが話しかけてようやく一言二言返すぐらいだった。

 自分の方から話しかけてくることも滅多にないのでレンドンも驚いた顔をしている。


 しかもまさかの内容の発言だった。


「アダノ青果店……ですか?」


「いろいろなものを取り揃えています」


 いつものように無表情で周りを警戒しているような雰囲気のヒュージャーだが良く見ると耳が赤い。

 放っておけずに口を出してしまったけれど男でそうしたイメージのないヒュージャーが果物について口を挟んだことが恥ずかしいようである。


「どちらにお店があるのか知っていますか?」


「……はい」


 店名までさらりと言っておいて店を知らないなんてあり得ない。


「案内、お願いしてもよろしいですか?」


「お嬢様がお望みならば」


 男が甘いものや果物を好きでもいいだろう。

 ただ意外と可愛らしいところがあるのだなと思うのは止められない。


「果物お好きなのですか?」


「…………はい」


「そうなのか?


 俺も知らなかったぞ」


 ヒュージャーが前を歩いてそれについていく。

 お店の多い道なので人も多く賑やかな通りを歩いていく。


 こうした雑踏は久々だけど人の活気を感じられてアリアは意外と嫌いじゃない。

 ただスリとか危ない人とかそんな可能性も大いにあるので護衛がいたとしても気は抜けない。


 回帰前お尻を鷲掴みにしてきたおじさんを捕まえて治安維持の兵士に引き渡したのはいい思い出である。

 これまでは短い付き合いだろうと思っていたレンドンとヒュージャーだけど意外と長い付き合いになりそうな気配もある。


 少しぐらい2人のことを知っておいても良いだろうと思った。


「レンドンはどんな物がお好きなのですか?」


「俺ですか?


 俺は……辛い物が。

 あとはお酒ですかね?」


「私は辛い物が苦手です」


「そういえばお前は食わないな」


「へぇ」


 レンドンの方はそんなに予想外でもない。

 軽く会話をしながら歩いていく。


 実はアリア専属の騎士を何人か選ぼうとしていることが裏で進んでいるのをレンドンから聞かされたり意外な発見もあった。


「アリア隊に立候補しようとしている騎士も意外といるんですよ」


「なんですの、その呼び方……」


 アリア専属の騎士のことを騎士たちの間ではアリア隊と呼ぶらしい。

 アリアからしてみれば恥ずかしいことこの上ない謎の呼び方でしかない。


「そのような呼び方やめて……きゃっ!」


 突然横道から子供が飛び出して来てアリアにぶつかった。

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